日本刀鑑賞の基礎 by ZENZAI  初心者のために

日本刀の魅力を再確認・・・刀のここを楽しむ

刀 福岡是次 Koretsugu Katana

2017-02-14 | 
刀 福岡是次


刀 福岡是次

 是次は江戸時代前期の福岡石堂派、即ち備前伝の刀工。石堂派とは江戸期に各地で栄えた備前伝の刀工群。是次は守次と共に、逆足が乱舞する互の目丁子を得意とした。この刀が良い例で、地鉄は良く詰んだ小板目肌に柾状に板目が流れた肌が交じる。刃文は匂に小沸の交じった、写真のような構成。これが純然たる備前伝かと言うとそうでもなく、相州伝が加味されているところに江戸時代の福岡石堂派の特徴があるように思える。刃中に沸が意識され、物打辺りには沸が流れて金線砂流し、沸筋が現れている。

刀 泰龍斎宗寛 Sokan Katana

2017-02-13 | 
刀 泰龍斎宗寛


刀 泰龍斎宗寛

 固山宗次を紹介した。その弟子の宗寛は、小豆を並べたような小互の目の刃文を特徴とし、師同様に良く斬れたという。しかも刀身に対して横に映りが現れる地鉄を生み出しており、この時代に映りを出せる数少ない刀工としても良く知られている。写真で映りが再現できないのが残念だが、地鉄様子を子細に観察すると、刀身と直角方向に働きが生じているのが判ると思う。小板目鍛えの地鉄は良く詰んで細かな地沸が全面を覆い、匂主調の小互の目の焼刃が綺麗に焼かれている。大模様の互の目や丁子がもてはやされる傾向にあるが、それら派手な作風を好まない武士もあったようだ。本作のような小互の目に小丁子を交えた焼刃構成だが、子細に観察すると、小さな乱の中に働きが濃縮されているのが判る。焼刃を浅くしたのは、実用上、より折れ難さを求めたものとも考えられる。

脇差 橘康廣 Yasuhiro Wakizashi

2017-02-10 | 脇差
脇差 橘康廣


脇差 橘康廣

 康廣は備前伝互の目丁子を得意として大坂に栄えた石堂派の刀工。この脇差は、平和な江戸時代に入って、古作を手本に堂々とした造り込みに挑んだもの。身幅広く重ね厚く、常になくがっしりとしている。特別注文であろう。地鉄は良く詰んだ小板目肌。刃文は鎌倉時代の備前物を手本としたものであろう、小丁子が複雑に寄り添って押し合っているような構成。匂を主調に刃境に小沸が付いて冴え冴えとしている。小丁子に伴う鋭い足は左右に広がり、刃中に飛足となり、あるいは葉となり、細かに出入りする焼頭の変化と共に刃中を鮮やかに装っている。江戸時代前期における、古作写しでは地刃共に古作に近い出来の作品を遺している一派でもある。高い技術を備えていたことが判る。

脇差 固山宗次 Munetsugu Wakizashi

2017-02-10 | 脇差
脇差 固山宗次



脇差 固山宗次

 備前伝互の目丁子出来を紹介している。備前伝互の目丁子出来を得意とした固山宗次の、大小揃いとされたものであろう、その脇差。江戸時代の作らしくバランスが良く仕立てられているが、常に比して反りがやや深く、切断をより強く意識していると思われる。地鉄は良く詰んだ小板目鍛えで、無地風にも思えるほどに綺麗だ。この点は江戸時代後期に間々みられる時代の特徴。刃文は丁子が二つ三つ四つと寄り合っているが拳状にはならず、焼頭が高低抑揚あり、足が長く入って鮮やか。帽子は乱れ込んで返っている。一目で備前伝互の目丁子出来と分かる作である。綺麗ながら斬れ味鋭いことでも宗次は有名だ。折損のなさそうな、粘り気の感じられる作である。

