かたつぶり 我よりのろき ものなくも しりぞくことは 知らずとぞいふ
*今回も、第3館から持ってきました。
これは書斎を整理していて、見つけた古いノートの中から発掘したものです。ほこりにまみれた大学ノートを開けてみると、乱雑な字で、何首かの短歌が書いてありました。
ノートの中の歌は、中の五が、「足はなく」になっていたのですが、それだと意味がすんなり通らないので、「ものなくも」に推敲しました。その方が、かのじょの言いたいことに近いと思ったのです。
どういう状況で書かれたのかはわからないが、推敲する暇もないほど焦った状況で、さらさらと書いて、そのまま忘れたのかもしれませんね。
カタツムリのように、のろい足でも、わたしは退くことはしない。
前に進み続ける。
そんなかのじょの麗しい決意が、この歌に込められているような気がします。
確かに、かのじょには、努力しても努力しても、一向に報われない時期がありました。人々に心を伝えようとして、がんばっても、誤解と無理解の風にみんな吹き飛ばされてしまい、何にも伝わらないという日々がありました。
そんな日々の中でも、努力することをかのじょはやめなかった。カタツムリのようなのろさでも、前に進み続けようと思っていた。
孤独の闇の中を、確かな自分の力を信じて、進み続けた。
カタツムリは、確かにゆっくりとしか進めないけれど、決して退くことはしないのだと。