12月3日は19時半から、ジュンク堂池袋本店でのトークセッションイベント「あなたの知らないカメムシの世界~カメムシだらけにしたろうかー!~」に行ってきました。
(立川周二さん撮影)
パネラーは、かの「日本原色カメムシ図鑑 第3巻」の著者のひとりで、東京大学特任研究員の石川忠さんと、大阪伊丹昆虫館学芸研究員・長島聖大さんという、カメムシ界の東西両横綱。
ジュンク堂は品揃え日本一の書店であることはもちろんですが、ここ池袋本店では先ごろ虫関連の棚が、4台分拡張される、という快挙がなされたばかり。
これは何を意味しているのか-そう、もちろん売れているから!です、虫の本が。
4台から一挙8台に虫本の棚が拡張された売り場。
あ、虫札欲しいな~
出版される本も増えてきているという。
で、数あるジュンク堂のトークイベントにも虫テーマのものがじわじわと増えつつあるわけで。
とはいえ、「12月の種村弘書店トークイベント」とか「史上最強の助っ人エディターH/テラサキ傑作選刊行記念トーク」とか、ビッグネームのトークが目白押しのなか、いったいカメムシトークにどれだけの人が集まるのか・・・・・・と危惧していたら満員御礼(定員40名)でキャンセル待ちの人もいるという大盛況。参加者のうち半分以上が女性でした。
拍手のなか石川さん、長島さん登場。
石川さんと長島さんは大学時代の先輩、後輩だそうで、息もぴったり、東京弁と関西弁混淆の楽し可笑しい、軽快なトークショーとなった。
会場には、石川さんの恩師にあたる大御所、「図説カメムシの卵と幼虫」という魅惑的な本の著者でもある立川周二先生をはじめ、キラ星のごときカメムシ界のメンバーたちも顔を揃えている。「むし探検広場」「昆虫エクスプローラ」の川邊園長、前回ブログで紹介した「昆虫学入門」の著者 野村昌史さんの姿も。
まずはそもそもカメムシとは、という分類や体のつくりの特徴などの基本の話。カメムシLOVEを標榜する私も知らなかったことがたくさん。
このグラフ、カメムシに対する一般のイメージを調べたものだそうですが・・・マイナスイメージが70%というのは・・・もっとこの率は高いと思うけどなあ。
例えば、カメムシのあの匂いの元は、胸部腹面にある臭腺から分泌されるアルデヒド系の液。
この臭腺開口部からジュワっと強烈な臭いの液が出てくるわけですが、その周りには「蒸発域」というビロード状の部分があるのだそう。
これはカメムシが自分の体の他の部分に匂いのする液をつけないため(自分でも嫌なのね)と、分泌された液体をここに染み込ませて匂いを拡散させるためのものだそうだ。
すごぉい!カメムシがディヒューザーを持っているとは知りませんでした!
これは、ちょうどアロマテラピーで匂いを拡散させるのに、素焼きの板にアロマオイルを垂らすのと同じ。拡散装置まで備えているとは、さすが匂いの達人カメムシ!
