殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
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キクイモ

2018年04月12日 10時06分23秒 | みりこんぐらし
同級生の女子5人で結成している女子会は、5人会という。

月に1〜2回のペースで食事に行ったり

毎日のようにラインでおしゃべりするのが主な活動である。


時々、他愛のないプレゼントを交換し合うのも5人会の習慣。

どこかへ行ったお土産や、可愛いと思ったハンカチ

今ハマっているお菓子なんかだ。


先月の女子会ではユリちゃんが焼き豚、マミちゃんがキクイモを持って来た。

ユリちゃんの住む街で売られている焼き豚は

美味しいのがわかっているため、皆喜んだ。

が、一方、マミちゃんのキクイモには微妙な反応を示す一同。

「身体にすごくいいんだって!

これ食べて、みんなで長生きしよう!」

明るく言うマミちゃん。

日帰りのバス旅行に出かけ、どこかの道の駅で買い求めたらしい。


キクイモは、近年注目されている食材である。

食物繊維が豊富で、糖尿病にとても効果があるという。

味もアクも無いので、生食はもちろん

たいていの食材と相性がいいため、調理のしやすさも人気だそう。


ショウガにそっくりな可愛げのない姿のイモを受け取り

一同は複雑な表情で顔を見合わせる。

さもありなん。

料理の苦手なユリちゃん、面倒くさがりのモンちゃん

一人暮らしのけいちゃんにとっては、多分ありがた迷惑。

マミちゃんからもらわなければ

おそらく一生、手にすることはない食材と思われる。


「どうやって食べたらいいんだろ‥」

手元のキクイモを見つめ、頭をひねる面々。

私も皆と同じく、頭をひねって見せるのだった。



キクイモはそのまま数日間、我が家の冷蔵庫に突っ込まれていた。

以後もラインでおしゃべりするが

誰一人、キクイモのことには不自然なほど触れない。


私はだんだん、落ち着かない気分になっていった。

キクイモ1kg入りの袋を自分のと含めて5つ買い求め

旅先から持ち帰ったマミちゃんの気持ちに何とか応えたい。

どうにかしてマミちゃんに「おいしかったよ」と伝えたくなったのだ。


ネットでキクイモ料理を眺めもしたけど、今ひとつ。

掲載されている料理が悪いのではない。

お世辞にも食欲をそそる外見とは言えないコイツのために

切ったり煮たり焼いたりの手間をかける意欲が湧かないのである。


悶々としていたある日、ふとひらめいた。

「お焼きに入れたら、どうだろう?」

ニラや千切りのニンジンなど

水分の出にくい野菜を入れたお焼きは

たまに昼ごはんのおかずとして作る。

野菜ばかりでは男どもの食欲をそそらないので

撒き餌としてベーコンなどの動物性タンパク質を入れることもある。

これにキクイモの千切りを混ぜたって、わかりゃしないと思った。


作り方は簡単。

お好み焼きの粉を牛乳で溶いて、マヨネーズを適当に入れ

材料を混ぜて、薄く小さく焼くだけ。


で、キクイモのお焼き、大成功。

キクイモは見た目と違って本当にクセが無く

シャリシャリと歯ざわりが良い。

ポン酢で食べたらとてもおいしく、家族も喜んで食べた。

どんなに身体に良くても、家族が食べなければ意味が無い。

うちには焼きものが合っているようだ。



お焼きを写真付きで5人会に発表したら、たいそう喜ばれる。

煮物にして、すでに食べたというけいちゃんを除き

あとの3人は、さっそくお焼きをこしらえたそうだ。

彼女たちも、キクイモの処理に困っていたらしい。


評判が上々で、すっかりいい気になった私だが

後で心がチクリと痛んだ。

実はキクイモに関しては前科がある。

何年か前、知り合いに段ボールいっぱいのキクイモをもらった。

今は亡き義父の糖尿病を心配してくれたその人は

家の畑でわざわざ作り、持って来てくれた殊勝なお方であった。


その時も私は頭をひねった。

泥にまみれたそれは、お世辞にも食欲をそそる物体とは言えず

洗って皮をむいてまで、食べてみたいという気持ちは湧かなかった。


キクイモの入った段ボールは、しばらく裏の小屋に放置された。

始末に困るものが小屋に鎮座する、重苦しい日々を過ごしていたある日

名案がひらめく。

その名案とは、埋葬。

私はこっそり、庭の隅に埋めた。


が、ホッとしたのもつかの間

暖かくなると、たくさん芽が出てきた。

人の善意を踏みにじった私の悪行は

白日のもとにさらされる運命となったのである。


私はひたすら芽をむしった。

芽にはことごとく、小さなイモがくっついていた。

むしり損ねた芽もある。

そいつはものすごい早さで成長し

油断していると、黄色いマーガレットのような花を咲かせる。

急いで剪定バサミでぶった切る。

この作業を毎年やっている。


「すごくおいしかったから、お店で探してるけど見つからない」

「私も探すね。あったらみんなの分も買っとくね!」

「お願いね!」

ラインは今日もキクイモで盛り上がっている。

キクイモの季節が終わったことは、皆、知らないらしい。

心が痛む。

キクイモを初めて見たふうを装ったため

うちの庭を掘れば出てくるなんて、今さら言えやしない。


今年もキクイモは、芽を出し始めた。

いっそ増やして、来年は皆に配ろうかと思っている。
コメント (8)
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