殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

月光仮面の謎

2011年09月09日 20時41分24秒 | みりこんぐらし
先日の夜、家族でコンビニへ出かけた。

我々と入れ替わりに、駐車場から出る1台の車。

「あ!月光仮面だ!」

長男が叫ぶ。

    「どこ?どこ?」

「さっきの車の人。

 オレ、Tさんの船で、時々釣りに連れてってもらうじゃん。

 そこでよく会う女の人だった」


Tさんとは、町内で美容院を経営する中年男性(注・珍珍丸氏ではない)。

二人目の奧さんと、子供がいる。

息子達の会話を聞いていると、親切で気持ちのいい人らしい。

店と自宅は賃貸で、クルーザーは持っているというのが

私の裏腹アンテナを一瞬刺激したものの

それは本人の勝手であり、気にするほどの興味も権利もなく

そのまま忘れていた人物だ。


   「あれは、あんた、私が行ってた病院の栄養士さんよ。

    ほら、S子さんよ」

「ええ~?」

   「なんであの子が月光仮面なのよ」

「だって、いつも全身白ずくめで、サングラスに覆面までしてるもん。

 Tさんと釣りをする人は、みんなそう呼んでる」

   「日焼け対策じゃないの?」

「やり過ぎだよ。

 最初から最後まで口をきかないし、不気味じゃん。

 ものを言わないところも、月光仮面。

 あれが誰か、釣り仲間の間では、ずっと謎だったんだ。

 あ~!わかってスッとした!」


S子さんが釣りをするのは、知っていた。

火曜日の朝、髪型を変えて出勤してくることが多いのにも、気はついていた。

このあたりの美容院は月曜が定休日なので

月曜の夜に頭をどうにかしようと思ったら

美容師とよほどの仲良しでなければ無理。

S子さんは、どこかの美容師と懇意なんだろうと思っていた。

懇意も懇意…意外な人物同士がつながって、私も少なからず驚いた。



   「あんたが私の子だから、覆面で隠してるんじゃないの?

    だったらTさんの船に乗るのは、遠慮したほうがいいんじゃない?

    ほら、隠し過ぎて熱中症にでもなったら気の毒だからさ」

「いや、オレが乗ってない時もそうらしいよ」


S子さんは、アラフォーの独身。

私が就職した頃は、まだ30前のかわいらしいお嬢さんだった。

が、彼女には、ずっと不倫疑惑がつきまとっていた。

当時はTさんではなく、サラリーマンだったと聞いている。


「なかなか結婚しないのは、結婚できない相手とおつきあいしているから」

同僚の間では、そうささやかれており

S子さんの前では、結婚や不倫の話はだめ…

どこかでS子さんを見かけても、絶対に話しかけてはいけない…

などのひそかなタブーが存在した。


「ちょっと結婚がゆっくりなだけで、勝手なこと言われて気の毒だわ」

私は当初、そう思っていた。

だが新人の頃、先輩に教えられたタブーは

勤めていた8年の間に、迷信から確信へと昇格した。


とはいえ、決定的な現場を見たわけではない。

深夜、ひと気の無い道路脇に、人待ち顔でたたずんでいたり

助手席のシートを倒した彼女の車とすれ違ったりが

たびたびあっただけ。

何気ないそれらの積み重ねが、疑惑を事実に変えていったといえよう。


プライベートで、はからずも出くわした者には

翌日からしばらくツンツンされる刑が待っていた。

ふだんのおっとりと柔らかい物腰はどこへやら

その変わり身、慣れないうちは、けっこう恐ろしかったどすえ~。


どう考えても、隣町からわざわざ我々の住む町へ来て

ウロチョロするS子さんが悪いと思うが

S子さんにしてみれば、自分の行動範囲をおまえらがウロチョロするな

という気持ちなのだろう。


彼女の態度に関して、抗議はしなかった。

ことを荒立てて職を失うと困る者が多かったし

今後の成り行きを見守る楽しみも捨てがたい。

ツンツンされるくらい、何であろう。


ご存知のとおり、私の裏稼業は選挙のうぐいす。

選挙カーで、父親と暮らす彼女の家の前も通ってしまう。

知的でアカヌケした彼女の印象とは真逆の

赤や黒のど派手な下着が臆面もなく干してあり、毎回驚く。

古い家具と段ボール箱がふんだんにあしらわれたエレガントな勝手口…

くすんだ窓と朽ちたカーテンのクラシカルなニュアンスも取り入れて…

ま、見てはならぬものも見てるわけよ。


このずたずたハウスから、流行のファッションに身を包み

小粋な外車に乗り込んで、お出ましなされているのだ。

夜も休日もデートや待ちぼうけに忙しければ、家どころではなかろうが

人前の印象と実態との裏腹が大きいのも、不倫者の特徴であると

持論に自信を持つ、意地の悪い私であった。




さてさて、場面はコンビニへ戻る。

「不倫だろ?あれ…。

 隠しながら、人前に出たいんだろ?」

そう言って、フフ、と笑う長男。

   「おや、あんた、わかるの?」

「いくつだと思ってんだよ」

   「そういうのがピンとくるようになったとはねえ」

「誰の子だと思ってんだよ」

   「おお、これは失礼、失礼」


♪月光仮面のおばさんは~ 正義の味方よ 良い人よ~♪

帰り道、月光仮面の歌を合唱するバカ一家であった。
コメント (41)
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