葛巻2日目。朝5時前に目が覚めた。外はまだ暗い青の世界。
ちょっと寝足りないけど・・・もう起きちゃえ。
珈琲が苦手なので、旅の一日はいつも、部屋のポットで淹れる濃いケニア茶とミズヨウカンからはじめる。そして、今朝は葛巻の朝ならではの+アルファの楽しみがあるんだなあ。
沸かしたてのお湯を茶葉に注いで、「もう出ませーん」と茶葉が言う(?)くらい、出し切って・・・・・・よーし、濃くていい色と香りが出た。
昨日、この時のために買っておいた葛巻牛乳を注げば、豊かでフレッシュな風味がたまらない「葛巻でしか飲めないミルクティ」のできあがり。
いい香りの湯気がたつミルクティを片手に、明けていく窓の外に時々目をやりながら、きのういただいた『江刈カメムシ図鑑』をじっくりめくってみる。
江刈小学校のみんなが見つけた順番に載せられている37種のカメムシとは―
クサギカメムシ、ツマジロカメムシ、ヨツモンカメムシ、ナガメ、オオツマキヘリカメムシ、ブチヒゲカメムシ、オオヘリカメムシ、エゾアオカメムシ、ジュウジナガカメムシ、ヤニサシガメ、ノコギリヒラタカメムシ、シロヘリナガカメムシ、アカヒメヘリカメムシ、オオトゲシラホシカメムシ、クチブトカメムシの幼虫、トホシカメムシ、チャイロクチブトカメムシ、キバラヘリカメムシ、ヒメツノカメムシ幼虫、オオヘリカメムシ幼虫、アカヘリサシガメ、アカヒメヘリカメムシ幼虫、ヨツボシカメムシ幼虫、チャイロカメムシ幼虫、アカスジカメムシ、オオヘリカメムシ幼虫、チャバネアオカメムシ幼虫、ハラビロヘリカメムシ(?)、ハサミツノカメムシ幼虫、ブチヒゲカメムシ幼虫、トゲシラホシカメムシ、ツノアオカメムシ、ホソハリカメムシ、エゾアオカメムシ幼虫、アカスジキンカメムシ、クロヒメツノカメムシ、ブチヒゲクロメクラガメ(?)、ハネナシサシガメ、ホソヘリカメムシ(?)、アオクチブトカメムシ、チャバネアオカメムシ、ハラビロマキバカメムシ、不明カメムシの幼虫。
書き出してみると、こんなにたくさん。中には?マークがついているものも。それぞれ発見した場所と見つけた人の名前とコメントが書かれたほんとにすばらしい、生徒と先生方が力を合わせた手作りの図鑑だ。
そしてこれも手作りの「カメムシかるた」。読み札にはそのカメムシの特徴が。
何かいいことをするとご褒美にもらえるらしいカメムシプレート付の虫眼鏡
江刈小学校を訪ねて感じたことのひとつは、11人の先生がとにかく気持ちがひとつであること。だからこそ、この図鑑も、また図鑑をもとにした「カメムシかるた」までできたのだろう。小さな小学校には、たいへんなことも多いと思うけれど、でもある面では都会の大きな小学校と比べて、贅沢といえる面もあるように感じた。
きょうは、中村哲雄前葛巻町長さんが、町のあれこれを現地に足を運んで紹介してくださることになっている。
中村哲雄前町長さん。ここまで発展した葛巻の基礎をつくった方です。
8時半に集合すると、数年前にBSで放送された葛巻についての番組がはじまった。いわば予習。でもこの番組、とても丁寧にわかりやすくできていて、楽しみながら葛巻についていろいろなことがわかった。
番組のタイトルは『過疎のなかの過疎 ないない尽くしの町』。
確かに、葛巻にはスキー場も温泉もない。
「お金をかけて掘れば温泉が出ることはわかっているけれど、そのお金がない。だから、ここに在るものを活かす道を考えた」と前町長。
―そこで
『無いことを嘆かず、在るものを力に!』。
町づくりのこのスローガンに沿って、一歩一歩地道な取り組みの積み重ねをしてきたことが、町をここまで豊かにする力になった。こんなスローガンをもつ町だからこそ、カメムシ(在るもの)という『やっかいものが、学校の宝物に』なったのだろう。
この地にホルスタインが導入され、本格的に酪農が始まったのが明治25年。今では乳牛の飼育頭数も乳牛生産量も東北第一位となった。
子牛の小屋は狭いけれど1頭1室。
黒い顔がなんともノーブルなサフォーク種の羊。英国王室御用達の最高級種の羊たちだ。動物とは思えないような独特の低い鳴き声を出すので、なんとなくお話できそうな気がしてくる・・・みんなこっち見てるし。
畜糞も発酵させて燃料に。
ホルスタインから絞った牛乳、ヨーグルト、チーズなど乳製品をはじめ、焼きたてのパンやさん、名産品の販売もある「くずまき交流館プラトー」。
このパンやさん、美味しい!いいパンやさんがある町はいいな~
そしてもうひとつの基幹産業が林業。
葛巻の山林はカラマツが中心。半分が植林、半分が自然林。
若い人の雇用を生み出している製材所。
雪のなかの作業はたいへんだが、働く人たちの表情は明るい。
板状に製材された木材。
樹皮部分などは粉末状にして燃料に。
これも端材を加工して生まれたペレットストーブ。
炭作りも盛ん。深い釜のなかに運び込まれる木材。
葛巻の炭は、やきとり屋の名門「秋吉」でも使われている高級品。
「いい材だなあ、虫が入り込んでいないかな」と舌なめずりする石川忠さん。
これら酪農、林業を基盤に、21世紀に向けてのクリーンエネルギーへの取り組みへと、町づくりはさらに展開していく。 カメムシと並ぶ葛巻の「やっかいもの」―それは山間高冷地につきものの冷たくて強い風。しかしこのやっかいものが、風力発電の強い力となった。
風力発電をするためには、当該地の調査に長い時間がかかるそうだが、葛巻では昔から酪農が盛んだったことから、風力発電が可能な風の強い地域にすでに、いろいろなインフラが出来上がっていた。そのため類をみないスピードで風力発電施設をつくることができたのだという。
林業からも、森林整備の際に発生する間伐材をバイオガスに、チップからはバークペレットが生まれた。
「在るものを力」にしたエネルギーで、自給率160パーセント!!! 原発をどうするか、廃炉はできるのか、などなどこの期に及んでまたも堂々めぐりしている国を尻目に、この小さな町は、ずんずん先を行くエネルギー政策をつぎつぎと実現している。
町民の一人が言っていた―「エネルギーの自給ができるようになったあたりから、みんなの意識が高くなって、気持ちがひとつになったように思う」と。政府関係者をはじめ、外国からも視察団が訪れ、中村前町長さんは毎日大忙しの様子だ。
クリーンエネルギーの相乗効果は観光資源ともなって、観光客は平成11年の19万人から、平成24年には47万人に増加したという。
次はワイナリーへ行こう!
