人の世は、滞在期間の定め無き、今日一日の旅の宿

 時 人を待たず、光陰 惜しむべし
 古より有道の人、国城 男女 七宝 百物を 惜しまず
 唯 光陰のみ、之を惜しむ

方剤:大柴胡湯

2019-12-02 | 日記



次は大柴胡湯ですね。
大柴胡湯は小柴胡湯と並べて話して来ましたが、
大柴胡湯は柴芩組の作用を最大限に示している処方です。

柴芩組の作用を人参や大棗、生姜等でマイルド化して
非常に使い易くしてあるのが小柴胡湯なのですが、そうではなくて
柴芩組の作用を大黄や枳実等で逆に強めてあるのが大柴胡湯です。

わずかに大棗、生姜が入っていますけれど、わざわざ甘草を入れてないので、
このまま使うと非常に強い歯止めのない薬になります。
大黄は入っていますけれど、必ずしも下剤としてではなく、
瀉薬としての作用を増強させます。大柴胡去大黄湯というのもあります。
しかしこれは便秘をしていない人に使うかと言ったらそうではないですね。

普通だったら大柴胡湯を出したら下痢をして、
大柴胡去大黄湯を出したら下痢をしないと思うのですが、そんな事は無いのです。
本当に大柴胡湯が合っている人は、状態が良くなったので通じつくのであって、
大柴胡去大黄湯でも、合っていて便秘していれぱ通じがつきますし、
効き過ぎたら大黄が入っていなくても下痢をします。
あくまでも大黄は瀉薬としての強さに関係しますね。前にもこの話はしましたけれど、
あくまでこの大柴胡湯、小柴胡湯、柴胡桂枝乾姜湯の三つは
柴胡剤としての瀉薬であるという事です。そして
大柴胡湯は実証で柴胡桂枝乾姜湯は虚証で小柴胡湯は中間証だというのは間違いです。
これら三方は瀉薬ですので「実」に使う薬です。実中の実が大柴胡湯です。

因みに四逆散は大柴胡湯と小柴胡湯の中間証だというのは
間違いだということも以前に話しましたね。
大柴胡湯と小柴胡湯との中間ぐらいの処方は今言った大柴胡去大黄湯なのです。
そして、大柴胡去大黄湯に甘草と人参を加えたら、
小柴胡湯にかなり近い処方になります。
いずれにしろ、柴芩組が入っているからには非常に強い薬です。
そして非常に強い薬だからあまり使わない薬です。

小柴胡湯はいろいろな変方が出来ます。
柴何とか湯といったら皆、小柴胡湯の変方です。
大柴胡湯の場合は病勢がかなり強い状態なので、滅多に遭遇しません。
大柴胡湯を出すのは一年に一人か二人ぐらいでしょうか。
これだけの急迫状態というのは、人間は長く続けられないのです。
非常に強い炎症で普通だったら急性胆嚢炎とか、
非常に激しいセロコンバージョンを起こしつつある肝炎だとか、
そういう非常に強い状態でしか大柴胡湯証にはなりません

例外は、元々ガッチリタイプの非常に体力のある人が、
慢性疾患が急性転化するように発症した場合にこの状態になることがあります
例えば、先程お話した大柴朴湯の状態で発症する人がたまにいます。
これは本来は柴朴湯より遥かに体の丈夫な人が喘息になってしまった時です。
このようなことは数少ないですね。
本来、体の丈夫な人というのはなかなか喘息にはなりにくいのです。
他には大柴胡湯合桂枝茯苓丸のタイプがあります。
これは大柴胡去大黄湯合桂枝茯苓丸も同じですが、うんと衰えた状態ではないけれど、
粘液水腫を思わせるようなタイプでガッチリして体全体が何となくむくんでいます。

いずれにしろ大柴胡湯や大柴胡去大黄湯は、お腹に手を置いただけで解ります。
小柴胡湯や柴胡桂枝乾姜湯の場合は胸脇苦満は右側だけの場合が多いのですが、
大柴胡湯はほとんどの場合両側に現れます。
柴胡桂枝乾姜湯の胸脇微苦満を捕らえるのはすごく大変なのですが、
大柴胡湯の胸脇苦満は、そんなに強く押さなくても
手を置いただけで顔をしかめる程強いのですぐ解ります。

西洋医学的意味では何らかの腹膜炎か、
腹膜の刺激症状が出ている人ではないかと思える程、
強い胸脇苦満でデファンスに近いのです。
だから大柴胡湯は極く一部の特殊な慢性疾患の人を除いては、
本来は長期に投与する例は意外に少ないのです。

でも最初の頃、急性胆嚢炎の人に大柴胡湯を使って下痢をして、
膿みたいなものが下がったと言うことをお話しましたが、
要するに右悸肋部付近の炎症があって、
どうしても攻め下さないといけないような時には大柴胡湯を使います。
でもこれだけでやるのは少し恐いですね。そういう場合点滴したり、
入院させて管理しておいた方が無難かも知れませんね。
徹底した瀉法を大柴胡湯でやろうとしたら、多分それだけ激しい
反応というのは有り得ます。