刀 備前國住長舩祐定 Sukesada Katana

2017-02-09 | 
刀 備前國住長舩祐定


 
刀 備前國住長舩祐定

 祐定一門の隆盛はこの彦兵衛尉から始まると考えられている。以降、与三左衛門尉祐定‐源兵衛尉祐定と名工が続き、祐定という刀造りの集団の信用度を高めていった。
 この刀は一尺八寸七分であることから、現在の分類では脇差だが、製作された時代には明らかに片手打ちの刀。刀は長ければ良いというわけではない。それが証拠に、戦国時代には高級武将の持ち物としても二尺前後の扱い易い寸法の刀が好まれてたくさん製作されている。この刀もその一つだ。腰元に彫刻を施しており、所持者の安全を願ったもの。戦場で使い切る武器とはおのずから異なっている。出来も素晴らしい。良く詰んだ板目鍛えの地鉄に、腰開き互の目を焼き、互の目の中には小丁子を配して刃文に変化を求めている。抑揚のある刃文構成が実用面で如何なる効果があるのかは不明だが、想像をたくましくすれば、研ぎ減ってもなお刃になる堅い部分が残るため、斬れ味は極端に落ちることはなさそうだ。刃中の沸と匂の複合になる焼刃は、いかにも斬れ味が良さそうだ。丁子を複合した互の目の頭は蟹の爪形に尖り調子の部分が生じており、これが後の祐定一門の特徴的刃文構成になる。物打辺りには金線が走り、帽子も強く乱れ込んで返っている
    

脇差 源兵衛尉祐定 Sukesada Wakizashi

2017-02-08 | 脇差
脇差 源兵衛尉祐定


脇差 備前國長舩源兵衛尉祐定

 我が国に遺されている全刀剣類の半数以上が備前刀であると言われている。刀剣の歴史は、政治権力と文化の中心において発達し、職人も多く集まるのだが、備前という地域では政治の中心とは無関係に、技術力も伝統も、総てにおいて発展した。特に鎌倉時代や室町時代の戦乱の時代には多くの職人が集まり、後の企業集団のような技術的連携が行われていた。職人とは刀工だけでなく、鞘師や塗師、鐔などの金具師なども含めた集団である。良く言われていることだが、良鋼の産地が近くにあり、炭の産地がまた近くにあり、瀬戸内の開運を利用した輸送、そこまでの川を利用した運送など、様々な条件が揃って備前国、特に長舩や対岸の福岡の周辺に鍛冶業が発達した。人が集まれば知恵の集合から新たな技術、新たな武器の開発も進む。戦国時代の片手打ちの刀や、両刃造短刀、鎧通しなども備前刀工が得意として製作した。
 一時、相州伝の影響を受けたとも紹介したが、もちろん時代に応じた戦闘様式などによっても違ってくる。その作風の違いなども備前刀工は巧みに取り入れて新たな武器の製造へと技術を高めている。ここに伝法を超えた面白さがある。
 例えばこの天正五年の源兵衛尉祐定の脇差。横手を設けない菖蒲造りのスタイルだが、この造り込みには武器としてどのような有用性があるのだろうか。鎬造の普通の大刀としては二尺前後の片手打ちの寸法や、天正から慶長頃であれば二尺四寸前後のがっちりとした作もある。戦国時代の時代の一尺五寸強の扱い易い脇差という考えであれば、大刀としても脇差としても使える、即ち斬る、突くの両用を考慮しているのだろう。この構造が室町時代前期には製作されはじめていることから、実用の時代を通して重宝されていたことが想像される。
 この脇差について、杢目を交えた板目鍛えに小板目肌が交じって良く詰み・・・と言う説明は、備前刀の典型だが、まさに典型的な地相をしている。これに、肌目に沿った地景が現れて地沸が叢付いているのが判る。さすがにこの時代に映りは現れ難いようだ。刃文は焼の深い小互の目に砂流が掛かり、小足が入り、物打辺りから掃き掛けが加わり、先は沸が流れて返り、焼が深く小互の目状となった棟焼に連続する。棟を研いだら両刃になりそうな出来。刃中は匂が満ちて明るく、小足、葉、細かな砂流しなどの備前物の特徴的な働きが窺える。

脇差 宗勉 Tsutomu Wakizashi

2017-02-07 | 脇差
脇差 宗勉


脇差 宗勉

 強い沸を地刃に配し、沸の魅力を見事に表現した作。宗勉刀匠は江戸時代前期の真改や助廣を手本とし、あるいは清麿を見事に写した名工。この脇差においても、備前風の互の目丁子出来の刃文に沸筋金筋を加えている。地鉄鍛えにも目を向けたい。良く詰んだ板目鍛えに地沸が付いて刀身全面に湯走り状に沸の流れを見ることができる。肌目に沿った地景もあり、躍動感に満ちている。焼刃は匂を主調に沸が厚く深く付いて頗る明るい。備前伝に相州伝を加味した、激しい出来である。

