日本刀鑑賞の基礎 by ZENZAI  初心者のために

日本刀の魅力を再確認・・・刀のここを楽しむ

刀 近江大掾藤原忠廣

2010-05-01 | 
近江大掾藤原忠廣















 江戸時代初期を代表する近江大掾忠広は佐賀藩鍋島家の工で、初代忠吉と共に新鮮味のある刀の開発を進め、目指すところは鎌倉時代の来派の直刃出来であった。緻密に詰み澄んだ小板目鍛えの地鉄に直刃を焼き、時に乱刃、湾刃なども生み出している。作品が多いことから、出会う機会も多いと思う。出来も総じて優れており、刀を学ぶには良い作者であると考える。
 忠廣の乱刃の数箇所と、直刃の二箇所を例示する。 
 地鉄鍛えは全体が均一な小板目肌を基本とするが、平地中ほどに杢目が交じっているのが、地景によって観察できる。小板目肌に地沸が付いているため、澄んだ地景が躍動的に刀身表面に浮かび上がっているかのように感じられる。この均質な地鉄に微細な地沸、時に地景の交じる地鉄を肥前肌、小糠肌などと呼び、肥前忠吉、忠廣以下肥前刀の特徴と考えて良い。ただし、同様の肌合いは、江戸時代前期の多くの刀工が試みている。
 直刃仕立ての刀の肌目こそ、忠吉が遠く鎌倉時代の山城国来派の太刀を手本として求め、忠廣が完成させたもの。これが故に美しい直刃が生まれるのである。
 刃文は小沸出来の互の目乱刃。大小の互の目が連続し、互の目の頭は丸く、焼の谷に足が入る。互の目の中に葉が一つ入って目玉のように見える。何とも趣のない表現だが、昔からこれを虻の目と呼んでおり、忠廣の互の目の働きの特徴の一つとみている。刃文は小沸と匂の複合で、明るく冴え、刃縁に小沸が叢付くのも特徴。
 刃縁が小沸でほつれている。ほつれとは和紙を引き裂いたような、肌目に沿って現われる働きで、時に金線や稲妻を伴うことがあるも、肥前刀に稲妻は少ない。刃文を構成している小沸は、足となって刃中に広がり、刃先に向かって溶け込むように淡くなる。刃中にはごく淡い匂が広がっており、所々、流れるような微かな働きが観察されよう。
 帽子は小丸返りながら、ふくら辺りにわずかに沸凝りがあり、先にわずかに掃き掛けを伴う。
 直刃の帽子も先がわずかに掃き掛け、小丸に返っており美しい。
 江戸時代、佐賀藩鍋島家では、忠吉、忠廣の政策した刀を大名間贈答品として製作させていた。それ故に美しい作品が多々遺されており、刀はかくも美しいものであるとの見方が定まった見本と言っても良いだろう。しかもよく切れることでも名高いのである。

刀 越後守包貞

2010-05-01 | 
刀の本質を楽しむ
初心者のための鑑賞の手引き

刀が切れる切れない、鉄砲の弾に較べてどうなのか、などという話は別の機会にでもしていただいて、刀の本質美を見て欲しい。こんなに美しいものを、単に道具として捉えるだけで良いのか。なまくら刀でなければ、どんな刀でもよく切れる。切れるのは当たり前で、筆者自身もそれを大前提で刀の美しさを感じとっている。
西洋にも剣があり、綺麗に装飾されて伝えられている。しかし、西洋の剣の場合には外装に宝石をちりばめたり、金細工を施したりしているが、刀身は比較的錆が出ている状態でも平気でいるようだ。時にはクロムメッキなどをしている。日本刀の場合には、外装も綺麗だが、それ以上に刀身そのものの美しさを、すでに鎌倉時代から捉えられていたようで、それが故に刃文や地鉄に刀匠の個姓を見出し尊ぶ意識が古くからあった。日本独特のものである。


越後守包貞












 刀の姿格好については、手にとるまでもなく博物館でも鑑賞ができる。博物館のガラス越しに姿だけを見て刀が如何なるものなのか知ることは、盲人が象を撫でて実体を知覚すること以上に情報が乏しく、そのほとんどを鑑賞していないに等しい結果となっている。即ち、ガラス越しでの刀の鑑賞は、鑑賞ではないと断じられる。
 茶器をガラス越しに眺めるのと同じで、茶器は手にとり、時に茶をいただいてようやくその美しさが理解でき、感じ取れるのである。刀も同様、斬ることはしないまでも、手にとってそのバランスや量感を感じとらねば鑑賞とは言い難い。Webでの鑑賞や説明には、この点で限界があるので、現実の刀を知りたい方は、お近くの刀剣店にて、直接手にとって鑑賞されたい。
 さて、前置きはこの程度にして、まず、比較的分かり易い江戸時代前期の、大坂の刀工の作品から眺めてみたい。刀剣鑑賞について全く分からない方にとっては、比較的理解し易いのが江戸時代の、大坂刀工の綺麗な作品である。
 写真例は寛文頃の越後守包貞の刀。大坂刀工らしい小板目鍛えの地鉄に地景が入って躍動感に満ち、刃文は小沸出来の互の目乱。
 この刀の見どころは、刃中に現われた刷毛目のような沸の流れであり、これを砂流し(すながし)と呼んでいる。地鉄鍛えは小板目肌ながら、刃先よりに柾目があり、これに沸が感応して川の流れのような文様が浮かび上がったわけである。刃文を構成している白い部分が沸で、その中にちょっと黒めの点の連続になる文様があり、これを金筋あるいは金線と呼ぶ。沸は金筋を伴って帯状に連なっているのが沸筋。鋒辺りの焼刃に現われている沸筋や金筋の流れが掃き掛け。
 小板目鍛えが基本ではあるが、地中に網のように地景が現われており、網の一部が杢目となって強く現れているところもある。鎬地の鍛え肌は、この時代には専ら柾目となる。この刀も鎬地柾目が顕著である。
 このような地鉄の様子も鑑賞の大きなポイントである。刀身表面に現われた鍛え肌は一様ではなく、同じ作者のものであっても様子が異なる。自然味ある肌は、時に動感豊かに、時に静かにと、繊細で変化がある。