前作『僕らの世界が交わるまで』で俳優としての個性を監督作へと転化させたジェシー・アイゼンバーグが、早くも第2作を発表だ。自身のルーツを辿る個人史に普遍性を与える手腕は早くも熟練監督のそれであり、しかもここには俳優たちの素晴らしいアンサンブルがある。TVシリーズ『サクセッション』の最終シーズン4でエミー賞主演男優賞を受賞したキーラン・カルキンは、ローマン・ロイさながらのキャラクターで再び見る者の心を揺さぶってくれる。
デヴィッド(アイゼンバーグ)とベンジー(カルキン)は仲の良い従兄弟同士。最愛の祖母を亡くし、傷心を抱えた2人は彼女のルーツを訪ねるべくポーランドへと旅に出る。心配性で気遣いの人であるデヴィッドを十八番の“神経質なユダヤ人”像で演じるアイゼンバーグに対し、自由奔放、周囲の目を気にせず、しかし新生の人たらしであるベンジーをカルキンは当たり役ローマン・ロイさながらに演じている。カルキンは『サクセッション』シーズン4での完全燃焼後に本作のオファーを受け、一時は断ることも考えたそうだが、脚本を読むや「こいつのことは知っている。こいつなら演じられる」と出演を決意したという。人を魅了してやまないベンジーの本質には哀しみがあり、劇中で多くが語られることはない。だが『サクセッション』で描かれた巨大な敗北と喪失を見た後では、カルキンの演技に否が応でも豊潤な行間を感じてしまうのだ。デヴィッドとの旅路はまるで遠縁の従兄弟と漂泊する後のローマン・ロイである。
アイゼンバーグがカルキンと『サクセッション』に惚れ込んでいることは明らかだが、そんなサブテキストは気にしなくていい。『リアル・ペイン』が描くのは決して全てを理解することはできない他者の痛みに、想像力を働かせることの大切さだ。世界の至る所で真なる思いやりが欠如する現在、アイゼンバーグは臆することなく自身のアイデンティティを語り、人が歩み寄る小さな1歩に着目する。持ち前のニヒリズムを前面に出した『僕らの世界が交わるまで』から深いヒューマニズムへと到達した好編である。
『リアル・ペイン 心の旅』24・米
監督 ジェシー・アイゼンバーグ
出演 ジェシー・アイゼンバーグ、キーラン・カルキン、ウィル・シャープ、ジェニファー・グレイ、カート・エジアイアワン、ライザ・サドヴィ、ダニエル・オレスケス
※2025年1月31日(金)公開
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