殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

まさかさま・芸風篇

2016年11月03日 10時00分46秒 | みりこん童話のやかた
森のお屋敷に嫁がれて、心のご病気になられたまさか様。

「少しずつ快方に向かっている」

「徐々に回復の兆し」

「次第に回復してきている」

「回復の兆候が見える」

これを十何年も繰り返しますと

真面目に聞く人は誰もいなくなりました。

バカにしているのか!という声も

次第に大きくなりました。


「バカにしておられるのではありません」

村に住む、自称・芸能評論家のみりこんさんは言います。

この人は以前、ちょこっとエキストラをやったのが自慢で

すっかり芸能界に詳しいつもりのおばさんでした。


そう言うと、このおばさんは怒るのです。

「何を言う!

私はこ◯らけ◯ごのブサイクな女付き人から

“役作りの邪魔になりますから話しかけないでくださいねっ!”

と注意を受けたのだ!

ヤクヅクリ、だぞよ!

こんなに古典的な注意を受ける者は滅多といないぞよ!

しかも朝ドラ見てなかったもんで

話しかけるどころか芸能人と知らず

無視っていたのに、だぞよ!

控え、控え〜い!」

まったく、食えないおばさんです。


「あれは芸風です」

そのおばさんは言うのです。

「たまに出てきて、手を振られるのが

すっかり芸風として定着したのです。

ごらんなさい。

いかにもやっつけ仕事に見せる、あの技術!

あれは生半可な芸ではありません。


目線とおへそを同じ方向に揃えると

上品で誠実な印象を与えてしまいます。

ご次男の奥様が、常にこれをやっていらっしゃいます。

ですが、オリジナリティを追求なさるまさか様の場合

おへそは進行方向に向けたまま、首だけ動かして

目線だけを村人に向け、手を振られます。

これがいかにも横着そうな雰囲気をかもし出し

“来てやったぞ、喜べ!”

と言いたげな、やっつけ仕事の芸となるのです。


目線をあえて、おへそと別の方向に向けることによって

目つきはどうしても、横目や上目遣いになります。

それが物欲しげや媚び、やぶにらみといった

えもいわれぬ表情を作り出します。

この技術は、一朝一夕では身につきません。


それもそのはず、その昔

ご婚約が整って村人が騒ぎ出した頃のことです。

まさか様のお母様は、お向かいの老婦人にお願いされたそうです。

“まさかが家に出入りする時は、お二階のバルコニーから

手を振ってやってください。

高い所を見上げると、あの子の目が大きく見えるから”

品性よりも目の大きさにこだわる家風が

まさか様に受け継がれ、あの芸風が確立したのです」


「まさか!」

村人たちはせせら笑いましたが

嘲笑をものともせず、みりこんおばさんは自論を展開します。

「まさか様が何をお召しになり、どんなことをやってくださるのか。

今度は何と言い訳して病欠するのか。

次はどこの子をサイコ様だと言って連れて来るのか。

世間をなめくさった人間が、先でどうなるのか。

楽しみな人は多いはずです。

民衆に見たい気持ちを起こさせ、楽しみを与える存在‥

これこそが芸能の真髄ではありませんか」


呆れて、ため息を漏らす村人たちに向かい

みりこんおばさんはこう結ぶのでした。

「お出ましに、“笑点”や“お笑い花月劇場”のテーマ曲が似合うのは

お屋敷にあの方しかいらっしゃいません!」


どっとはらい。


この物語はフィクションであり

実在する団体や人物とは一切関係ありません。
コメント (4)
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