ニッポン放送の会社支配権をライブドアに奪われまいとして大量の新株をフジテレビに引き受けさせた場合、一部の者に不当に多数の株式を割り当てることになって、商法280条ノ2にある「著しく不公正な方法」にあたるのではないでしょうか。この場合、株主であるライブドアは会社に対しその新株の発行の差し止めを裁判外、裁判上で請求でき、さらにその訴えを起こすことを前提として発行差し止めの仮処分を求めることができる(民事保全法23条以下)のではないかと思います。差し止めの仮処分が出た場合(商法の教科書どおりであれば今回は仮処分の決定が出るケースです)、フジテレビ、ニッポン放送は新株の授受ができなくなります。でも、差し止めの仮処分を無視してやった場合(こういうこともありえます)、その新株発行は無効となるというのが判例通説です。しかし、商法は流動的要素が多いため、最高裁まで行って、判例変更になる可能性もあります(政府の対応を見ていると、なんとなく今回はそうなりそうな感じです)。今後予約権の差し止めの仮処分申請、本案の裁判となると思いますが、かつての忠実屋・いなげや事件を想起させ(これは敵対的買収からの防衛策としての第三者有利発行や総会決議不存在などが問題とされた事件ですが、参考になる点も多く)、僕はとても興味深く見ています。
ところで、敵対的買収からの防衛策でよく知られている方法として、パックマン、ゴールデンパラシュート、クラウンジュエル、ポイズンピルなどがあります。パックマンというのは買収相手を逆に買収してしまう方法で、ゴールデンパラシュートとは、取締役たちが巨額な退職金をもらえるように定款で定めておくことで取締役の首を切れないようにする方法です。そして、クラウンジュエルというのは、買収される会社が、資産を売却したり、巨額の負債を負うことなどによって買収のうまみを失わせる方法です。ポイズンピルとはかつては、多額の社債を転換社債や新株引き受け権付で発行しておき、株の買占めが行われると、社債の転換をしたり、新株引き受けを自社派の株主にさせたりして会社支配を阻むものです。今回の商法改正で、新株今回の商法改正で社債の発行を伴わずに新株予約権のみを発行できるようになりました。つまり、会社は負債を負わなくても会社支配の維持ができるようになったため、本来の毒薬の意味は薄れていますが、効果としては最も有効な手段かもしれません。
ちょっと報道されているところだけからは情報が乏しくてはっきりしたことはいえないので、憶測ですが、新株予約権であっても現実に新株を引き受けるには、発行株式相当額の資金が払い込まれなければならないので、新株の引き受け手のフジテレビは資金を調達しなければならないはずです。この点、たとえば、フジサンケイグループの「営業」などを引き当てに、現物出資というかたちをとることや、内部留保などの資産を取り崩して資金に充てることも理論上は考えられると思いますが、通常は資金調達して新株引き受けとなるはずです。今回、フジテレビが新株を引き受ける際の資金は約2808億円と莫大なものです。これは、フジテレビの株式時価総額約5700億円の49パーセントにも及びます。もしフジテレビが新株引き受け用に巨額の借金をする、あるいはもうしているとしたらどうでしょう。仮にライブドアの買収が成功しても、その後さらに大変な問題が残ることになるのではないでしょうか。