森のお屋敷に嫁がれて
心のご病気になられたといわれるまさか様。
ご病気なのか、あるいは仮病なのか
見分けがつかないままに長い年月が経ち
まさか様は「ロイヤル・ニート」という
なんとも気高い称号で呼ばれるようになりました。
それでも村人たちは、祈る思いを捨てきれませんでした。
本当にご病気であっても、あるいは仮病だとしても
「いつかきっと、目覚めてくださる」
そう信じていたのです。
けれども皮肉なことに、目覚めたのは
まさか様ではなく一部の村人たちでした。
「まさか!」
ある時、彼らは叫びました。
見てはならぬものを見てしまったからです。
誰でも参加できるオークションに
勲章、刀剣、小物、お召しもの
乗り物のお籠(かご)、調度品など
ご先代様やごー族の遺品が、たくさん並んでいたのでした。
「トプカプ宮殿」「菊栄」と名乗る二人の人物によって出品された
数十点の品々は、総額数千万円にのぼる珍品揃い。
それもそのはず、お屋敷に伝わり
大切に保管されているはずの品々ですから
珍品しか無いのでした。
このような物を個人が大量放出できるとなると
さしあたって考えつくのは泥棒です。
盗品であれば、大変なことです。
お屋敷に泥棒が入り、窃盗が行われたことになります。
警備の行き届いたお屋敷に忍び込み
大小さまざまの品をまんまと盗み出せるのは
ルパン三世並みの大泥棒に違いありません。
しかし警察は、なぜか動きませんでした。
泥棒でなく、承知の上で行ったとすると
お屋敷の経済がひっ迫していることになります。
財政難で売却に踏み切ったとすれば
これもやはり大変なことです。
村を挙げて救済しなければなりません。
しかし村長以下、村議会は知らん顔です。
泥棒でも財政難でもないとすると
お屋敷のどなたかのしわざということになります。
これは最も大変なことでした。
伝統を現金に変えようとする大馬鹿者が
高貴なお屋敷に生息していることになるからです。
しかしお屋敷は、沈黙したままです。
村人たちが騒ぎ出したためか
オークションに出品されたおびただしい品々は
取り下げられました。
出品に至る経緯を詮索されると都合が悪いことは
間違いないようです。
これをやったのが誰なのか
一部の村人たちには想像がついていました。
出品された品の幾つかに、それをカメラで撮影する人影と
撮影された部屋の様子が写っていたからです。
写り込んだ背景は普通の家屋ではなく、洋風の豪華な御殿。
一般的でない家に住み、鏡面加工の金属が
文字通り鏡の役割をしてしまうことに気づかず
オークションなんかに出したら大変なことになるのも知らない
世慣れぬ人物であることは確かです。
カメラを持つ手つきとヘアスタイルが
カメラ好きと言われるあのお方に似ていること‥
別の出品物に写り込んでいた顔が
あのお方の奥様の妹様に似ていること‥
出品されたポートレートのうち
あのご夫妻の写真だけがケタ違いに高値のスタート‥
全ては闇に葬られたため、真相は謎ですが
例のご夫妻ではないかとささやかれるようになりました。
この一件以来、一部の村人が前々から
何となく抱いていた疑惑は
彼らの心の中で大きくなっていきました。
お屋敷が、何やら大きな勢力に取り込まれ
いいように操られているような疑惑です。
けれどもそれを口に出し、問題にすることははばかられます。
ナンなのは知っていても、まさかここまでとは
誰しも思いたくありませんし
これほどの大問題をなぜ皆が揃って黙認しているのかを
薄々は知っていたからです。
あのお方の奥様の元カレと言われる男性が2人
偶然にも海外で非業の死を遂げています。
海外に強いといえば、奥様のお父様‥
などと言っている場合ではありません。
余計なことを言っていると
自分の所に偶然が訪れるかもしれないので
滅多なことは言えないのでした。
誰もオークションのことを究明しないまま
時効が満了になった翌年
お屋敷の当主様が村民に向けて
お気持ちを発表されることになりました。
村民一同は固唾を飲んで見守り
「年だから退職して譲りたい、摂政制は嫌」
という内容に、賛同したり異を唱えたりしました。
オークションの一件を知る一部の村人たちも
同じく固唾を飲んで見守り、そしてうなだれました。
まさか「長男一家がナンで困る」とか
「オークションとは何の関係もありません」
などとはおっしゃらないだろうけど
少しは次代を考慮したご発言が
あるかもしれないと思っていたからです。
血統と序列で織られたカーテンの向こうには
人柄や能力とは無関係の
庶民に計り知れない世界が存在するようです。
それを高貴と呼ぶ者あり。
闇と呼ぶ者あり。
どっとはらい。
この物語はフィクションであり
実在する団体や人物とは一切関係ありません。