それから三黄瀉心湯と半夏瀉心湯との関係が、
大柴胡湯と小柴胡湯との関係と同じだという事です。
半夏瀉心湯は芩連組です。
芩連組の作用を大黄で強めてあるのが三黄瀉心湯です。
芩連組を人参等でマイルドにしてあるのが半夏瀉心湯です。
半夏瀉心湯の芩連組を柴芩組に切り替えてあるのが小柴胡湯です。
柴芩組の作用を大黄等で増強してあるのが大柴胡湯です。
三黄瀉心湯と半夏瀉心湯との関係のように、
大柴胡湯と小柴胡湯との関係が作られているのです。
後でよく薬味を見比べて下さい。

柴胡剤

瀉心湯類


第15回「さっぽろ下田塾」講義録
http://potato.hokkai.net/~acorn/sa_shimoda15.htm


https://www.kigusuri.com/kampo/kampo-care/019-12.html


柴胡桂枝乾姜湯

2019-12-02 | 日記


今日は柴胡桂枝乾姜湯からです。
私の講義は難しいとよく言われますので、出来るだけやさしく解る様に工夫してみます。
この処方は柴胡剤で桂枝一味は気の上衝があり、
乾姜は下半身の冷えがある人に使う薬だという事です。

上半身が熱くなって下半身が冷えて、何らかの炎症があって柴胡剤を必要とする証です。
大事なことは柴胡剤ですので柴芩組なのです。だから実証に対する処方なのです

何度も言いますが大柴胡湯は実証で小柴胡湯は中間証で、
柴胡桂枝乾姜湯は虚証だと書いてある本がありますが、これはウソです。

柴胡桂枝乾姜湯の人は表向き「私は弱いのだという言い方」をするのですが、
よく診ると実証なのです。上熱下寒の実証です。
これはしょっちゅう私と一緒に診ている人はすぐに解ります。
上熱下寒だけでなく、他の所見もあります。上半身だけ発汗します。
横隔膜から上であったり、乳頭線から上であったり、
場合によっては首から上に発汗します。
発汗するだけでなくて熱いのです。聞くと必ず足の冷えがあります。
これは手と足を同時に触ると足はひんやりとして冷たく、
手はほんわかと温かいのですぐ解ります。上熱下寒がはっきり解ります。

そして胸脇微苦満があります。これはちょっと難しいのですが、
ある程度慣れてこないと捕えきれないこともあります。
私は手を置くだけで患者さんが重苦しい痛みを訴えますので、直ぐ解ります。
慣れないうちは左手掌を当て右手拳で叩くと響きます。
そして胸脇微苦満はほとんど左には出ないで右に出ます。
胸脇苦満は板状に張っていますのですぐ解りますが、
胸脇微苦満は手を当てても重い感じだなという程度です。
叩いた時に患者さんは痛いのだということが初めて解るという程度です。
微苦満がなければ叩いても痛がりません。

舌苔はないと書いてある本もありますが、
柴胡剤を使いたくなるのですからあることが多いのです。
それから結構事故の既往があることが多いです。それも「むち打ちです。
事故の急性期は不内外因ですし、瘀血を伴いますから違う薬になることが多いのですが、
今まで柴胡桂枝乾姜湯を使った人は、
丁寧に話を聞くと9割ぐらいはむち打ちの既往があります
何故、時間の経ったむち打ちがこの症状を出すか私もよく解らないのです。
むち打ちの状態で仕方なしに一所懸命頑張っていることが
こういう状態を生んでくるのでしょうかね。
よく、むち打ちは 詐病と間違えられるのですが、補償をもらいたいのなら
一つの医療機関で、精神科に行けと言われるまで延々と頑張るのです。
本当に症状があって治りたい人はあちこちと病院をワンダリングします。

もし皆さんのところにむち打ちの方がいたら9割はで1割はですので、
それを診断し耳鍼してください。
そして柴胡桂枝乾姜湯を出したら二週間後にはかなり状態が変ります
それくらいはっきりしますね。そういうことであまり難しくはない薬です。
大柴胡湯, 小柴胡湯は消炎剤としての働きが強いのですが、
柴胡桂枝乾姜湯を肝炎等にいっぱい使っているかと言うとそうではないのです。
小柴胡湯はあまり強い症状がなくても使い得るのですが、
柴胡桂枝乾姜湯はあまりにもはっきりした状態で、肝炎等には使わないようです。
大柴胡湯はガチガチの胸脇苦満があって全然違う症状です。
柴胡桂枝乾姜湯は使う疾患がかなり限定されています


第14回「さっぽろ下田塾」講義録
http://potato.hokkai.net/~acorn/sa_shimoda14.htm


https://www.kigusuri.com/kampo/kampo-care/024-4.html