殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

王女と蛙

2017年09月12日 07時11分13秒 | みりこん童話のやかた
昔むかしのある国に、一人の王女様がおられました。

その国では古くから、高貴なご身分の方々が通われる学校が

決められていました。

王女様も小さい頃からその学校へ通っておられましたが

ある時、校長先生が交代しました。

新しい校長先生は隣の国と仲良しで

ことあるごとに王女様を隣の国との交流に参加させようとします。

不穏な気配を感じられた王女様は、別の学校へ変わることになさいました。


そのご判断が正しかったかどうかはともかく

新しい学校で、充実した学生生活を送っておられた王女様は

やがて一匹のカエルが後ろを付いてくるのに気がつかれました。

「コムロロ、コムロロ」

カエルは鳴きながら、王女様の後を追います。

動物好きな王女様は、このカエルを憎からず思われ

そのままにしておかれました。


本家の伯父様が歯並びの良くない女性とご結婚されて以来

王女様は笑うことを遠慮するように言われておりました。

王女様の美しい歯が人目に触れますと

伯父様の奥様のご機嫌が悪くなるからです。

だからといって仏頂面はできませんから

王女様は常に口元に力を入れ

微笑んでいるような表情をなさっておいででした。


けれどもカエルと一緒の時は、思い切り笑うことができます。

「このカエルの前だと、本当のわたくしになれる‥」

王女様はいつしか、カエルを大切な存在と思われるようになりました。


そんなある日、カエルは突然、人間の言葉を話しました。

「結婚してください」

カエルがしゃべったので、王女様は驚かれました。

「今はカエルの姿をしていますが、僕は本当は王子なのです」

「どちらの王子様ですか?」

「海のほうです」

「‥‥」


あっけにとられる王女様に、カエルは言います。

「悪い魔女に魔法をかけられて、カエルになってしまいましたが

王女様と結婚した時、僕は人間に戻れるのです」

「本当ですか?」

「本当です。

さあ、幸せになりましょう」

優しい王女様はカエルの言葉を信じて、コクリとうなづかれました。


それからのカエルは、鳴き方が変わりました。

「コクサイコウリュウ、コクサイコウリュウ」

そのうち、母ガエルも顔を出すようになりました。

「オンナデヒトツ、オンナデヒトツ」

と鳴きながら、息子の後を付いて歩きます。

それは人々の目に、奇妙な光景として映りましたが

カエルの家には姿見が無いので

自分たちが普通や一般的という基準から外れていることには

気づいていませんでした。


一部の敏感な人々は大いに怪しみ、カエルの素性をとやかく言い始めました。

「定職が無いのに、どうやって生活していくのだ」

「国籍と家系図を明らかにしろ」

「父ガエルと祖父ガエルの自殺について説明がない」

「母ガエルとカルト宗教の関係はどうなっている」


カエルは持参金目当てと言われれば、これ見よがしに食費の節約本を買い

フリーターと言われれば、正規職員を公言しました。

しかし哀しいかな、そこはカエル。

王女様に食費2万円の生活を強いるつもりか‥

弁護士を目指している話は嘘だったのか‥

と、人心をますます不安に陥れるとは考えつきません。


けれどもカエルのツラに小便とはよく言ったもので

「人は何と言おうが、let it be」

カエルは明るく笑うのでした。

王女様が幸せになられるかどうかはわかりませんが

少なくともカエルは幸せになれそうです。


(この物語はフィクションであり、実在の人物や団体とは関係ありません)
コメント (10)
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