心のご病気になられたといわれるまさか様。
ご病気なのか、あるいは仮病なのか
見分けがつかないままに長い年月が経ち
まさか様は「ロイヤル・ニート」という
なんとも気高い称号で呼ばれるようになりました。
それでも村人たちは、祈る思いを捨てきれませんでした。
本当にご病気であっても、あるいは仮病だとしても
「いつかきっと、目覚めてくださる」
そう信じていたのです。
けれども皮肉なことに、目覚めたのは
まさか様ではなく一部の村人たちでした。
「まさか!」
ある時、彼らは叫びました。
見てはならぬものを見てしまったからです。
誰でも参加できるオークションに
勲章、刀剣、小物、お召しもの
乗り物のお籠(かご)、調度品など
ご先代様やごー族の遺品が、たくさん並んでいたのでした。
「トプカプ宮殿」「菊栄」と名乗る二人の人物によって出品された
数十点の品々は、総額数千万円にのぼる珍品揃い。
それもそのはず、お屋敷に伝わり
大切に保管されているはずの品々ですから
珍品しか無いのでした。
このような物を個人が大量放出できるとなると
さしあたって考えつくのは泥棒です。
盗品であれば、大変なことです。
お屋敷に泥棒が入り、窃盗が行われたことになります。
警備の行き届いたお屋敷に忍び込み
大小さまざまの品をまんまと盗み出せるのは
ルパン三世並みの大泥棒に違いありません。
しかし警察は、なぜか動きませんでした。
泥棒でなく、承知の上で行ったとすると
お屋敷の経済がひっ迫していることになります。
財政難で売却に踏み切ったとすれば
これもやはり大変なことです。
村を挙げて救済しなければなりません。
しかし村長以下、村議会は知らん顔です。
泥棒でも財政難でもないとすると
お屋敷のどなたかのしわざということになります。
これは最も大変なことでした。
伝統を現金に変えようとする大馬鹿者が
高貴なお屋敷に生息していることになるからです。
しかしお屋敷は、沈黙したままです。
村人たちが騒ぎ出したためか
オークションに出品されたおびただしい品々は
取り下げられました。
出品に至る経緯を詮索されると都合が悪いことは
間違いないようです。
これをやったのが誰なのか
一部の村人たちには想像がついていました。
出品された品の幾つかに、それをカメラで撮影する人影と
撮影された部屋の様子が写っていたからです。
写り込んだ背景は普通の家屋ではなく、洋風の豪華な御殿。
一般的でない家に住み、鏡面加工の金属が
文字通り鏡の役割をしてしまうことに気づかず
オークションなんかに出したら大変なことになるのも知らない
世慣れぬ人物であることは確かです。
カメラを持つ手つきとヘアスタイルが
カメラ好きと言われるあのお方に似ていること‥
別の出品物に写り込んでいた顔が
あのお方の奥様の妹様に似ていること‥
出品されたポートレートのうち
あのご夫妻の写真だけがケタ違いに高値のスタート‥
全ては闇に葬られたため、真相は謎ですが
例のご夫妻ではないかとささやかれるようになりました。
この一件以来、一部の村人が前々から
何となく抱いていた疑惑は
彼らの心の中で大きくなっていきました。
お屋敷が、何やら大きな勢力に取り込まれ
いいように操られているような疑惑です。
けれどもそれを口に出し、問題にすることははばかられます。
ナンなのは知っていても、まさかここまでとは
誰しも思いたくありませんし
これほどの大問題をなぜ皆が揃って黙認しているのかを
薄々は知っていたからです。
あのお方の奥様の元カレと言われる男性が2人
偶然にも海外で非業の死を遂げています。
海外に強いといえば、奥様のお父様‥
などと言っている場合ではありません。
余計なことを言っていると
自分の所に偶然が訪れるかもしれないので
滅多なことは言えないのでした。
誰もオークションのことを究明しないまま
時効が満了になった翌年
お屋敷の当主様が村民に向けて
お気持ちを発表されることになりました。
村民一同は固唾を飲んで見守り
「年だから退職して譲りたい、摂政制は嫌」
という内容に、賛同したり異を唱えたりしました。
オークションの一件を知る一部の村人たちも
同じく固唾を飲んで見守り、そしてうなだれました。
まさか「長男一家がナンで困る」とか
「オークションとは何の関係もありません」
などとはおっしゃらないだろうけど
少しは次代を考慮したご発言が
あるかもしれないと思っていたからです。
血統と序列で織られたカーテンの向こうには
人柄や能力とは無関係の
庶民に計り知れない世界が存在するようです。
それを高貴と呼ぶ者あり。
闇と呼ぶ者あり。
どっとはらい。
この物語はフィクションであり
実在する団体や人物とは一切関係ありません。