えーっと。
先日のDVD鑑賞会の時に、お友達のRED担さんたちと、
アルコール依存症のREDに関しての妄想を話し合いました(笑)
その時には、お友達の妄想を聞くだけで、
私の妄想はお話出来ず仕舞いだったので、
文字にしてみました。
なんとなく中途半端な仕上がりな気もしますが。
よろしければ、お付き合いください。
STORY.40 終わりのない旅
ぽと・・・ん・・・
水音が、ひとつ。
明かりの消えた部屋に響く。
カシャン、
カランカランカラン・・・
軽い音を立てて、アルミの缶がテーブルに転がる。
いくつも並び、倒れた空き缶。
栓を抜いた小瓶。
飲み残したままのグラス。
吸い殻で溢れた灰皿。
零れおちた灰。
干からびた野菜スティック。
粉々になったチップスのかけら。
そんなものに埋もれて。
うごめく・・・
塊・・・
・・・・・・俺の身体。
さして温かくもない毛布にくるまって、
俺は、
見知らぬ景色の中へと放りだされる。
それが夢でも、現でも。
そんなことは関係あらへん。
俺にとっては、どっちみち異世界には違いあらへん。
そこに俺が居ようが、居まいが。
限りなく時間は過ぎていく。
俺はただ。
ぼんやりとそれを眺めているだけや。
どこにおっても、俺はただの異端者でしかないんやから。
・・・・・・あかん。また、や。
なんでこんなふうに、どうでもええことばっかり考えてるんや。
俺は眠りたい。
眠りたいんや。
なんもかも忘れて・・・
忘れ去ってしまいたいだけやのに。
お願いやから。
静かに眠らせてくれ。
まだ、足りんか。
ああ・・・
もうちぃと飲まんとあかんか・・・
俺はゆっくりと身体を起こす。
ひんやりとした空気に、一瞬身体が震える。
暗い部屋。
カーテンの隙間から洩れてくる、隣のビルのネオン灯りをたよりに、
這うように冷蔵庫まで辿り着く。
冷蔵庫のドアを開けると、
あざやかな光が部屋にこぼれ出す。
ビールの缶を取り出して、ドアを閉めれば。
また部屋には暗闇が舞い戻ってくる。
シン・・・とした、音のない空間に、
プルタブを開ける音だけが響く。
のどを通りすぎる冷たさと独特の苦み、そして炭酸の刺激。
息もつかずに一気に缶を傾ける。
飲みきれなかった滴が、口の端を濡らして落ちる。
それを手の甲で拭う。
缶に残った液体を、俺は頭からかける。
はじける音が、
髪を濡らし、
首筋を伝い、
頬を流れる。
身体の内から、外から。
アルコールの匂いが立ち上る。
溺れていく。
沈んでいく。
淀んでいく。
限りなく、深い、暗い、
水の底へ。
抗うように這いながら、辿り着いたのは。
煙草の匂いと、
俺の体臭の染み付いた、冷たいだけの布。
俺は、本当はどこへ行きたいんやろう・・・・・・
それは。
答えのない問いかけ、
出口のない迷路、
終わりのない・・・・・・旅。
空を見上げる。
雪・・・
いつから、降ってる?
電車・・・
遅れてるやん。
間に合わへんな・・・
俺は時計をちらりと見る。
ああ、あいつ、待ってるやろな。
風邪、ひいたりせぇへんやろな。
あったかい店の中で、待ってたらええけど。
ひとりで喫茶店にすら、よう入られへんような女やからな。
覆い尽くす白。
色を失くし始めた街。
甲高い車のブレーキ音。
にぶい衝撃音。
舞い散る白。
滲む鮮赤。
横たわる、あいつの身体。
眠ったような横顔。
動かない。
動かない、動かない、動かない。
俺の足。
もしも、なんて言葉。
好きじゃない。
あるいは、なんて言葉。
役にも立たない。
悔んだところで、もうここに、あいつはおらへん。
俺に身体あずけて、
俺の側で、いつも笑ってた、あいつは、もう。
気分屋で、
何をするにも融通が利かなくて
納得出来へんことには従えなくて、
誰かに理不尽に指図されるのがイヤな俺を。
諭すでもなく許すでもなく、
それでも根気よく。
気長にそばにいてくれた、あいつ。
あいつとやったら、
この先にある、すべてのものに立ち向かっていけると思ってた。
あいつを守るためやったら、
なんだって出来ると、本気でそう思ってたのに。
たったひとつの、
その大切なものさえ、
俺は守りきれなかった。
守ってやれへんかった。
あんなに近くにおったのに。
もしも雪が降らなかったら。
もしも電車が遅れなかったら。
あるいは、
俺の仕事がもっと早く終わっていたら。
あるいは、
あの日、約束なんかしなければ。
あるいは。
俺と付き合ったりしなければ。
あいつは、あの日の、あの場所に立つこともなかったはずやのに。
結局。
あいつを死なせたんは。
・・・・・俺。
あいつの、夢とか未来とか。
明るいもんをいっぺんに奪ってもうた。
どうあがいても、
償う手立てはあらへん。
忘れたくて、
忘れたくて、
忘れたくなくて。
浴びるように飲んだ。
酔って、
酔って、
酔って。
酔い潰れて倒れてしまえば。
そのまま忘れられると思った。
眠れると思った。
だが。
酔って眠った日に限って。
そこに、あいつがいた。
言葉もなく、
哀しそうにこっちを見ている、あいつが。
最初は忘れたくて飲んでた酒が、
いつのまにか、あいつに逢うための酒になった。
いつか、
あいつが喋ってくれるような気がして。
俺に、言葉をくれるような気がして。
逢いたくて、
逢いたくて、逢いたくて。
もう一度。
もう一度、もう一度、もう一度。
繰り返し、繰り返し、繰り返し。
浴びるように、酒を飲み続けた。
なぁ。
なんで答えてくれへんねん。
なぁ。
何度も名前呼んでるやん。
なぁ。
俺の名前、呼んでくれや。
なぁ。
こっち来て、前みたいに俺にもたれかかってくれ。
なぁ。
そんな顔せんと、笑うてや。
なぁ。
お前の笑った顔、好きやったんやで。
なぁ。
もう一回、笑うて。
頼むわ。
なぁ。。。
やがて、朝が来る。
いつものように、俺は目を覚ますやろ。
今日も生きろ、と。
現実へと放りだされるんや。
何をする?
何をしたら、ええ?
あいつのいない現実に、
俺がいる意味は、あるんか?
俺を理解ってくれるヤツは、どこにも、おらへんのに。
誰か、
教えてくれ。
俺は、どこへ行く?
何をする?
何のために、
何をするために?
どこで、答えを探したらええ?
どこに答えはある?
俺は・・・
俺は・・・
ただ・・・。
そしてまた、暗い部屋に空き缶の転がる音が響く。
もう、ずいぶん前のことみたいやけどな。
あれから、そう何年も経ってへんよな。
あいつの代わりに。
あいつを守る代わりに。
あいつがいたこの街を。
俺が今、何をしてるかをあいつが知ったら。
あいつは何て思うんやろ。
今やったら、笑ってくれるんかな。
あの、懐かしい、甘くて優しい声で。
俺の名前を呼んでくれるやろうか。
俺がまとった色は、
あの日の、あいつが流した色。
忘れたくて、
忘れられへん、
決して忘れたらあかん、
あの雪に散った、
赤。
Fin.