殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
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仁義なさそうな戦い・その2

2016年01月15日 14時59分14秒 | みりこんぐらし
折りしも、我が町で行われる

大規模な公共工事が近づいていた。

向こう10年続くこの工事は

我々の生息する建設業界のみならず

町の宿泊施設やアパート経営者

飲食店や小売店までが

一時的な人口増加を見込んで注目する大事業だ。


そもそも3年前、本社が我が社と合併したのは

この工事が予定されていたからだ。

公共工事には地元業者が優先されるという

建て前がある。

本社は合併によって地元業者の名目を手にし

工事に参入するのが目的であった。


大規模な公共工事の入札は

一部上場のスーパーゼネコンしか参加できない。

大手を優遇しているわけではなく

長い工事期間中に資材の急騰や事故など

不測の事態が起きた場合

対応できる会社でないと困るからだ。


本社営業部は

工事を落札するゼネコンをA社と踏んで

ずいぶん前からA社に張り付いていた。

A社に決まれば、一次下請けとして

仕事を振ってもらう予定で

接待やご用聞きに余念がない。


とはいえ、A社が落札するとは限らない。

入札というのはくじ引きみたいなもので

ネットオークションとは逆に

一番安い値段を提示した会社が

その金額で工事を請け負う。

フタを開けるまで

どの会社が落札するかわからない。

営業部がA社を選んだのは、単に親しいからで

希望的観測による当てずっぽうだった。


一方、夫は地元ならではのレア情報から

B社が落札する可能性が高いと読んでいた。

そこで、親しいA社しか行かない永井部長に

一本釣りを狙う危険性を説明し

たびたび情報を伝えたし、アドバイスもした。

「B社の責任者を紹介するから

一緒に行きましょう」とも申し出た。

しかし永井部長は

夫の進言をことごとく無視した。

夫は怒ってさじを投げ

営業部は相変わらずA社詣でを続けるのだった。


そして昨年11月末日。

問題の工事の入札日がやってきた。

その日、本社は緊張感に包まれていたらしい。

皆が固唾を飲んで、その瞬間を待っていたらしい。

らしい‥というのは

夫がこの工事への関心をすっかり失い

入札日なんて忘却の彼方だったからである。

が、我々は意外な方向から

その日が入札日だったと知ることになる。


田中のオヤジさん‥夫がそう呼ぶ老紳士が

ひょっこり我が社へやって来た。

「取ったど~!」

彼は愛車のレクサスを乗り付けるなり

魚を獲るお笑い芸人のように叫んだ。

「ヒロシ!B社が落札した!」


彼はB社と親密な会社の役員。

工事を落札したB社は

田中氏の会社を一次下請けに指名した。

仮契約を済ませた彼は

その足で我が社へ駆けつけたのだった。


「資材供給はヒロシに一任する」

彼は夫に言った。

「じゃあ単価とか、詰めの話は

本社の営業を行かせます」

「本社?あすこは好かん!

特に営業!生意気!来ても追い返す」


B社が落札したということは

A社は落札できなかったということだ。

同時刻、本社に衝撃が走っているなどつゆ知らず

田中氏の言葉に、ひとまず溜飲を下げる夫であった。


(続く)
コメント (10)
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