殿は今夜もご乱心

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みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

まさかさま・ご病気篇

2016年11月17日 09時43分31秒 | みりこん童話のやかた
森のお屋敷に嫁がれて、心のご病気が長引くまさか様。

何年経っても相変わらず、乗り気なことには絶好調。

そうでないことには、ご体調の波が訪れる様子に

不審がる村人たちが増えてきました。


「理解できないもどかしさを

心のご病気で片付けるから

おかしなことになるんじゃないでしょうか」

村に住む、自称・小姑研究家のみりこんさんは言います。

この人は、ご主人のお姉さんが

ちょっとばかり変わり者なのを鼻にかけ

すっかり研究家気取りのおばさんです。


そう言うと、このおばさんは怒るのです。

「何を言う!

うちの義姉は、まさか様にそっくりだぞよ!

見た目は違うが、中身は同じなのじゃ!

控え、控え〜い!」

まったく、厄介なおばさんです。


そのみりこんおばさんは主張します。

「あれは病気じゃなくて、性格です。

まさか様と義姉とでは、周囲のとらえ方が異なるだけです。

庶民であれば変人ですみますが

注目を浴びるおうちに変人がいては、何かと不都合。

始末に困って病気ということになったのです」



みりこんさんの義姉こすずさんは、36年前

一人っ子の銀行員と結婚しました。

田園地帯の兼業農家で、ご主人の両親と同居です。

両親は、こすずさんに多産と農作業への期待を明言する

伝統的な田舎の人。

この結婚は続かないと、誰もが思いました。


が、案ずるより産むがやすし。

こすずさんは新婚早々、この悪条件を見事に打破します。

ご主人の安月給と、自分の弟の嫁が無能であることを理由に

実家の会社を手伝う正当性を主張。

毎日の里帰りを承認させ、日常の農作業は免除されました。


何かと慌ただしい農繁期には、病気で対処。

風邪、疲労、頭痛、胃痛、腰痛‥体調の波は頻繁で

その都度実家へ泊まり込み、長期に渡るご静養です。

もちろん仮病ですが、農業に不向きな虚弱と印象付けることで

就農問題は片付きました。

虚弱の印象操作と、1年の半分以上はご主人と別居という

生命誕生における物理的事情により、子供も一人っ子ですみました。


こんなことをすると、居心地が悪いのでは?

人はそう思うでしょうが、心配ご無用です。

こすずさんは両親と口をききません。

商業大学を卒業した経理のプロに多産と農業継承を強要して

人格とキャリアを否定する相手は敵だからです。


役立たずもいっそ突き抜けると、周りが遠慮して機嫌をうかがい

腫れ物に触るがごとく丁重に扱うようになるものです。

頼りの息子は妻の言いなり‥

何か言えば若夫婦の家庭を壊すことになりかねず

可愛い孫と会えなくなるかもしれない‥

この環境に耐えかねたご主人の両親が

母屋を出て新築した離れに移るまで、2年もかかりませんでした。


「こうして義姉は、農家の嫁という伝統に打ち勝ち

ぬるい生活を手に入れたのです」

みりこんさんは言います。


「やがてお屋敷にまさか様が嫁がれ、ご病気が噂されるようになると

この手段が義姉に似ていると思いました。

よく見れば、キョロキョロおどおどした態度も似ていますし

黒人を異様に恐れ、病人や老人などの弱者をひどく嫌うところや

人の不幸をことのほか喜ぶ、会話が続かない、お辞儀がヘタ

気に入った異性には執拗に話しかけ、そうでない相手は徹底無視

普段は人目を気にするおしゃれさんなのに

ここぞという時にボロをまとって現れるなど

まさか様と共通点が多く、同じ性格だと確信しました」


「まさか、衣装ストーカーまで同じじゃあるまい」

村人はせせら笑いますが、みりこんさんはかまわず続けます。

「なんとおっしゃるウサギさん。

義姉は昔から、人の服装や持ち物を真似る習性があります。

記憶しているところでは、田丸美寿々さんというキャスターが発端です。

名前が似ていることもあり、彼女の服装や髪形、仕草まで

徹底的に模倣していたものです。

田丸さんがテレビに出なくなると、別の人を何人か経由した後

ここ十年は黒木瞳さん一筋。


この習性は憧れの対象だけでなく

時にライバルや、見下げている相手にも摘要されます。

同じような服装をしたり、似た品物を手に入れて

“私の方が素敵”と知らしめるためです。

こういうところが、理解しにくい部分なのです。


私も彼女の見下げメイトの一員ですから

結婚前の嫁入り箪笥(たんす)を皮切りに、何度かありました。

見下げメイトに対する模倣の場合、相手より少し高い物を選びます。

箪笥の場合、店も材質もデザインも同じでしたが

取っ手の細工の違いにより、金額に数万円の差が出ました。

この差が、生涯彼女を満足させます。


“私の方がちょっと高い”

何度も独り言のように繰り返す義姉の真意に

若かった私は気づきませんでした。

お揃いの箪笥を選んだのは友好の印だと思い込み

近づいては痛い目に遭いました。

長い誤解の旅でしたが、義姉が悪いのではないのです。

普通の女性だと思い込んだ私がいけなかったのです。

まさか様は、そのことに気づかせてくださった恩人です」


そしてみりこんおばさんは、笑顔でこう結ぶのでした。

「お屋敷の方々はお育ちが良く、お優しいため

一生懸命まさか様を理解しようとなさいましたが

上品な方々には無理というものです。

そこで平和的解決のため、ご病気ということになったのです。


考えてもごらんなさい。

本当にご病気なら、お立場がお立場だけにご自分を責めて苦しまれ

申し訳なくて人前にヘラヘラ出られませんよ。

いつまで待っても治りゃしません。

病気じゃなくて性格なんですから」


どっとはらい。


この物語はフィクションであり

実在する団体や人物とは一切関係ありません。
コメント (4)
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