『蓮子様のつもりです…念のため』
NHKの朝ドラで放映中の「花子とアン」。
かの有名な小説「赤毛のアン」を翻訳し
日本に紹介した村岡花子さんの話だ。
大正モダン好きの私としては
当時の髪や着物、家具調度を眺められる喜ばしい番組だ。
お気に入りの登場人物は、きつい性格の小説家、宇田川満代である。
毎朝見ているが、ここしばらくの感想は「結局不倫じゃんか」。
後付けで美しく飾ったって、そういうことなのよね…
なんだかガッカリな展開が続いている。
花子が恋するのは、結核の奥さんがいる村岡印刷。
誠実なセレブ男子の裏の顔は
シモの方がしばらくゴブサタだった男が、よその女によろめいただけ。
画面では、雨の中で抱き合うところまで。
しかしその後、奥さんがいると知った花子の狼狽ぶりは
昔の乙女の純情を考慮しても、尋常ではない。
本当は、二人の関係はもっと進んでいた…と勝手に決める。
二人の関係を察知して「待たれるのは嫌なの」と
自ら離婚を切り出した奥さんだが、ほどなくあっさり死ぬ。
夫の心変わりに苦しむ気力体力が残っている妻が
そう都合よくコロッと死ぬもんか。
夫と花子の恋心を知りつつも
病気でどうにもならない奥さんの気持ちは、いかばかりであったろう。
瀬戸際でサッと死んでもらい「不倫じゃなくて恋!セーフ!」
ということにして、嬉し恥ずかし結婚式へと進めたいんだろうけど
本当はもっとゴタゴタしたに違いない…とやっぱり勝手に決める。
花子のお友達、蓮子様もご多忙のご様子。
蓮子様のモデルは実在の人物、歌人の柳原白蓮らしい。
シナリオが史実に忠実であれば、彼女はこの後
今付き合っている思想家の彼氏と駆け落ちし
石炭王の旦那にあてた離縁状を新聞にデカデカと発表して
大恥をかかせる予定。
やがて思想家とは別れて、最終的には昔馴染みの新聞記者と一緒になる予定。
蓮子様の気持ちは、わからないでもない。
旦那だった石炭王は、無骨ながらも温かい人物に描かれているが
実際には家の中にお手つき女中がウヨウヨおり
そこに産まれた継子もいた。
下賤の嫉妬や好奇の渦巻く家で、敵陣にただ一人。
気の休まる時が無かっただろう。
伯爵家の令嬢を家に迎えるにあたって、当時は珍しかった
水洗トイレまで用意する気遣いをした石炭王だが
自分にはべる女達を片付けようとは考えなかった。
無骨ゆえの片手落ち…それはそのまま、妻への残酷となった。
さて、こっちにはレン子様じゃなくてラン子様がおられる。
すっかりお馴染み、友人のラン子である。
選挙のウグイス仲間として親しくなり、遊ぶようになったのは3年前。
30年以上前に旦那の浮気で離婚したきり
独り身を通してきた彼女に、時折オトコの影がちらつくのを
年に一回ぐらい感じていた。
最初は一昨年のゴールデンウィーク。
友達と九州方面へドライブに行ったそうで
帰りにうちへ土産を持って来た。
うちの義母ヨシコが、“アオサ”という海草の乾物が好きだと
私から聞いていたので、見つけて買ったという。
優しい心くばりであった。
外まで見送りに出たが、免許の無いラン子が
乗せてもらって来たはずの車はどこにも見当たらない。
見通しのいい道路の構造上、あえて隠れているとしか思えなかった。
隠れるということは、車の持ち主は私の知っている人であり
見られると都合が悪いというのはわかった。
もったいぶるほどでもないのに隠したがり
隠したがりながらも、わざわざ危険をおかしてしまう…
不倫の習性に似たその行動に、きな臭さを感じた私であった。
後で包みを開けたら、それはアオサではなく青のりだった。
そんなことなどすっかり忘れた翌年の同じ頃
一緒に隣の市へ洋服を買いに行った。
店の人がラン子に「ご主人、お元気ですか?」とたずねた。
ラン子は平然を装い「ええ、元気よ」と答えた。
「お買い物に付き合ってくださるなんて、優しいですね」
