殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

足問題

2020年03月19日 11時07分28秒 | みりこんぐらし
還暦を迎えた私に訪れるものといったら

知人の訃報くらいのものだ。

あとは肉体的な変化が二つ。

老人界に足を踏み入れた記念なのか

どちらも足の問題である。


私は以前から、二つの願いを持っていた。

その願いとは、静脈瘤(じょうみゃくりゅう)と

巻き爪になりたくないというもの。

そりゃあ人間だもの、病気になりたくないとか

苦しまずに死にたいとか、願えば際限が無いが

これらは人力でどうにかなるものではない。

ただ、静脈瘤と巻き爪は

努力で回避が可能な気がしたからだ。


というのも、私の生まれた町には大きな食品製造工場があり

そこで働くお母さんたちが多勢いた。

今は衛生法が変わって禁じられたが、当時の工場は

コンクリートの床に常時、水が流れている構造で

仕事は軽作業だが、ただ冷えるのが難点と言われていた。


その人たちの多くは、年を取って静脈瘤になった。

足、特にヒザの裏の太い血管が紫色の蛇みたいに浮き出て

ひどく痛む病気である。

工場のOGだけでなく、町の八百屋や肉屋のおかみさんも

同じ病気になった。

私が少女の頃、中年以降の女性は

ヒザ丈のスカートをはいていたので

静脈瘤を目撃する機会は多かった。

その痛々しさに、震え上がったものだ。


冷える場所での立ち仕事は良くない…

特に産後は気をつけた方がいい…

静脈瘤の当事者、あるいはそれを聞いて同情する大人たちが

話しているのを聞くたび、私はこの二つに気をつけようと

肝に銘じるのだった。


以来、数十年。

還暦が近づいて老人の仲間入りをしかけた去年の晩秋

わずかながら、足のスネに異変が…。

なんだか、血管がデコボコしてる部分があるじゃないの。

人にはわからないかもしれない…

でも長い付き合いの私には、わかるのよ…

これはもしや、静脈瘤の前触れ?

ヒザの裏に出現したら、アウト?

ガ〜ン!


冷える場所での立ち仕事はしていないつもりだったが

我が家は川沿いの鉄筋コンクリート製。

湿気の多い、冷え冷えした環境だ。

特に台所は、腹が立つほど冷える。

その台所で8年も立ち仕事をしてりゃ

年も年だし、血管が浮いてデコボコしてくるわさ。


私は仲良し5人会のメンバー、けいちゃんの話を思い出した。

彼女の母親も、前出の食品工場に勤めていたのだ。

「うちの母親は、年を取って静脈瘤になった。

私はその娘なので、静脈瘤になりやすいかもしれない。

予防のために、夏も冬も必ずストッキングをはいている」

そう言うけいちゃんの足は、ツルリと綺麗だ。


私はけいちゃんの真似をして

毎日ストッキングをはくようになった。

寒くなる時期だったので、始めるにはちょうど良かったのだ。

スネのデコボコは、じきに目立たなくなり

時折出る、むくみも解消された。

「こりゃあ、ええわい…」

私は喜びをけいちゃんにも伝え、礼を言ったものだ。


ところが今年に入り、右足の親指に異変が…。

左足の親指とは、何だか形が違う。

爪が湾曲し、京都土産の八つ橋せんべいの切れ端を

縦にかぶせたみたいな色と形。

しかもその八つ橋、いや、爪の角が

指に食い込んで痛い。

もしや、これがかの有名な巻き爪?

ガ〜ン!


病院へ行くほどでもなさそうだが、自力で治せるものだろうか…

とにかく深爪だけは、やるまい…

あれをやったら、おしまい…

そう心に誓うものの、巻いた爪の角は日増しに食い込んで

痛いのなんのって。

拷問よ。


で、いけないと思いつつ

「ちょっとだけヨ」と、角を削ぎ落とす。

すると、楽になる。

で、何日かすると伸びてくるわいな。

伸びてくると、削ぎ落とした部分が鋭角になって食い込んで

さらなる地獄。

だからまた、角を削る。

この繰り返しで、どんどん深爪になっていくシステム。

いけないおクスリにハマるアウトローの気分よ。


早くやりゃあいいのに、この時点でやっと

巻き爪についてネット検索。

それを見ると、やっぱり深爪はいけないらしい。

でも、すでにやっちゃった人には

テーピングや金属の装具なんかがあるらしい。


しかし驚いたのは、寝たきりになったら

ほぼみんな、巻き爪になるんだそう。

悲惨〜!


寝たきりになると、どうして巻き爪になるかというと

歩かないからだそう。

爪は本来、内側へ巻く習性があり

足の親指の腹を地面に付けて歩くことで

巻く習性に抵抗して平たい爪を保っているそう。

だけど寝たきりで歩けなくなったら、巻く習性の方が勝つのだそう。


足の親指の腹を地面に付けて歩く…

ここで私はハッとした。

心当たりがあるからだ。


近頃、足の裏の土踏まずが無くなってきたのに気づいていた。

私の土踏まずは、橋のようなアーチを描く

深い形状であった。

そのえぐったように深いアーチが消え

足の裏の大半が床に密着するようになった。

加齢と運動不足のたまものだ。


それはともかく、アーチが消えると

足の指に負担がかかってくる。

しかし私の右足の親指には、古傷があった。

小6の時、缶蹴りをして遊んでいたところ

空き缶と間違えて、地面から少し出ていた鉄柱を

思いっきり蹴ったのだ。

右足の親指がものすごく痛くて悶絶し

その後もしばらく痛みが続いた。

あの時、多分骨折したか、骨にヒビが入ったと思う。


土踏まずが消えたことで、足の指に負担がかかるようになったが

古傷を持つ親指は、あんまりあてにならない。

台所仕事や階段の昇降で、私はいつしか親指をかばい

床から浮かしていたのだ。


そこへ静脈瘤回避のストッキングである。

ストッキングだけなら問題は起きなかったかもしれないが

寒冷屋敷に住む私は、そこに靴下まで履いた。

ストッキングと靴下の組み合わせは、暖かいけど滑りやすい。

私の靴下は、いつぞや記事にした二重底仕様なので

普通の靴下よりは滑りにくいが

それでも歩くたび、わずかなズレが生じる。

そこで無意識に親指をくの字に曲げ

ストッキングを手繰り寄せて調節していた。


「いかん!」

そこまで考えてから、私は立ち上がった。

以来、ストッキングをやめ、靴下だけになって

右足の親指の腹をしっかり床につけて歩くことを意識する。

最初は巻き爪がチクチク痛み、古傷もギシギシしたが

負けてなるものかと踏ん張る。


あれから1ヶ月…どうやら快方に向かっているらしく

巻き爪も古傷も、もう痛くない。

ストッキングをやめたら静脈瘤の方が心配になるが

足首までのむくみ防止グッズはたくさん持っているので

いざとなったら、ご登場願うつもり。

とりあえず巻き爪の問題が解消されて、ホッとしている。
コメント (6)
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