地域循環共生圏概論 ㉕

2021年08月06日 | 防災と琵琶湖


作成日:2021.8.6|更新日:2021.8.12
地域循環共生圏概論 ㉕
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地方創生の鍵となるローカルSDGs=地域
環共生圏ビジネスとは その5
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電力小売から地域課題の解決へ
湖南市で日本版シュタットベルケで地域循環ビジネス

2020年度の「SDGs未来都市」に選定された滋賀県湘南市。
自然エネルギーの地域内での循環、それによる地域経済
の活性化を目指し、市民共同発電所を核に電力小売事業
や省エネ事業などを展開。持続可能なまちづくりに取り
組んでいる。地域循環型社会の構築に向けて、同市が掲
げる戦略とは。

  

■ 自立的好循環の構築へ
滋賀県の南部、甲賀地域に位置する湖南市。豊かな自然
に恵まれたこの地では、こうした地域の資源を活かして
経済の活性化を図るSDGs未来都市「シュタットベルケ構
想」----ここでシュタットベルケ(独;STADT WERKE 英
:public utilities)とはドイツにおいて、電気、ガス、
水道、交通などの公共インフラを整備・運営する自治体
所有の公益企業(公社)です。シュタットベルケはドイ
ツ語で直訳すると"町の事業"を意味する----の実現に向
け様々な取り組みが行われている。シ
ュタットベルケと
は、ドイツにおいて電気、ガス、水道、
交通などの公共
インフラをはじめとする多種多様な社会
サービスを提供
する地方自治体主体の公益企業のこと。
出典:環境ビジネス 2021.SP

 
Stadtwerke Düsseldorf

このビジネスモデルを基に、同市も自治体新電力「こな
んウル
トラパワー」を要とした地域循環共生圈の形成に
向け、①官民連携の自然エネルギー導入プロジェクトの
実施、②地域経済循環の創出、③多様な主体との連携に
より地域の活力を創生し、未来を創造するさりげない支
えあいのまちづくりの実現を目指している。
湖南市総合政策部地域創生推進課地域エネルギー室の地
本末和氏は「こなんウルトラパワーの電力小売事業など
の収益を軸に、公共施設管理や公共サービス事業などを
展開する日本版シュタットベルケの実現を目指していま
す」とあるべき姿を見据える。自然エネルギーで生み出
る利益(価値)を活用し、地域課題の解決、公的サービ
スの向上を図る事業を展開することで、経済・社会・環
境の各側面で相乗効果を生み自律的好循環の構築を狙う。


移住定住サイト/湖南市

地域の自然エネルギー活用を全国で初めて条例化
湖南市が地域活性化戦略の要に「地域エネルギーの活用」
を選んだ背景には、市民と自らが環境活動に尽力してき
た長い歴史がある。京都議定書が採択された1997年には、
市民が主体となり、「地球温暖化防止に自分たちででき
る行動を!」と出資を募り太陽光発電設備を設置。全国
でも初となる事業性をもつ市民共同発電所を稼働させた。
その後全国市民発電所フオーラムにも参加し、国に固定
価格買取制度の導入を呼び掛けてきた。2011年には、総
務省の「緑の分権改革」事業に参画。これは人、資源、
資金が都会に集中するのではなく、地域で生み出された
ものは地域のなかで活用し、地域が自給力を高め、成長す
ることを目的とした取り組みである。

 こうした活動に参加していくなかで、「白熱エネルギ
ーは地域の資源であり、地域経済の循環に貢猷すべきだ」
という考え方が強まり、翌年9月に湘南市地域自然エネ
ルギー基本条例を制定。地域の自然エネルギーの活用に
関するルールが、全国で初めて条例化された。
「第一に地域に存在するエネルギーは地域の資源である
ことを認識してもらうこと。こうしたエネルギーを活用
する際は経済性に配慮しつつ、地域の発展につながるよ
うな手段を選ぶことを目的とし、自治体や市民の役割を
明文化する」と池本氏は説明。同活動に対する市民や事
業者の理解を促すため、定期的に市民講座なども開催し
ている。

条例に基づき2015年2月には「湖南市地域自然エネルギ
ー地域活性化戦略プラン」を策定し、昨年3月に改訂。
SDGsの観点から、「地域自然資源を活用したエネルギー・
経済の循環による地域活性化」「地域資源との関わりを
見つめ直し、誰もが参画できるまちづくり」「強靭と脱
炭素を両立した持続可能なまちづくり」を推進していく
方針を示した。そして、同戦略のカギとなる「地域マイ
クログリッドの構築」を牽引する立役者として翌年5月
に設立されたのが、地域新電力(自治体新電力)「こな
んウルトラパワー
」である。



図1 コナン市民共同発電所を軸とした地域内経済循環の事例

市民共同発電所「こなんウルトラパワー」
利益は地域課題解決へ
同社は2018年度に自治体新電力会社として初めてとなる
グリーンボンド1号(発行額1.1億円)を発行し、市内の
物流センター2件における屋根置き型太陽光発電事業(
273kW、266kW)および学校施設4校の照明LEDイヒを実施。
2019年度には、グリーンボンド2号(発行額6000万円)
を発行し、市内小学校および隣町の小学校と図書館で省
エネサービスを展開するほか、他市町との連携事業にも
積極的に取り組んでいる。

図2 グリーンボンド活用の
再生可能エネルギー事業


電力小売事業や公共施設への電力供給データを基にした
民間施設への省エネ関連サービス事業以外にも、一般家
庭を対象とした低圧発電買収事業を開始。池本氏は「住
宅用太陽光発電の余剰電力については、2019年11月以降
10年間の買収期間が順次終了し始めているため、こなん
ウルトラパワーがその受け皿になれば」と話し、将来的
には他の自治体新電力やその株主などと連携しながら買
い収った電力を市場に流すアグリゲータの役割も担って
いきたいと意気込んだ。同社のビジネスフィールドの拡
大に伴い、湖南市の「シュタットベルケ構想」は着実に
実現に向かって進み始めている。
また強靭かつ持続可能なまちづくりの一環として、三菱
自動車工業と災害時における電動車両(EV)などの支
援に関する協定を締結。この協定に基づいて有事の際は
EVを貸与される。また、現在EVを活用したスマート
コミュニティ検討としてEV車を普段は公用車として使
用し、災害時には移動できる電源として活用することで、
応急対策や被災者支援に資することが可能となるスキー
ムの検討を行っている。

地域循環共生圈の実現に向けて、長年の経験や実績を基
に明確な戦略的目標を掲げて走り始めた湖南市。「スマ
ートエネルギー社会の形成」や「産業力の強化」「安心
安全なまちづくり」「脱炭素」など課題は多いが、池本
氏は「戦略の核となるこなんウルトラパワーは、継続し
た事業展開に育ちつつあるとともに、設立以来5期連続で
黒字を達成しています。こうした利益を地域課題の解決
や未来の子どもたちのために使っていきたい」と地域自
然エネルギーの活用により、人々が豊かに暮らせる未来
の社会に思いを寄せる。
                    この項了

■ なぜ今、シュタットベルケが注目されるのか
シュタットベルケは法的に明確な定義はあるわけでは
ないが、公有であること、集約的で総合的なインフラ関
連サービスの運営などが定義の基準となると言われてい
る。公共事業を総合的に運営することで、資金調達、顧
客管理・技術運転などで相乗効果を作り出す目的がある。
これらにより市民に適切な価格での公共サービスの提供
を保証しつつ、利益が出ない事業に対して、収益事業の
利益で内部相互補助をする事も可能になる。これは節税
にもつながると考えられている。 日本ではドイツから
約20年近く遅れて、2012年にFIT(再生可能エネルギー
固定価格買取制度)を導入、2016 年から電力小売全面
自由化を開始しており、電力に関わる環境が大きく変化
している。このような背景から、新電力関連ビジネスも
生まれてきており、その中には、地域に新たな雇用を生
み出し、地域経済の活性化につながるものも少なくあな
い。ドイツのシュタットベルケでは、電力小売りで黒字
を維持し、その収益で他の公共サービスの赤字を補填し
ているケースがみられ、日本で電力自由化が進むと共に、
再生エネルギーの分野はもちろん、地方創生やまちづく
りの文脈でも注目度が増している。 シュタットベルケ
の取組内容
1.地域資源の活用➲地域の水力発電所やバイオマス
発電所などの運営 ・廃棄物処理炉やコジェネレーショ
ンから発生する熱の利用 など。
2.地域雇用の創出➲直接雇用、間接雇用、誘発雇用
合わせて5,600人分の雇用を創出(Stadtwerke Duisburg
AG)など
3.地域に密着したサービス➲住居内の電気配線であ
っても障害が発生したら技術者を派遣。停電によって冷
凍庫内の食品が損傷を受けた場合には損失額の補填を訴
求可(Manheim市のMVV Energie)など


出典:経済産業省:「平成28年度エネルギーに関する年
次報告(エネルギー白書2017)」より

□ 人口減少・超高齢化・税収減少の日本が注目
人口減少、少子高齢化が進む日本では、税収が減少し公
共サービスの劣化が懸念され。加えて、日本の公共イン
フラは1970~90年頃に建てられたものが多いため、現在
建設後30~50年と建替えの時期を迎えた施設が多くあり、
建替えのために予算が多々必要になる見込み。地域密着
の公共サービス提供を目的に、複数のサービス提供を1
つの事業体で行なうことで、受益者負担の形をとるシュ
タットベルケという形態は非常に期待されている。また、
環境省の第五次環境基本計画案では、地域資源を活用し
た持続可能な地域づくりが重点戦略に掲げられており、
日本政府の政策にも合致しているみている。


表1.地域域に密着した日本のエネルギー企業の事例

出典:経済産業省「平成28年度エネルギーに関する年次
報告(エネルギー白書2017)
」より
※ いこま市民パワーの事例はアミタ(株)が追加
via シュタットベルケ(STADT WERKE)とは|地方創生
注目ワード| 環境・CSR・サステナビリティ戦略に役立
つ情報サイト おしえて!アミタさん

【エピソード】


兎に角、暑い。次回は「超大型台風と集中豪雨の災害リス
ク」
「電力安定供給と防災」へ移り特集します

【脚注及びリンク】
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  1. 人間は他の生物との相関関係なしには生きら
    れない 五箇公一 『中央公論』2021年3月号
  2. 謎の感染拡大〜新型ウイルスの起源を追う
    〜」 NHK、2020/12/27
  3. ESG地域金融』で地域を元気にする 環境ビジ
    ネス
  4. スウェーデンでゴミの99%を有効利用する「
    リサイクル革命」が起きている(動画)ハフ
    ポスト
  5. 『環境ビジネス 2020年夏季号』
  6. 滋賀県に根づく『三方よし』の経営を実現,
    環境ビジネス,2020年冬季
    号   
  7. 環境への取り組み CSR(企業の社会的責任)
    佐川急便株式会社
  8. 彦根市一般廃棄物処理基本計画の進捗状況評
    価について(平成30年度) ,
  9. 滋賀県出身の人物一覧 Wikipedia

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