「まあね」
「あれだけ体格がいいと、食事のこととか、大変でしょう」
「まあね」
つまりラン子は、男とここへ買い物に来たらしい。
その男が元気かどうか聞かれるからには、ずいぶん前のことらしい。
体格がいいのが食事に連結するところを見ると
そいつはかなりのデブらしい。
私はひそかにホッとしたものだ。
一人暮らしで身体の弱いラン子を気にかけてくれる男性がいるなら
心強いではないか。
だから聞こえてないふりをした。
そして今年、詳しくはつい先日…
ラン子の身体に異変が起きた。
ゼリー状の健康飲料を飲んで、仕事中に倒れたのだ。
高血圧の薬を服用しているのに
グレープフルーツのゼリーを飲んだのが原因だった。
降圧剤と果物のグレープフルーツは、相性が悪いのだ。
タクシーで早退したが、回復しないので
友人のヤエさんを呼んで病院へ行った。
後日、ヤエさんと私はラン子に言った。
「一人暮らしは気楽だけど、そばに誰かいるほうが安心だから
真剣に再婚を考えてみたら?」
ダメ元で、婚活に協力するつもりもあった。
それを受けて、ラン子は言った。
「ケンちゃんと、どうして結婚しなかったんだ?って
同級生がみんな言うのよ」
ラン子とケンちゃんは同級生だ。
私も知っている。
すんごく太っていて、色黒の上に重篤なブサイク。
こう言ってはナンだが、歩く焼き豚みたいな人だ。
「結婚たって、ケンちゃんには奥さんがいるじゃないの」
「フフ…そうだけどぉ」
この時、二人の関係を確信した。
3年がかりで、はからずもラン子様の秘密を知ることとなる。
ケンちゃんは、建設関係の会社の跡取り息子だった。
過去形なのは、会社が経営不振で廃業したからだ。
チヤホヤされて育ったボンボンで
生活力は無いのにプライドだけは二人前。
そう、どこかの旦那と似ている。
お相手は判明したものの
あまりにザンネンな男のため、反応する気も起きない。
ごきげんよう。
NHKの朝ドラで放映中の「花子とアン」。
かの有名な小説「赤毛のアン」を翻訳し
日本に紹介した村岡花子さんの話だ。
大正モダン好きの私としては
当時の髪や着物、家具調度を眺められる喜ばしい番組だ。
お気に入りの登場人物は、きつい性格の小説家、宇田川満代である。
毎朝見ているが、ここしばらくの感想は「結局不倫じゃんか」。
後付けで美しく飾ったって、そういうことなのよね…
なんだかガッカリな展開が続いている。
花子が恋するのは、結核の奥さんがいる村岡印刷。
誠実なセレブ男子の裏の顔は
シモの方がしばらくゴブサタだった男が、よその女によろめいただけ。
画面では、雨の中で抱き合うところまで。
しかしその後、奥さんがいると知った花子の狼狽ぶりは
昔の乙女の純情を考慮しても、尋常ではない。
本当は、二人の関係はもっと進んでいた…と勝手に決める。
二人の関係を察知して「待たれるのは嫌なの」と
自ら離婚を切り出した奥さんだが、ほどなくあっさり死ぬ。
夫の心変わりに苦しむ気力体力が残っている妻が
そう都合よくコロッと死ぬもんか。
夫と花子の恋心を知りつつも
病気でどうにもならない奥さんの気持ちは、いかばかりであったろう。
瀬戸際でサッと死んでもらい「不倫じゃなくて恋!セーフ!」
ということにして、嬉し恥ずかし結婚式へと進めたいんだろうけど
本当はもっとゴタゴタしたに違いない…とやっぱり勝手に決める。
花子のお友達、蓮子様もご多忙のご様子。
蓮子様のモデルは実在の人物、歌人の柳原白蓮らしい。
シナリオが史実に忠実であれば、彼女はこの後
今付き合っている思想家の彼氏と駆け落ちし
石炭王の旦那にあてた離縁状を新聞にデカデカと発表して
大恥をかかせる予定。
やがて思想家とは別れて、最終的には昔馴染みの新聞記者と一緒になる予定。
蓮子様の気持ちは、わからないでもない。
