脇差 左行秀

脇差 銘 左行秀作之安政五年八月日於土州大嶋山麓以独鈷水刃之




近頃、坂本龍馬の人気が急上昇している。NHKの大河ドラマの影響力と、役者の人気が背景にあることは間違いない。これが日本刀の魅力の理解へと広がってほしい。ドラマの人気にあやかりたいというのが日本刀に関わる者にとっての願いであろう。
さて、その龍馬の育った家と刀工左行秀(さのゆきひで)の鍛刀場とは、徒歩五分ほどの比較的近距離であったそうだ。龍馬の兄は行秀に作刀を依頼しており、龍馬と行動を共にして薩長同盟にも尽力した近藤長次郎は子供のころから行秀とは顔見知りであったというほどに、近しい環境にあったはずだが、龍馬と行秀の直接の関係は記録に現われてこない。土佐にいたころの龍馬はあまり目立たず、江戸に出て以降その存在感が高まったということであろうか。
その行秀の脇差を紹介する。行秀の作風は地鉄や刃文に派手さがなく、良く詰んだ地鉄に沸の深い互の目湾れの刃文を専らとしている。この沸が深いという意味は、刃文を構成している沸の帯の幅が広く、刃先近くまで雲のように霧や霞のようにふんわりと沸が広がり、刃先近くで刃中に溶け込むような景観を呈する出来を指す。このような沸の深さは、同時代において他に例はなく、江戸時代前期では井上真改や助廣の特徴、真改も行秀も鎌倉時代の郷義弘を目指した作風であると考えられている。本作がまさにその好例。ところが、この淡い沸の広がりは、匂に似て写真に写り難いという特徴がある。写真では刃境に和紙を引き裂いたような沸のほつれがみられるも、実はこの働きは深い沸の帯の中の働きであり、沸は写真で見られる以上に、刃先近くまで広がっている。差裏の下方の沸の様子が分かり易い。沸のほつれは肌目に沿って躍動感に満ち、所々流れるような動きがあり、帽子も沸深く、切先にまで広がっている。刃文の形ははっきりとしてはいない。華やかに乱れている刃文であることが名刀名作の条件というわけではないのである。□








近頃、坂本龍馬の人気が急上昇している。NHKの大河ドラマの影響力と、役者の人気が背景にあることは間違いない。これが日本刀の魅力の理解へと広がってほしい。ドラマの人気にあやかりたいというのが日本刀に関わる者にとっての願いであろう。
さて、その龍馬の育った家と刀工左行秀(さのゆきひで)の鍛刀場とは、徒歩五分ほどの比較的近距離であったそうだ。龍馬の兄は行秀に作刀を依頼しており、龍馬と行動を共にして薩長同盟にも尽力した近藤長次郎は子供のころから行秀とは顔見知りであったというほどに、近しい環境にあったはずだが、龍馬と行秀の直接の関係は記録に現われてこない。土佐にいたころの龍馬はあまり目立たず、江戸に出て以降その存在感が高まったということであろうか。
その行秀の脇差を紹介する。行秀の作風は地鉄や刃文に派手さがなく、良く詰んだ地鉄に沸の深い互の目湾れの刃文を専らとしている。この沸が深いという意味は、刃文を構成している沸の帯の幅が広く、刃先近くまで雲のように霧や霞のようにふんわりと沸が広がり、刃先近くで刃中に溶け込むような景観を呈する出来を指す。このような沸の深さは、同時代において他に例はなく、江戸時代前期では井上真改や助廣の特徴、真改も行秀も鎌倉時代の郷義弘を目指した作風であると考えられている。本作がまさにその好例。ところが、この淡い沸の広がりは、匂に似て写真に写り難いという特徴がある。写真では刃境に和紙を引き裂いたような沸のほつれがみられるも、実はこの働きは深い沸の帯の中の働きであり、沸は写真で見られる以上に、刃先近くまで広がっている。差裏の下方の沸の様子が分かり易い。沸のほつれは肌目に沿って躍動感に満ち、所々流れるような動きがあり、帽子も沸深く、切先にまで広がっている。刃文の形ははっきりとしてはいない。華やかに乱れている刃文であることが名刀名作の条件というわけではないのである。□

