82年の『ブレードランナー』が興行的に失敗して以後、リドリー・スコットはしばらくの間、低迷期に突入する事になる。85年に公開された本作『レジェンド』もオリジナルフィルムが140分、インターナショナル版が94分、アメリカ国内版は89分、そして僕が見たディレクターズカット版は114分といくつものバージョンが存在する混乱ぶりだ。本編も前半20分はほとんど何も起こらず、決してファミリー向けとは言い難いダークなファンタジー世界はマーケティング面でも苦労した事が伺える。
しかし、この徹底したリドリー美術による世界観はおそらくピーター・ジャクソンの『ロード・オブ・ザ・リング』3部作にも影響を与えており、ブームを15年も先駆けてしまったのは間違いない。中でも注目したいのは後半、魔王の城に舞台を移してからの邪悪とも言える美術の迫力だ。この“暗さ”は後年、弟トニー・スコットを亡くしてからより死の匂いとなってリドリー映画にまとわりつき、特に『エイリアン:コヴェナント』ではマイケル・ファスベンダーの居城が映画のバランスを破壊するほどの威容だった。
また全てのショットが“絵画”であるリドリー映画において、キャストの顔は時代の流行が定めた美醜に左右されるものではない。彼ならではの美意識が映画から時代感覚を奪い、特異な普遍性を獲得している事に気付かされた。短パン姿も愛らしいトム・クルーズの美しさはもちろん、魔王に魅入られてから豹変するミア・サラの妖艶さ、そしてハリボテメイクでもプリンセスを拐かすには十分な色気を放つ魔王役ティム・カリーに目を見張った。
おそらくリドリーがこのジャンルに戻ってくることはないだろうが、彼のファンなら見逃す手はない1本だ。僕は十分に楽しめた。
『レジェンド 光と闇の伝説』85・米
監督 リドリー・スコット
出演 トム・クルーズ、ミア・サラ、ティム・カリー