昨日はプーシキン美術館展を見に横浜美術館へ行ってきました。プーシキン美術館と言えばロシアの首都モスクワにある美術館で、特にフランス絵画が充実している美術館です。広告にもなっているルノワールの『ジャンヌ・サマリーの肖像』の印象が目に焼き付いており、人が多いのは分かっていたもののぜひ原画を見たいと思って出かけました。幸い早い時間に行ったので混んでいながらもなかなか進めないということはありませんでした。
最初は17~18世紀の古典主義・ロココの絵画でした。神話を描いた絵、そして背景が暗く人物が浮きだったような絵が多かったですがさすが人物の動きや表情が見事に出ていました。例えばシモン・ヴ―エの『恋人たち』やアレクシ・グリム―の『たて笛を持つ少年』は光が一か所にあたっているのですがその当て方がうまく人物の心情の伝わり方は手に取るようでした。またジャン=バティスト=クルーズの『手紙を持つ少女』の表情も印象的でした。
フランソワ・ブーシェの『ユピテルとカリスト』という絵はローマ神話をもとにした美しい絵でした。しかし実は最高神ユピテルが女神ディアーナに変身しカリストを誘惑している絵であり、右側のユピテルの右には彼を象徴する鷲が描かれています。
次は19世紀前半の新古典主義、ロマン主義、自然主義の絵画でした。このコーナーで真っ先に目に入ってきたのは、ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングルによる『聖杯の前の聖母』でした。凛として気品に満ちた聖母の表情が印象的でした。ちょっとモナ・リザを彷彿とさせます。両側の男性たちは守護聖人だそうです。
19世紀後半は印象主義、ポスト印象主義の絵画でした。広告に使われていたルノワールの『ジャンヌ・サマリーの肖像』もこのコーナーにありましたが、ほかにもマネ、モネ、ドガ、ロートレック、セザンヌ、ゴッホ、ゴーギャンなど華やかな顔ぶれの画家たちの絵がそろっていました。
マネの『アントナン・プルーストの表情』、素朴な描写の中からも人物が動き出しそうなそういう雰囲気を感じました。
モネの『陽だまりのライラック』では明るい日差しの下で美しく咲き誇るライラックとその下にいる二人の女性を描いていました。女性の元に差す木漏れ日を色違いの点で描写しているところがなんともいえず美しかったです。
セザンヌの『パイプをくわえた男』のインパクトはすごかったです。実はセザンヌの絵、実物を見るまではどちらかといえば好きでも嫌いでもなかったのですが、『りんごとオレンジのある静物』の実物を見たときあまりのインパクトの強さに強く惹きつけられました。それ以来セザンヌの絵の実物を見ると期待以上のインパクトを受けているのですが今回の『パイプをくわえた男』もそうでした。ちょっとやさぐれたような男性がパイプをくわえ頬杖をついています。右上にあるのはセザンヌ夫人の肖像画だそうです。机の角度などのとらえかたはキュビズムらしく主観的で無駄がなさそう、伝えたいものを端的に探りだし的確に表現したような感じでした。こちらを向いている目の表情もなかなかですね。
そして広告に出ていたルノワールの『ジャンヌ・サマリーの肖像』。愛らしい表情のジャンヌとピンク色の背景が見事にマッチしてみるだけで幸せになれそうな絵でした。ルノワールの輪郭をはっきりさせないやわらかい筆の使い方にはいつも心惹かれます。セザンヌと対照的なのですけどね。
ドガの『バレエの稽古』、バレエに真剣に取り組む女性たちの姿が美しかったです。一瞬の動きをよくとらえていると感じました。
ゴッホの『医師レーの肖像』はゴッホが耳切り事件を起こしたときに診察にあたったレー医師を描いた作品で緑色の模様のあるバックが印象的だ。ゴッホはレー医師にお礼の気持ちとしてこの絵を渡したものの、レー医師は気に入らなかったのか鳥小屋の穴をふさぐのに使ったそうです。
最後に20世紀、フォーヴィスム、キュビズム、エコール・ド・パリの絵画が展示してありました。
アンリ・マティスの『カラー、アイリス、ミモザ』の鮮やかな色遣いは素晴らしかったです。緑、青、黄、白の上に程よく差したピンクが画面を引き締めているような気がしました。たくさんの色を使っているのに不自然になっていないのが見事だと思いました。
それにしてもこれだけの素晴らしい絵が何世紀にもわたり、しかもフランスからロシアまでなぜ運ばれたのだろうか、ということなのですが、エカテリーナ2世を始めとしたロシア貴族はフランス語やフランス事情にたけており、莫大な資金を投じて美術品を収集していたらしいのです。その後ロシアの大貴族ニコライ・ユスーポフが『ユピテルとカリスト』、農奴の解放を行ったアレクサンドル2世が『聖杯の前の聖母』を手に入れたそうです。時代が下り19世紀後半になると、収集家の中心は貴族から実業家へと移りました。産業革命の中、紡績業などで成功を収めた商人や企業家が絵画の収集に私財と情熱を注ぎ込んだそうです。セルゲイ・シチューキンとイワン・モロゾフがその代表者です。(こちらのサイトを参考にしました)
充実したラインナップの絵画を見ることができて本当によかったです。