【ストレステストとは】
2011年3月11日の東日本大震災により引き起こされた
福島第一原発でのシビアアクシデント(重大事故)を
受けて、EU各国が既存の原発の安全性を再確認するた
めに作ったもので、福島で「想定外」の規模の地震と
津波により原子炉の冷却に必要なすべての電源が失わ
れ(全電源喪失)、それにより核燃料の完全溶融(メ
ルトダウン)が起こったことを教訓に、従来の安全基
準で定められていた以上、以外の事象が起こった場合
に、それがシビアアクシデントにまで繋がるものかど
うかを検証するもの。
実際の作業としては、原発の施設の設計に基づき、想
定以上の地震や津波が来た場合、テロリストによる攻
撃を受けた場合、飛行機が墜落した場合などに、どの
くらいの事故になるかをコンピュータシミュレーショ
ンにより予想するもの。例えば、地震の場合で言えば、
設計上の耐震強度が800ガルだった場合、1000ガル、
2000ガルなどの耐震強度以上の揺れを受けた場合に、
何が損傷し、どの機能が失われ、そしてそれが最終的
に福島第一原発で起こったようなシビアアクシデント
に繋がるかどうかを予測する。
【欧州連合の場合】
EU諸国の場合は、共通に定めたストレステスト(安全
評価)の項目を使って各国の原子炉の安全性を調査し、
その結果を公開することを義務づけている。ストレス
テストに不合格だった場合(すなわち、想定外の事象
が起こった時には、シビアアクシデントに繋がる可能
性があると認定された場合)は運転の停止をすること
が原則。その国の事情でどうしても運転を続けなけれ
ばいけない場合は、自国民および他のEU諸国への説明
責任を持つ。これを受け、国際原子力機関も6月21
日にウィーンで開かれた会議で、EUが導入した「スト
レステスト」を原発を持つすべての国に導入すること
を提言することを採択した。
EUが2011年5月にストレステストの実施を正式決定して
から最終結論が報告されるまでの段階は以下の通り。
2011年8月15日までに、原発事業者が自己評価を各国の
規制当局に提出→ 9月15日までに、各国が欧州委に中
間報告を提出→10月末までに、電力会社が各規制当局
に最終報告→2011年末までに規制当局が欧州委に最終
報告→ 欧州委がペアレビュー(相互評価)を行う→
2012年6月の欧州首脳会議に最終結論が報告される。そ
して2011年10月末現在、テス
トの実施主体である電力会社から最終報告を受ける各
国の規制当局の7割が「(各電力会社の)評価基準が
不十分」「検査機関が短い」などを理由に評価を先送
りにした。
【日本の場合】
日本では、6月18日に海江田万里経産相が定期検査が終
わった原発は再稼働するよう促す「安全宣言」を出した
が、それが政府としての公式見解であるかどうかが論
点となり、7月6日に国会で菅直人総理大臣が野党に質
問を受けることになった。その質疑応答の結果、「安
全宣言」は総理の承認を受けずに経産省と海江田大臣
が勝手に出したということが判明してしまう。その答
弁で、菅総理が「原発の再稼働にはストレステストが
必要」と発言したことが、この言葉を広く国民に知ら
しめる結果となった。
その後も「ストレステストは必ずしも再稼働の条件で
はない」となおも抵抗する海江田大臣・経済産業省サ
イドと「今まで通りの安全基準では国民には納得して
もらえない。再稼働にはストレステストが必要」と主
張する細野豪志大臣・菅総理サイドの間での軋轢が見
られたが、最終的には7月11日に「2段階のストレステ
スト(定期点検中の原発には簡易版のストレステスト
を適用してそれにパスしたものの再稼働は許可する。
ただし、その後本格的なストレステストを稼働中の原
発すべてに適用し、必要に応じて停止命令を出す)」
という政府としての統一見解を出すことで決着する。
※日本の政治家で最初にストレステストの必要性を訴
えたのは、自民党の河野太郎衆議院議員。浜岡原発の
停止を政府が指示した際に、5月6日付けの自身のブロ
グで「ようやく浜岡原発の停止を政府が要請した。残
りの原発に関してもきちんとしたストレステストをす
べきだ」と発言している。
井野博満東京大学名誉教授の見解
【ストレステストの問題点】
・シミュレーションは机上の作業であり、シナリオ次
第で恣意的な結論に導くことができる。
・プラントの弱点の把握や改善のためのツールとして
利用は出来ても、絶対的な安全評価はできない。
・イベントツリーによる事象推移のシナリオは二設計
基準内評価に基づくもので「想定外」は含みようが
ない。
・事故は(人的ミス)十(目に見えない欠陥)十(不運)に
よって起こる。ストレステストで予測することは出
来ない。
【エピソード】
今回はストレステストについて考えてみたが、システ
ムとしては道半ばであり、不完全だという印象で予断
が許されない緊迫した中にある。次回は、食品中のセ
シウム量の基準について考察してみる。
さて、今日は最長老の谷口三平宅を訪問し、会の継続
を伝えたが、流行風邪で体調が思わしくないのか、い
つもの元気がないのが気掛かりで健康を気遣い帰って
きたが「日も暮れよ、鐘も鳴れ 月日は流れ、わたし
は残る...」となぜかアホリネールの「ミラボー橋」)
の詩篇が過ぎった。
【脚注及びリンク】
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1.ちきゅう座ホームページ
2.後藤政志さんが語るストレステストの問題点
3.ストレステスト. ウィキペディア
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