《パピです。今年もよろしくお願いします》
倒産寸前だった義父の会社を閉じ
新しい会社を作ると同時に
都市部の企業と合併して3年半が過ぎた。
合併を推進した本社の河野常務から
手厚い保護を受けつつ
気楽に過ごした年月であった。
どんな環境であれ、3年も経てば
およその状況は把握できるようになる。
ことに夫が、持ち前の人たらしの術で
本社営業部の青年、野島君を手なづけた
昨年の夏以降
本社の内情がよくわかるようになった。
野島君は、面白い事実をたくさん教えてくれた。
隙あらば社内の若者を
カルト宗教に誘おうとするため
陰でパワハラ部長と呼ばれている
経理部長ダイちゃんの話‥
コネ入社させたアホの甥に
自分のポストを継がせようと
画策に余念のない河野常務の話‥
ぶっちゃけ、みんな腐っているということだ。
会社ってのは多かれ少なかれ
腐っているものだが
中でも営業部の腐りっぷりは見事だという。
20人ほどいる営業部の人達は
本当は誰も営業ができないらしい。
「僕達、若い者を知らない所へ行かせて
万が一仕事が取れたら
座って待ってる先輩が手柄を奪うんです」
野島君は憤まんやるかたない口ぶりで
こぼすのだった。
営業の神様、団さんがいた一昨年の末までは
団さんの取った仕事を分け合っていたが
70才で肩たたきに遭った団さんが退職して以来
営業部が目もあてられない状態になっているのは
我々も気づいていた。
団さんのいた10年間
彼のおこぼれをむさぼるだけで
後進が育っていないのだ。
野島君の主張によれば、一番あくどいのは
昨年42才の若さで取締役に昇進した
永井営業部長だという。
これには我々も思いあたるフシがある。
合併当初、河野常務の前では友好的を装いつつ
「田舎で溺れかけていたおまえらに何ができる」
と言わんばかりの上から目線を
ひしひしと感じた。
しかし彼とは滅多に会わないので
敵とみなすほどでもなかった。
彼は立ち回りが非常にうまく
我が社に入った仕事を
営業部が取ったように工作するのは知っていた。
その情報を我が社の元営業課長であり
現在は遠隔地にある生コン工場の工場長になった
松木氏に探らせていることも知っていた。
担当が変わっても、松木氏が工場をほったらかして
足しげく我が社を訪れるのはそのためであった。
我々は松木氏こそ、腐ったハイエナ野郎と
信じて疑わなかった。
しかしなんの、永井部長以下、営業部全体が
腐ったハイエナ集団だったのだ。
もちろん感じは悪いが
途中で入った我々がとやかく言うことではない。
ハイエナにはハイエナの立場や都合が
あるのだろう。
我々は言うに言えぬ感じの悪さを
我慢することで
社内円満に協力しているつもりだった。
しかしここにきて、永井部長との対決を
避けられなくなったのは
おもしろ‥いや、残念なことである。
(続く)
倒産寸前だった義父の会社を閉じ
新しい会社を作ると同時に
都市部の企業と合併して3年半が過ぎた。
合併を推進した本社の河野常務から
手厚い保護を受けつつ
気楽に過ごした年月であった。
どんな環境であれ、3年も経てば
およその状況は把握できるようになる。
ことに夫が、持ち前の人たらしの術で
本社営業部の青年、野島君を手なづけた
昨年の夏以降
本社の内情がよくわかるようになった。
野島君は、面白い事実をたくさん教えてくれた。
隙あらば社内の若者を
カルト宗教に誘おうとするため
陰でパワハラ部長と呼ばれている
経理部長ダイちゃんの話‥
コネ入社させたアホの甥に
自分のポストを継がせようと
画策に余念のない河野常務の話‥
ぶっちゃけ、みんな腐っているということだ。
会社ってのは多かれ少なかれ
腐っているものだが
中でも営業部の腐りっぷりは見事だという。
20人ほどいる営業部の人達は
本当は誰も営業ができないらしい。
「僕達、若い者を知らない所へ行かせて
万が一仕事が取れたら
座って待ってる先輩が手柄を奪うんです」
野島君は憤まんやるかたない口ぶりで
こぼすのだった。
営業の神様、団さんがいた一昨年の末までは
団さんの取った仕事を分け合っていたが
70才で肩たたきに遭った団さんが退職して以来
営業部が目もあてられない状態になっているのは
我々も気づいていた。
団さんのいた10年間
彼のおこぼれをむさぼるだけで
後進が育っていないのだ。
野島君の主張によれば、一番あくどいのは
昨年42才の若さで取締役に昇進した
永井営業部長だという。
これには我々も思いあたるフシがある。
合併当初、河野常務の前では友好的を装いつつ
「田舎で溺れかけていたおまえらに何ができる」
と言わんばかりの上から目線を
ひしひしと感じた。
しかし彼とは滅多に会わないので
敵とみなすほどでもなかった。
彼は立ち回りが非常にうまく
我が社に入った仕事を
営業部が取ったように工作するのは知っていた。
その情報を我が社の元営業課長であり
現在は遠隔地にある生コン工場の工場長になった
松木氏に探らせていることも知っていた。
担当が変わっても、松木氏が工場をほったらかして
足しげく我が社を訪れるのはそのためであった。
我々は松木氏こそ、腐ったハイエナ野郎と
信じて疑わなかった。
しかしなんの、永井部長以下、営業部全体が
腐ったハイエナ集団だったのだ。
もちろん感じは悪いが
途中で入った我々がとやかく言うことではない。
ハイエナにはハイエナの立場や都合が
あるのだろう。
我々は言うに言えぬ感じの悪さを
我慢することで
社内円満に協力しているつもりだった。
しかしここにきて、永井部長との対決を
避けられなくなったのは
おもしろ‥いや、残念なことである。
(続く)