殿は今夜もご乱心

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洗濯と認知症・1

2014年07月21日 14時08分57秒 | みりこんぐらし
夫の実家で義母ヨシコと暮らすようになってから、2年余り。

姑と同居する友人と、嫁姑や介護について話す機会が増えた。


昔から女が集まると、この手の話は出ていた。

みんなで愚痴を聞いたら「大変ねえ」「頑張って」で終わるパターン。

同居10年でケツを割り、家出した経歴を持つ私なんぞ

「そんなに辛いんなら、どうして別居しないのだ?」

と直接たずねたり、たずねにくい相手の場合は心で思っており

はなから戦力外であった。


しかしこっちが同じ境遇になると、相手も話しやすいようだ。

嫁も年老いたが、おばあちゃんも年老いた。

家族生活というより、人命救助に近い日常を送る嫁同士は

全部言わなくてもわかり合える戦友であり

交わす会話も、ずいぶん具体的なものになった。

話題は緊急事態の対処法や脳トレ、デイサービスの格付け

後期高齢者医療制度、税金、法律問題に及び

それはもはや愚痴でなく、情報交換に格上げされたように思う。


とはいえ各家庭で日々繰り広げられる、女同士のあつれきは健在。

私の周りだけなのかもしれないが、なぜか頻繁に登場するのが洗濯ネタだ。

「出勤前に干した物が、帰宅したら干し直されていた」

「片方の袖がひっくり返ったまま干していたと

鬼の首でも取ったように言う」

「嫁のだらしのなさが干し方に出ていると人に言った」

「干し直されていたので直し替えたら、また直されていた」

「姑流の干し方でないと気に入らない」

いくらでも出てくる。


中でも姑流の干し方というのは厄介だそうで

パンツもシャツも何もかも太陽にさらす昔のやり方が

家族を危険にさらすと、何度説明しても理解せず

両者、険悪な雰囲気になるという。

洗濯物で「家に女の子がいます」とうっかり発表してしまうことが

変質者のハートを刺激するのも、花粉や黄砂も

昔はポピュラーではなかったからだ。


どうしてこうも洗濯のイザコザが多いのか。

しかも干すことばっかり。

それを話すお嫁さん達の表情も、他のイザコザとは異なるみたい。

口元が曲がり、瞳は憎しみにうるむ。

昔話の桃太郎を持ち出して「おばあちゃんと洗濯はセットなのだ」

なんて言おうものなら、ぶっ飛ばされそう。

嫁姑、負の記憶部門・第一位は

洗濯物の干し方になりそうな勢いではないか。


物理的な解消ならば簡単だ。

干さなきゃいい。

ドラム式の洗濯機で、乾燥までやっちゃえばいい。

しかしそれは、おばあちゃんと暮らす家庭の洗濯量を

知らない人の言うことだ。


あの人達は脱ぐ。

とにかく脱ぐ。

脱いで、やたら着替える。


それは尿漏れの措置だったり

低血糖や高血圧による発汗だったり

よそ行きと普段着のケジメをつける世代的習慣だったり

さっき脱いだ上着のことは忘れて

また新しくタンスから引っ張り出す、物忘れのせいだったりする。

とてもじゃないが、機械乾燥では追いつかない。


その上、おばあちゃんの着る衣服はデリケート素材が多い。

古くなったよそ行きを普段着におろす習慣があるからだ。

機械乾燥で劣化したら大騒ぎするのは、目に見えている。


さらに機械乾燥をしたら、すぐに取り出してたたまなければ

シワクチャになってしまう。

そんな贅沢な時間は取れないのが、おばあちゃんのいる家庭なのである。

言い出したらきかない…

おとなしいと思ったら倒れている…

おばあちゃんの揺れるハートと体調の波間を縫って家事をこなすには

時間配分の技術が必要だ。

せめて洗濯物には、手が空くまで

おとなしく竿にぶら下がってもらわなくては。



私は洗濯に興味を持った。

いや、持たざるを得なかった。

なぜなら洗濯にこだわっていたおばあちゃん達のことごとくが

やがて認知症になったからである。


うちにも一人、他の家事はしないけど

洗濯だけはたまにやるおばあちゃんがいる。

やりたがるのは洗剤投入とスイッチを押すところまでで

干すのも、取り込むのも、たたむのも忘れるため

腹を立てるほどのこともないが

認知症の足音が近づいている気配は否定できない。


明日は我が身…

認知症の面倒を見るのもゲロゲロバーだが

自分はそうならないという保証がどこにあろう。

「ああは絶対にならない」と言っていた人ほど

後々その「ああ」になっていくのをたくさん見た。

自分の姑を嫌いまくっていたうちのおばあちゃんも

顔つきや口癖が、その姑とそっくりになってきた。


このまま行くと、私もそうなる可能性、大である。

私は洗濯と認知症の関係を解明すべく

数々の証言と自身の体験を元に研究を開始した。

洗濯問題をどうにかすれば、認知症問題もどうにかなるのでは…

そんな野望に燃えた。


《続く》
コメント (6)
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