ジュンク堂のトークセッションでは座って話すパネラーがほとんどらしいが、この高テンションのおふたりははじめから終わりまで立ったまま。
この日の参加者のほとんどは、カメムシが好き、興味がある、という人たちばかりでしたが、2名だけ「家庭菜園をしていて本気でカメムシを退治したいと思っている」
「家に入ってくるカメムシに悩まされているので敵を知るために来た」という女性がいらっしゃいました。
この方たちは、「カメムシって、いいよね~」とノホホンと参加している私たちより、ずっと真剣。
「カメムシの天敵はなに?」とか「臭いは種によって違うのか?」などなど、鋭い質問を連発します。
カメムシの天敵はまず鳥類だそうですが、匂いが嫌になると途中で食べるのを止めちゃうこともあるそう。あとタヌキもカメムシ食いだというのは知らなかった。でもたぶん最大の天敵は、カメムシ退治に精を出すアナタ(人間)でしょう、と心のなかでつぶやく。
臭いの基本物質はアルデヒト系のものだが、種によって匂いに違いがあり、青りんごのよう、と形容される匂いを出すオオクモヘリカメムシみたいなものもいるし、アメンボ類(これもカメムシ目の虫です)は飴のような匂いを出すのでその名があるそう。
食品で一番近い匂いのものはやっぱりコリアンダーだそうだ。
へえ~と思ったのは、カメムシの匂いは一度放出されると、次に匂いを出す準備ができるまで数日から1週間もかかる、という話。つまりカメムシはいつもいつも匂いを出せるわけではないのだ。
カメムシ防除のための天敵昆虫として商品化されているナミヒメハナカメムシなどというのもいて、ピーマン、ナスなどをしわしわにする害虫アザミウマの天敵だそう。多少は人間の役にたっているカメムシもいるようだ。
日本のカメムシ研究家たちが総力を注いだ「日本原色カメムシ図鑑」シリーズは、いわば「カメムシ道の三種の神器」。1巻353種、2巻447種、3巻665種と網羅されているが、3巻発刊後に175種もの未記載種があるそうで、夢は第4巻に向けて膨らんでいるそうだ。
著者たちには、まだまだやりたいことがこんなにいっぱいある。
そして最後に、カメムシ図鑑の担当編集者であり、版元・全国農村教育協会の元村専務から、一同が感激したある読者からの手紙が披露された。
それは岩手県岩手郡葛巻というところにある、全校児童数29名という山間の小さな小学校の校長先生(女性)からのお手紙でした―
冬から春にかけて、たくさんのカメムシが室内に入り込み、大変厄介者になっている。嫌われ者のカメムシだが、「せっかくたくさんいるのだから、どんな種類のカメムシがいるのか調べてみよう」とカメムシ図鑑を購入し、2013年度は全校児童でカメムシを調べることにした。現在学校周辺で見つけたカメムシは38種、カメムシが苦手だった子供たちが、得意げに「新種です!」といって持ってくるようになり、いつの間にはカメムシは本校の宝物になった。保護者もとても興味をもって見守ってくれている。これも図鑑との素晴らしい出会いがあったおかげだが、図鑑をたよりに子供たちに種名を教えてきたものの、間違えて教えてしまってはと心配になり、図鑑の監修に当たられた先生に、38種の画像をみてもらい確認できたら―
という趣旨の手紙でした。
東北地方の人たちにカメムシが与えているご迷惑というのは、かなり深刻なものだと聞きます。
個人宅へ入り込むのはもちろん、旅館などの観光施設もこの時期休業に追い込まれるらしい。古来よりごく身近にいる厄介者。ふつうは駆除したい、と思うのが当然で、「たくさんいるからどんな種がいるか調べてみよう」とは……なりません!
この稀有な発想の流れは、図鑑制作出版関係者に衝撃的ともいえる感動を与えたようです。
ところで岩手県の葛巻という場所。いったいどこにあるのか。行ってみたい!と衝動的に思った私は、東京からの行き方をネットで調べてみたけれど、イマイチわからない。で、葛巻町役場に電話してみた。そのウェルカムな電話の対応にますます行きたくなってしまったのだが、どうやら5時間くらいで、東京からこの小学校までたどり着けるようだ。しかもこの町は、ある分野では全国で有名な町でもありました。
(震災の前から)エネルギー自給率160%、酪農とワインづくりで知られる町だったのです。
自分の足元の井戸を掘り、そこにある宝ものを活用してともに生きていく―もともとこの精神が根付いている町だからこそ、毎年大挙して押しかけるカメムシについても、退治するんじゃなくて調べてみよう、という発想が生まれたのではないでしょうか。
来年、もし訪れることができたら、葛巻町とカメムシについて、ご報告したいと思います。
トークのあとの書籍販売会。急にサインを求められて緊張顔の石川忠さん。
「なんだか、カメムシ道の未来は明るいなぁ」と帰り道、胸の内があったかくなった、師走の夜でした。