次が当帰四逆加呉茱萸生姜湯です。
これは四逆散じやなく四逆湯の流れですね。
ただ四逆散と四逆湯はこの付近になると、見た目は非常に近くはなってきます。
基本では四逆散と四逆湯の大きな違いは前にも言いましたが、
四逆散は体の芯は熱く、四肢は冷えており、四逆湯は体の芯も冷えていて、
四肢も冷えているということです。
四逆散の場合、交感神経緊張による血行障害ですから、
何となくどす黒い感じか循環障害という感じで、不足という感じではないのです。
四逆散の状態のときというのは、緊張が取れているときは結構普通に血が巡っています。
だから一時的な不足を生んでいるのです。
ところが、四逆湯の状態というのは、
本来反応性のものではなくて体質的なものですから、
体質的に血行不足があるので、いつも皮膚が淡いピンクで、
常日頃血流がないなというような感じになります。
抑肝散加陳皮半夏とこの当帰四逆加呉茱萸生姜湯の大きな違いというのは、
どちらかといったら、抑肝散加陳皮半夏が霜焼け的な感じであり、
当帰四逆加呉茱萸生姜湯は何かあかぎれ的な感じで色があまり良くないのです。
冬場の霜焼けみたいな感じになっているのが抑肝散加陳皮半夏です。
ピンクっぽくてかさかさになっていて、血が十分通わなかったために
冬にあかぎれになるのが当帰四逆加呉茱萸生姜湯です。
手足が冷たい患者さんを問診する時は霜焼けになりますか?、
あかぎれになりますか?と 私は聞いているような気がしますね。
あかぎれに冬中なる人は、基本的に当帰四逆加呉茱萸生姜湯と思って診ています。
だから、この当帰四逆加呉茱萸生姜湯の人も寒冷で悪化します。
この適用の方の病状というのは、寒冷、寒さにあうと増強するのですが、
この場合の寒さというのは冬の寒さです。冬は普通の人は逆に寒さにやられないのです。
冬は体の表面を閉じていますから。人間というのは冬の方が寒さに強いのですよ。
冬の期間で誰もが寒いとき、体の表面を閉じても寒さにやられるという人が
この当帰四逆加呉茱萸生姜湯なのです。
普通の人が1年中で一番寒さにやられるのはいつかといったら、
それは前も言ったと思いますが、ついこの間までの5月の初めから6月の初め頃までです。
変な風邪をひいたり、非常にあちらこちら痛がっている人が
結構皆さんのところに来たかもしれません。
5月の初め、二十四節気の暦を出してみると分かりますが、
立夏のときに衛気は夏の支配になり、心の支配に入りますね。(添付図)
人間の体の表面が心の支配に入りますと、精いっぱい動き回るためにすべてを開きます。
このときに外気温も上がってくれれば万々歳で、何の問題もなく動けるのです。
内地では結構この時期にはもう温度が上がるので、あまりこういう病気というのは
出てこないのですが、北海道はこの頃、結構リラ冷えにぶつかるのです。
そうすると衛がこの時期で心の支配になって全部開いていて、
営、即ち体の内部はまだこの後1カ月の間太陰経を回っているので
内部の火がまだ燃えないのです。分かりますね。
そしてちょうどこの後の芒種のときから営血も少陰経を回りだすので、
ここから内部の心の火が燃えてくるのです。
だから、5月の初めから6月の初めの時期は、体の表面は開いているのに
内部の火が十分燃えないので、外気が寒いと一番弱いのです。
この時期に寒さにやられるのは当帰四逆加呉茱萸生姜湯の人じゃないのです。
どういう人かというと、意外に太陰経の人です。
太陰経の人というのは、やっぱり肺や脾の働きが本質的には弱いわけです。
そして、体の表面の防衛力が弱いから、外からの邪が入ってきやすいのです。
なおかつその前に、これも表を見れば分かるように
営血は立春からずっと太陰なのです。太陰経が営血を一生懸命働かせているのです。
しかも立夏の前の十何日間、いわゆる春の土用に脾は更に精いっぱい働いているのです。
要するに、太陰が手いっぱい働いて、いっぱいいっぱいになってきているところに、
外が寒くなると、外部が侵入してきてやられてしまうのです。
このときに、 脾が非常に損なわれると、脾の大絡というところに発症します。
これは去年もお話したと思うのですが、外部が大包というところに入って、
本当に全身、すべての関節が緩んだようになってしまって、
力が抜けてしまって節々全部が痛くなります。
これは「太素」にしか書いていないのですが、
大包というのはそういう時に一番やられやすいのです。
こういう人に使う薬は当帰四逆加呉茱萸生姜湯じゃないのです。
何ですか? まだ話していない。
本来寒がりの人が寒い時期に、普通の人だったらガードできるのにできないで、
自然にやられたら、この当帰四逆加呉茱萸生姜湯ですね。
ところが、緩んでしまった初夏の時期に(特に太陰経の人に多いのですが)、
「夏になったし、少し薄着でいるか」と思って、思いがけない寒さの中でじっと我慢して
半日いたりして、その後具合が悪くなるという人もよくいますよね。
このときに一番効く薬は何なのかというと、これは五積散なのです。
一応、この当帰四逆加呉茱萸生姜湯はそういうことです。
ちょっと脱線しましたけど、冬の本来寒い時期に、普通の周りのほかの人は、
「今日はしばれたね」と言いながら平気でいるのに、どんどんあかぎれが出来てきて、
血行不良になってきて、いろいろ体の不調を起こすというのが
この当帰四逆加呉茱萸生姜湯の人です。
ただし最初に言ったように、これくらいのレベルになると、
抑肝散加陳皮半夏と、当帰四逆加呉茱萸生姜湯の証というのは
かなり入り交じっています。
厳密に区別しようとすれば、肝が主だったら抑肝散加陳皮半夏です。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯は、一臓診断では心か腎で少陰ですね。
ただ冬場というのは非常に、心や腎の診断というのは難しくなるのです。
だからどうしても一臓診断が難しくなると、思い切って黙って目をつぶって
二方を混ぜてしまいます。そうするとだいたい何とかなります。
要するに暑いか寒いかよく分からないけど手足が冷えて痛がっている、
そういう状態のときに混ぜます。
レイノー病というか白ろう病の人によく混ぜて使いますね。
そうすると、結構症状は良くなるのです。
前に言ったかと思うのですが、白ろう病の人は良くなると来なくなるのですね。
労災病院に戻っていってしまう。これは声を大にして言ったら怒られたので
あまり公には言えないのです。営林署関係の集まりのときにそれを言ったのですが、
すごく反論されました。良くなると来なくなると言いましたら、
気色ばんで反論されました。やっぱり禁句みたいになっています。
チェーンソーを使わなくなってしまっていますから、新規の発生がいないのです。
だから今までになってしまった人は最後まで一生労災補償をしながら、
そっとクリアするのを待とうとしているみたいで、もうどういう治療をするとか、
そういうことは触れられたくないみたいです。
一応、営林署の産業医をしているのですが、それ以来一切、
白ろう病については発言しないことにしています。
でも現実には飲ませると明らかに良くなります。室内で見ているから良いとか、
医者の目の前で見れば良くなった例はいくらでもあるのだとか言います。
でも、今まで同じ環境で何度見ても良くなかったのに、
投薬したら明らかに来るたびに良いわけでして、
同じ条件で見ていて明らかに違うのです。
これはそういうことで、そんなにたくさん使うお薬ではないけど、
決して悪い薬ではないのです。
第17回「さっぽろ下田塾」講義録
http://potato.hokkai.net/~acorn/sa_shimoda17.htm
https://www.kigusuri.com/kampo/kampo-care/039-2.html