紹介する書籍は、中央公論新社から2006年10月に発行されましたカラー版新書、塚谷裕一著「ドリアン -果物の王」(本体980円+税)です。
ドリアンと言えば、「臭い果物の代名詞」と云うのが一般的認識だと思います。
しかし、本書の著者はその認識を真っ向から否定します。
「ドリアンは臭くない」と。
筆者の言い分はこうです。
・美味しいドリアンの香りは、熱帯の果物の魅惑的な香りである。
・外国人観光客と足元を見られて、外れのドリアンをつかまされると「臭いドリアン」を体験する。
・(良い香りのドリアンでも)ドリアンを本当に臭いと感じる人もいる。
なんだ、やっぱり臭いじゃないか、と思い込んではいけません。
先入観だけで食わず嫌いにならず、1度や2度の失敗にくじけずにドリアンを食べ続け、味が好きになった後でも、本当に嫌な香りか再確認して欲しいってことです。
これは私も同意です。
気がつけば、私もドリアンは好きな果樹(香りも含めて)にランクインですから。
そんな「掴みはOK」な出だしから始まる本書の目次は、
1 おいしいドリアン |
と200ページがドリアン&熱帯果樹づくしの1冊となっています。
本書中で私が特に惹かれた章は、「3-3 食用になる近縁種 — 1 カラントゲンとパパゲン」と「4-3 バナナの知られざる歴史」です。
前に挙げた章では、ドリアンの近縁種の中には「知られざる名果」があるというもの。
特に、
(前略) |
と絶賛されているカラントゲン Durio oxleyanus Griff. と云う小型ドリアンが気になります。
カラントゲンについては、Anthony Lamb著「WILD OR NATIVE SPECIES OF FRUITS IN SABAH – PARTⅡ(サバ州における野生または在来の果樹Ⅱ)」にも、
Round green fruit, large spines, pale yellow fresh, sweet. Good potential. |
と在来種ながらも高い評価がありましたので、期待してしまいます。
因みにマレーシアのサバ州において、カラントゲンは「Durian Sukang」の名称で通じる様です。
また、後に挙げた章では、「戦後、バナナが高級果樹であったのは、戦争の混乱期の一時的な現象であり、戦前にはバナナは庶民に普及していた」と云う、驚愕の事実(私にとっては)が文学作品等を証拠として語られる様は圧巻でした。
※私の田祖母(大正15年広島県出身)の話では、彼女の記憶では幼少時代にバナナは庶民に普及してはいなかった、とのことです。或いはもう少し古い時代か地域性がある情報だったのかもしれません。もし「私の祖父母から明治~大正時代にかけては、バナナは庶民に普及していたと聞きました」等の情報をお持ちの方がいらっしゃいましたら、コメント欄に記入をお願いします。
それにしても、本書の筆者は文献の引用が巧いです。
本書内で紹介された参考文献まで読みたくなります。
こういう読みやすくもタメになる熱帯果樹関連書籍が書店販売されていることを、多くの熱帯果樹ファンに知っていただきたく、今回は書籍紹介を行いました。
○参考資料
・「WILD OR NATIVE SPECIES OF FRUITS IN SABAH – PARTⅡ」.Anthony Lamb.1990.IN-HOUSE WORKSHOP ON FRUITS;24-26th October,1990;ARS, Tenom.
※「FRUITS, NUTS AND SPICES」.William W.W.Wong・Anthony Lamb.1993.Department of Agriculture Sabah, Malaysia.に掲載。
○参考サイト
・「中央公論新社」