刀 清宗 Kiyomune Katana

2017-02-07 | 
刀 清宗


刀 清宗

 清宗刀匠は宮入行平刀匠の門流。宮入一門は、行平刀匠が初期には備前伝を突き詰め、戦後は次第に相州伝へと作風を変えていった。この太刀は、行平刀匠の影響を受けての作であろうか、足の長く入る互の目丁子に柾状の鍛え肌に沿った沸筋と砂流が激しく掛かる出来。互の目丁子は菊花のように寄り合って足が長く射し、これを切るように沸筋金線が流れ掛かる。特に沸粒が明瞭に起ち現われて鮮やか。帽子も刃文の調子を同じくして乱れ込み、ここも強く掃き掛けている。

刀 備中守康廣 Yasuhiro Katana

2017-02-06 | 
刀 備中守康廣


刀 備中守康廣

康廣は紀州石堂派の流れを汲む備前伝の刀工。足の長く入る互の目丁子を得意とし、大坂に移住して新刀期備前伝鍛冶の核となった。それでも時にはこのような相州伝を加味した互の目丁子出来の作品を生み出している。互の目にさほど丁子が交じらず、足が射し出入りに抑揚があり、一部は湾れを交える。焼刃は沸が主体で肌目に沿ってほつれが掛かり、刷毛目のように沸が流れる。刃中には沸が凝って島刃のような景色があり、ここでも相州伝の美観を採り入れていることが判る。

脇差 固山宗次 Munetsugu Wakizashi

2017-02-04 | 脇差
脇差 固山宗次

 
脇差 固山宗次

備前伝互の目丁子出来の焼刃を得意とした固山宗次は、斬れ味が同時代では最も優れた刀工。斬れ味に関しては外見からは見わけにくい。現代ではあまり気にしなくても良い点ながら、切れた方が良いに決まっている。この脇差も一見して備前伝互の目丁子出来。ところが子細に観察すると、杢目肌が現れている刃境に沸が絡んで渦巻き状の焼刃が見える。さらに沸筋が層をなしており、刃境を横切って金線稲妻となり、地中にまで及んでいる。この沸と匂の複合になる焼刃、意図して渦巻き肌を強調する意識は、相州伝が背景にあると考えてよいだろう。
  

脇差 河内守國助 Kunisuke Wakizashi

2017-02-04 | 脇差
脇差 河内守國助

 
脇差 河内守國助

 中河内と呼ばれる名工、二代目國助の、変化に富んだ作。そもそも拳丁子と呼ばれる華麗に構成された互の目丁子刃を考案して得意とした國助だが、本作は、その備前伝にちょっと違った味付けを試みたものと推考される。備前伝と言うより、相州伝を加味した特伝と言うべき備前風味に沸筋の強く入った作。互の目の足が盛んに入り、互の目の一部が尖って地に突き入り、刃中の足を切って沸筋と砂流しが流れ掛かる。丸く返る帽子も先は掃き掛けを伴っている。
  

刀 越前守助廣 Sukehiro Katana

2017-02-03 | 
刀 越前守助廣


刀 越前守助廣

 二代目助廣は濤瀾乱刃を考案して人気を博した名人。初期には初代が得意とした備前伝を主体としており、次第に沸の強い創造的な刃文構成を突き詰めていった。この作風がどのような位置付けにあるものか、見方によっては完全に相州伝であるとも、多少とも備前伝を含んでいるともいえる出来だ。確かにきっぱりと備前伝、相州伝と分ける必要もないのだが、このように互の目出来に強い沸筋を加味した作品を見ると、備前伝から相州伝へと移行していった助廣の創造意識を見せつけられているようで、南北朝時代の相伝備前とは全く趣を異にする新趣の、助廣の鋭い感性を再確認せざるを得ないと思う。


脇差 粟田口忠綱

2017-02-01 | 脇差
脇差 粟田口忠綱


脇差 粟田口忠綱

 二代目忠綱の、初代を想わせる作。地鉄は大坂の刀工らしく良く詰んだ小板目鍛えで細かな地沸が付いて潤い感がある。刃文構成は見るからに足長く入る備前伝互の目丁子出来。互の目の頭が高低変化し、焼深く、所々に飛焼も配した華やかな構成で、足が長く入る特徴も掟通り。この足を長い金線を伴う沸筋が切って流れる。互の目丁子状に連なるところから南北朝時代と言うより鎌倉中期の備前刀を基礎としているようだが、焼刃が沸を主体としており、刃中を縦に流れる強い金線と沸筋も江戸期相州伝隆盛による影響に他ならない。