熱中症になる人が続出しているこのごろ。虫目歩きもほどほどに、というところですが、時間を短めにするなどして、相変わらず歩いています。
『虫目で歩けば』にも載せた猫顔のヒメジャノメの幼虫をまたさがして、もっとちゃんと写真を撮りたいと思っていたのですが、今年は見つけられず。 そのかわり、先日でかけた生田のほうで、ジュズダマの葉に見つけたのが、ヒメジャノメの幼虫と似た、とがった耳のように見える突起のある黒い顔をつけた、キミドリ色の幼虫でした。
黒い顔には毛がいっぱい生えている。 全長5,5センチもあり、たぶんもう終齢幼虫なのでは、と思われたので採集することに。
このあたりはジュズダマがいっぱい生えていて、他の葉には3齢くらいの幼虫も見つかった。
帰ってからさっそく『イモムシ図鑑』で調べると、出ていました、クロコノマチョウという枯葉そっくりの地味~な、一見蛾のようなチョウです。
しかしWikiの説明によると、このチョウは異端づくしのチョウである、と。
いわく、「ジャノメチョウ科の中でもこれらコノマチョウの仲間は特に異端であり、シロチョウ科にしかない「脚の爪が二分する」形態を持つ。」
専門的に生物学を勉強したことがないので、「脚の爪が二分する」形態というのが実際にどういうものか、想像してみるしかないのですが、ひとつはっきりわかる「異端のしるし」は、脚が4本しかないチョウだということ。
えっ、脚が4本?
ちょっと待って~
<昆虫の定義>をもう一度思い出してみると、「昆虫とは、体が頭部、胸部、腹部からなり、胸部に脚が3対(6本)、2対(4枚)の翅をもつ生きもの」ということでした。
しかし何事にも例外はあるようで、クロコノマチョウの4本しかない脚も、昆虫のなかの例外として処理(?)されているようです
4本というのは、はじめから4本しか脚がないのか、それとも退化したのか・・・・・・ネットで見ると、この地味なクロコノマチョウに興味を持つ人は多いみたいでたくさんの観察記録がありますが、脚が4本しかないとか、なぜ4本なのかという理由について触れているものはほとんどありません。たったひとつ、前脚が退化している、という記述が見つかったけれど、正確かどうかはわからない。 これ以上のことは専門書に当たらないと。今度図書館かジュンク堂で、チョウの専門書を見てみることにしよう。
さて採集してきた幼虫は、食欲旺盛にジュズダマの葉をもりもり食べていましたが、4日目に前蛹になりました。
チョウなどの幼虫の飼育の過程でいちばん私が好きなのが、この前蛹の段階。食べることとフンをすることを全使命として生きているような幼虫から、いきなりシン、とするので、観察させてもらっているニンゲンも、変態の神秘がはじまるぞ、という厳粛な気持ちになるのです。
アクロバティックな姿勢が美しい前蛹。
そして2日後に気がついたときには、もう蛹に。
薄く翅の脈が透けて見える、2センチあまりのひらべったい蛹。あの大きな幼虫が、えらく縮んだものです。次の成長ステージでいらないものは、整理したのでしょう。あの黒い顔も、そっくりそのままお面みたいにポトンと落ちていました。
4日後の朝みると、蛹の色が茶色っぽくなり、いよいよ羽化です。ネットで見た羽化のようすから、まだちょっと時間があるかな、と朝食をつくりはじめたら・・・・・・ちょっとの間に羽化してしまっていた・・・・・・。
これがクロコノマチョウ。
羽化した成虫をみてびっくりしたのは、蛹に比べて出てきたチョウがあまりに大きかったこと。
だいたいチョウは、幼虫時代はけっこう大きくても、蛹になるとかなり縮み、、羽化するとまた大きく見えるという場合が多いようだが、クロコノマチョウはいままで見た中でも、その差がいちばん大きかった。
2センチくらいの蛹からでてきたのは、開帳8センチ以上もありそうな、しっかりした翅をもったチョウでした。
そしてたしかに脚は4本。ちょっとつかまりにくそうに、ジュズダマの茎に止まって翅を乾かしています。オスかメスか知りたくて、葉の先でつついてちょっと前翅表をのぞいてみたら目玉模様がなかったので、オスのようです。
それにしても、見れば見るほど枯葉そっくりのチョウ。夏型と秋型があるそうで、これはダークな色調の夏型。秋型は枯葉にまぎれるように成虫で越冬するらしい。そしてこのチョウも、ツマグロヒョウモンなどと同じように徐々に生息地を北に広げているそうだ。
クロコノマチョウの英名はDark evening brown 。じっさい薄暗い森の中を、夕暮れどきに飛ぶ習性をもつそうです。
和名「黒木の間蝶」、英名“Dark evening brown”という名前がぴったりの、暗く深い森の住人を思わせる、なかなかすてきなチョウなのでした。