殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

電気椅子

2014年07月08日 08時17分18秒 | みりこんぐらし
我が町に住む一部の老人達が夢中になっているもの…

それは電気椅子。

商店街の空き店舗を会場にして老人を集め

20脚ある特別な椅子に並んで座らせて電流を流す。

それで殺害するのではなく、元気にするという。


ちなみに無料。

この2ヶ月、義母ヨシコも

近所に住む老夫婦の車で毎日通っている。


ヨシコが言うには、大きな機械とつながった椅子に流すのは

電気でなく電子だそうだ。

座りながら20分、開発チームの一員と名乗る男性の説明を聞く。

世のため人のために開発された、万病に効果のある機械で

みんなはその男性のことを「先生」と呼んでいるという。


先生がおっしゃるには、この機械は1億円以上するので

一般の人に売るつもりはなく、病院に置いてもらうための

デモンストレーションなのだそうだ。

だったら直接病院に行って営業すればいいようなものだが

先生は、まず充分なデータを集めたいとおっしゃる。

会場に集う人々は、モニターさんとして

日々社会貢献をしているのだそうだ。


又聞きというのは胡散臭く聞こえるものだ。

しかし胡散臭く聞こえた話が

胡散臭くなかったタメシが無いのも本当である。



実はこの機械、何年も前から我が町に存在していて

社名と会場を次々に変えながら、営業を続けている。

データはもう充分集まったはずだが、まだ不足のようだ。

先生はとっても慎重な性格らしい。


そのうち月末が近づくと、先生はこう言い出したそうだ。

「あまりにも効果があるので

患者を奪われた医師会から圧力がかかっています。

ひょっとすると、今月いっぱいで撤退することになるかもしれません。

もっと人数を集めて、数の力で対抗したいので

皆さんご協力をお願いします」

病院に売り込みたいと言いつつ、医師会を敵に回す矛盾には

どなたも気がつかない。


先日、ヨシコは先生に言われた。

「これだけ通って誰も紹介しないのは、ヨシコさんだけですよ。

一人ぐらいはお願いしますよ」

先生は飴とムチをうまく使うのだ。

家に帰って、悩むヨシコ。


思いつく知り合いは、すでに誰かの紹介で会場に通っているか

入院中の者ばかり。

それでも電話帳をめくり、勧誘にとりかかる。

対象は、昔、買物をしていた店の店員や

たまにスーパーや病院で会う人だ。

が、名字を思い出せなくて挫折。


ヨシコより困ったのは、私であった。

彼女が電気椅子へ座りに行く昼間の1時間は

夕方の日課、義父アツシの見舞いと並び

私にとって静寂のパラダイス・アワーだ。

これが無くなるのは惜しい。

だから先生と電気椅子のご盛栄を

ひそかにお祈り申し上げていたのだ。


「私でよかったら行くよ?一回行けばいいんでしょ?」

と、提案してみた。

しかしヨシコは首を振る。

はっきり言わないが、私を連れて行くのは嫌らしい。

ともあれ忘れっぽいヨシコ、翌日にはすべて忘れた様子で

元気に通っている。


私だって、先生に会ってみたいぞ。

店舗用の電源から2万ボルトの電流を作り出し

それをさらに電子に変えて椅子に流すという優秀な頭脳を持ちながら

エネルギー分野で儲けることは考えず

地味に老人のおもりをしてくれる

立派な先生のご尊顔を拝見してみたいじゃないか。


「病院に置いてもらいたいなら

厚生省に手を回す方が早いのではないでしょうか」

などと、おそれながら進言させていただきたいじゃないか。


「昨日は367人来られました」

とおっしゃる先生に、1回30分かかる電気椅子20脚に

全て満員御礼で人が座ったとしても

昼休みを除いた7時間の間では、どう計算しても280人だと

掛け算を教えてさしあげたいじゃないか。


クーラーが無くてウチワなのは

節約なのか、電気のプロだからこそのエコなのか

たずねてみたいじゃないか。


売り物じゃないはずの椅子を50万で買った人がたくさんいるけど

それは先生のそっくりさんがやっていることなのかどうか

ちゃんと確認したいじゃないか。


ついでに、上着を脱いで椅子に座るのを計算して

黒のブラジャーに付け替えるヨシコのように

ときめいてみたいじゃないか。

冗談だよっ!

コメント (17)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする