そして、いよいよです!飼育棟へ。
わーい!
こんなに歓迎されたことって、後にも先にもないような気がする。
アース製薬というとゴキブリ退治の第一人者というイメージがあるので、
飼育されているのはゴキブリばかり、と思うのはまったくの間違い。
この飼育棟では、なんと90種もの「虫」が飼育されていて、
そのお世話をしているのが有吉さんと北野さん(男性)です。
どうしてこんなに多種類の虫が飼育されているのかというと、
いつかそれが害虫として研究対象になるかも知れないから。
でも絶対害虫になりそうもない虫もたくさんいました。
蚊にもちゃんと一部屋。
キイロショウジョウバエも展示されているし、
ここには害虫っぽくない、美麗系のタマムシとかハンミョウとか。
しかしこの場所が人の心を捉えてやまないのは、
このおふたりが単に飼育というより、
ふつうは人が嫌だと思うであろうこの仕事全体を、
独自のセンスと気概でプロデュースしているからだと思います。
もともと美術の勉強をされていた有吉さんのセンスの良さが、
そこここに感じられるのです。
棟内は明るく広く清潔で、いったいいくつの部屋があるのか、
全部案内していただくのに3時間くらい。
蚊、ショウジョウバエ、シロアリ、ゲジゲジといった害虫カテゴリーの虫をはじめ、
これまでじっくり見ることのなかった身近な虫の部屋が並んでいます。
各部屋にはこんな風に整然と棚が並び、
それぞれの飼育にあった特注のコンテナの中で飼育されています。
棟内の壁にはなんと有吉さんプロデュースの、
樹脂でつくられたゴキブリ各種のアーティスティックなオブジェや、
おりがみで折った害虫も。
そしてついに、来るべきときが来たのでした。
有吉さんが2畳ほどの小部屋に私たちを招きいれました。
目の前にあるのは壁面のスクリーンだけ。
そしてスクリーンが上がる・・・・・・・。
そこはホラー映画も顔負けのインパクトをもった、
「ゴキブリ放し飼いの部屋」なのでした。すごい数でした・・・・・。
魅入られたように、言葉少なに見つめる見学者たち。
(あえて、手振れした写真でお見せします)
放し飼いの部屋には50万頭いるそうですが、ここは見学のみ。
研究に使うものは他の部屋の整然と並んだコンテナのなかで育てられています。
実は・・・・・恐れていたことがありました。
前回の見学で、池内さんは放し飼いの部屋に入った・・・・・・というのです。
今回も入りたいですか、というので、
もうきっぱりお断りしたのですが、
その場で断れなくなるような成り行きになったら、どうしよう、と。
でもこれは杞憂に終わって、ほっ。
ゴキブリのあとは、楽しみにしていたカメムシの部屋。
(松本吏樹郎さん撮影)
カメムシは一般に油分を含んだナッツ類のエサを好むのですが、
有吉さんのカメムシの飼い方のかわいいこと!
透明のプラスチックカップの真ん中にイネ、ミカン、杉などの小枝のグリーンを配し、
まわりにストライプ模様のヒマワリの種、薄黄色のダイズ、
そしてピンクの皮付きの生落花生が入れられています。
こんなに美しい色具合でカメムシを飼っている人は他にはいないでしょう!
私もこんどマネしたい。
これはミナミアオカメムシの幼虫だったかな?体の下半分がきれいな緑色。
ここで飼われている6種類のカメムシの大半は、守衛さんが夜飛来したのを、
出勤時に有吉さんにくれたものから繁殖させたんだそうです。
これだけの種類の虫(ひとが嫌がる虫も含めて)を飼育するには、
それはたいへんなご苦労があるのをインタビュー
http://spi-net.jp/hatarakimono/01/index.htmlで読みました。
でも実際に訪れたこの場所と、
そして凛とした佇まいで仕事をこなしている有吉さんにお会いしていると、
ふつう人が嫌う仕事をしている、というよりも
その有能さと「虫」への気持ち、関わり方、見せ方に
確とした美意識を持っていらっしゃることに心をつかまれます。
世界には、えっ!?女性がこんな仕事を!とびっくりするような仕事をしている
人はたくさんいるでしょう。
私が心惹かれる有吉さんのスゴサは、ゴキブリを何十万頭も飼育している、
ということではありません。
いやそれもスゴイけれども、さらにそこにご自分の価値観や美意識を
反映させている (それを受け入れている会社の懐の深さということも
あると思いますが)―という二重のスゴサなのでした。
この日私は、赤穂から約6時間、一気に東京へ帰る予定。
後ろ髪をひかれながらも、
有吉さんはじめ、お仕事中の時間を割いて歓迎してくださった
アース製薬の方々に感謝の気持ちいっぱいでお別れし、
最寄り駅へ送ってもらいました。
車からひとり降りると、そこは坂越という駅。
なんと単線!
切符を買って改札を入ったものの、単線駅初体験の私は、
えっ?!とあわててまた窓口にもどり、
JALの客室アテンダントにもなれそうな、
きりっとしたスーツ姿の女性駅員さん(若い)に
「あのー、駅はど、どこですか?」と失礼な質問を。
小さな屋根だけの駅舎と草はらに囲まれた線路。
虫と人に会いに来た旅。
その最後に突然の贈り物のように、
こんな可愛い駅から帰路がはじまるなんて。
よく晴れた秋の日の夕暮れ、
金木犀の香りが風にのって漂う単線の駅で電車を待っている(どっちから来るのに乗ればいいんだろう?)、
これは映画で言えば旅情あふれる「泣き」のシチュエーション。
この3日間の旅につきあってくださったみなさんや夫への感謝がこみ上げてきて・・・・
虫目がウル目になったのでした。
有吉さん、池内さん、今度はゆっくり虫の話でお茶しましょう。
また会いにいきます!