旦那だった石炭王は、無骨ながらも温かい人物に描かれているが
実際には家の中にお手つき女中がウヨウヨおり
そこに産まれた継子もいた。
下賤の嫉妬や好奇の渦巻く家で、敵陣にただ一人。
気の休まる時が無かっただろう。
伯爵家の令嬢を家に迎えるにあたって、当時は珍しかった
水洗トイレまで用意する気遣いをした石炭王だが
自分にはべる女達を片付けようとは考えなかった。
無骨ゆえの片手落ち…それはそのまま、妻への残酷となった。
さて、こっちにはレン子様じゃなくてラン子様がおられる。
すっかりお馴染み、友人のラン子である。
選挙のウグイス仲間として親しくなり、遊ぶようになったのは3年前。
30年以上前に旦那の浮気で離婚したきり
独り身を通してきた彼女に、時折オトコの影がちらつくのを
年に一回ぐらい感じていた。
最初は一昨年のゴールデンウィーク。
友達と九州方面へドライブに行ったそうで
帰りにうちへ土産を持って来た。
うちの義母ヨシコが、“アオサ”という海草の乾物が好きだと
私から聞いていたので、見つけて買ったという。
優しい心くばりであった。
外まで見送りに出たが、免許の無いラン子が
乗せてもらって来たはずの車はどこにも見当たらない。
見通しのいい道路の構造上、あえて隠れているとしか思えなかった。
隠れるということは、車の持ち主は私の知っている人であり
見られると都合が悪いというのはわかった。
もったいぶるほどでもないのに隠したがり
隠したがりながらも、わざわざ危険をおかしてしまう…
不倫の習性に似たその行動に、きな臭さを感じた私であった。
後で包みを開けたら、それはアオサではなく青のりだった。
そんなことなどすっかり忘れた翌年の同じ頃
一緒に隣の市へ洋服を買いに行った。
店の人がラン子に「ご主人、お元気ですか?」とたずねた。
ラン子は平然を装い「ええ、元気よ」と答えた。
「お買い物に付き合ってくださるなんて、優しいですね」
「まあね」
「あれだけ体格がいいと、食事のこととか、大変でしょう」
「まあね」
つまりラン子は、男とここへ買い物に来たらしい。
その男が元気かどうか聞かれるからには、ずいぶん前のことらしい。
体格がいいのが食事に連結するところを見ると
そいつはかなりのデブらしい。
私はひそかにホッとしたものだ。
一人暮らしで身体の弱いラン子を気にかけてくれる男性がいるなら
心強いではないか。
だから聞こえてないふりをした。
そして今年、詳しくはつい先日…
ラン子の身体に異変が起きた。
ゼリー状の健康飲料を飲んで、仕事中に倒れたのだ。
高血圧の薬を服用しているのに
グレープフルーツのゼリーを飲んだのが原因だった。
降圧剤と果物のグレープフルーツは、相性が悪いのだ。
タクシーで早退したが、回復しないので
友人のヤエさんを呼んで病院へ行った。
後日、ヤエさんと私はラン子に言った。
「一人暮らしは気楽だけど、そばに誰かいるほうが安心だから
真剣に再婚を考えてみたら?」
ダメ元で、婚活に協力するつもりもあった。
それを受けて、ラン子は言った。
「ケンちゃんと、どうして結婚しなかったんだ?って
同級生がみんな言うのよ」
ラン子とケンちゃんは同級生だ。
私も知っている。
すんごく太っていて、色黒の上に重篤なブサイク。
こう言ってはナンだが、歩く焼き豚みたいな人だ。
「結婚たって、ケンちゃんには奥さんがいるじゃないの」
「フフ…そうだけどぉ」
この時、二人の関係を確信した。
3年がかりで、はからずもラン子様の秘密を知ることとなる。
ケンちゃんは、建設関係の会社の跡取り息子だった。
過去形なのは、会社が経営不振で廃業したからだ。
チヤホヤされて育ったボンボンで
生活力は無いのにプライドだけは二人前。
そう、どこかの旦那と似ている。
お相手は判明したものの
あまりにザンネンな男のため、反応する気も起きない。
ごきげんよう。