葛巻が誇るワイナリー。
楓太くんも、慣れない雪の道を歩く、歩く。
「あ、いかん」とあわてる中村前町長さんと長島一家。
これが原料となるヤマブドウ。
ワインのほかにも、ジャムやジュースに。
そしてワイナリーの試飲ルームで、このときを待ちかねていた大久保清樹さん、満面の笑み。
果肉部分がふつうのブドウより少ないヤマブドウは果汁を絞るのがたいへん。
しかし、独特の野性味をもつこのワインは、全国にファンを獲得している。
愛孫蒼くんと同じ名前をもつワイン「蒼」の故郷にて感無量。
そして、江刈小学校から、こんなサプライズ・プレゼントをいただいて、一同大感激。
中身は白ワインの名品「ほたる」。
日も暮れてきた。
ワインレストランでの会食まで、いったん宿にもどり・・・・・・そういえば、まだ越冬カメムシ見てないなあ・・・・・・。
貼紙や殺虫剤はあるものの、カメムシいないよー。
そこで、脚立を借りて非常口など虫が入り込みそうな場所をみてみると、
わっ、いた!けど・・・・・・
みんな乾ききっていて、生きてるのは1頭もいないみたい。匂いもまったくしない。
明かりに集まっていたカメムシは、ほとんどがスコットカメムシだった。
初めて見るヨツボシカメムシが1頭混じっていた。
。
がっかりしてバスルームに行ったとき、シンクの縁をヨタヨタ歩いている1頭を発見。
スコットカメムシだ。やっと生きているのに会えたけど、春まで生き延びるのは難しそうな健康状態のようでした。
夜、小野先生と、幻の「エカリウシツノカメムシ」を作り出したご主人の小野國彦さん、副校長の佐々木先生とワインレストランで会食。アルコールを飲めない私以外は、みんな飲むこと、飲むこと。つぎつぎとボトルが空に。
小野校長先生の力強いサポート役である副校長の佐々木先生。
子どもが朝一番に、「このカメムシの名前、なんですか?」と校長室にカメムシを持ってやって来てしばらくたつと、佐々木先生が「小野先生、わかりました?まだですかぁ?」と言ってくるので、小野先生は書類仕事を後回しにして、朝からカメムシの名前調べ、ということがよくあるらしい。
3日目朝、ふたたび江刈小学校へ。
『江刈カメムシ図鑑』で間違っていたスコットカメムシとツマジロカメムシの違いについて説明する長島さん。
「あのね、カメムシの卵って見たことある?こんなタルみたいな面白い形のものもあるの」とみんなを煙にまく私。
カメムシの折り方を教えてくれた知香さん。
「みてみて、カメムシ指人形できた」
常にマイペースでお勉強にはげむ楓太くん。
次はカメムシかるたのはじまりはじまり。
しだいに熱狂。
最後1枚になったら、手を頭に。
みんな早くて、私は3枚とるのがやっと。
そのあと、校内を案内していただく。
小野先生の提案で作られた集成材の台形学習机。
集成材は葛巻でつくられていて、デザインが自由自在であること、安定した強度、耐火性、耐久性、保湿性能と音響効果に優れている、などなど多くの優れた点をもつことから今全国で引っ張りだこなのだそうだ。
3人で集まるときはこんな風にもできる。
PCも並ぶ図書室。
そして、 トイレのきれいさに、感激!ぴかぴかだ。
もちろん便座はあたたかい。
棚の上には花が。これならトイレを我慢する子はいないね。
いよいよお別れの時がきてしまった。
私たちがヴァンに乗り込むと、子どもたちが雪のなかに出てきて、ちぎれんばかりに手を振ってくれる。
車が道路に向かって動き始めたとき、子どもたちも校庭の奥にある小高い雪山に向かって一斉に走り出した。
そして、雪の小山の上に集まると、ヴァンが見えなくなるまで、手を振り続けてくれた。
「また来るねーーー」
新幹線の座席に着くとすぐ、別れ際に佐々木副校長先生が手渡してくれたコピーを出して読みふけった。内容は子どもたちのカメムシに対する気持ちや「カメムシ楽しみ会」の感想などだ。
さて、葛巻には何種くらいカメムシがいるんだろう?
石川さん、長島さんにきくと「200種はいるでしょう」とのこと。
『江刈カメムシ図鑑』は今後もっともっと厚くなりそうだ。