
一日一組限定…
自宅を開放した隠れ家のようなお店…
素材を生かしたおまかせランチ…
そう聞いて訪ねたのは、とある晩秋であった。
ご一緒したのは、食べ歩きが趣味の上品な奥様たち4人。
その名も「冒険の会」。
私は上品じゃないので会員資格は無いが、時々参加する。
木は森に隠せ…の言葉どおり
住宅街の木造モルタル二階建て、普通のドア、普通の玄関。
腹立たしいほどの隠れ家ぶりだ。
しかし、現われた初老のマダムが普通じゃなかった。
どえりゃ~ベッピンなのだ。
まるで女優。
雰囲気としては草笛光子系。
でもちょっと悪い予感が…作務衣を着ていたからだ。
私は僧職以外で作務衣を着る人間を信用しない。
深い意味は無い。
そっちの方面へ行くか…みたいな所が気にくわないだけ。
「わかりにくかったでしょう」
こぼれるような笑顔でマダムに言われ
「はい。でも探す楽しみもございました」
と答える私。
返事は無かった。
いたずらに美しい人種の多くはそういうものだ。
そこに居るだけで喜ばれる、お得な人生を送ってきたので
機転がきかない。
普通の客間の普通のテーブルに通される。
変わっているところをあげるとすれば
衣紋掛(えもんかけ)に着物を掛けて間仕切りにしているのと
間接照明に竹カゴが使ってある程度であろうか。
「食前酒でございます」
マダムより少し年配の女性が、うやうやしく運んでくる。
さすが、引き立て役として選ばれただけのことはある。
年かさなのが第一条件…
とびきり美しくはないが、さりとて醜くもなく
一般人より水準は高くて、自分より少し落ちる…
美人は、無意識にこういう人をそばに置いて
相乗効果を発揮する才能がある。
「ちっさ!」
私は思わず口走る。
ミニチュアのワイングラスに、濃いめの梅酒が5㏄くらい入っている。
惜しいなら出さないでもらいたいぞよ…などと思いながら
厚手のグラスの舌触りが妙に気に入って
いつまでもなめ回すイヤしい私。
陶器の小さなスプーンに乗せられた牡蠣がひとつ…
葉っぱに包まれたサイコロキャラメル大の胡麻豆腐…
食べるというより、器やしつらえの意外性を楽しむという感じ。
千代紙で折られた小さな箱を
マトリョーシカみたいに次々開けていく。
短気な私は、タマネギをむく猿のようにキーッとうなる。
最後の箱に転がるギンナン。
ここは空腹を満たすお食事処ではなく
美人マダムのままごとに付き合わされるゴザの上なのであった。
チマチマ、チョロチョロが終わると
メインはいきなり野趣を帯びる。
蒸したモズク蟹。
もはやちゃぶ台をひっくり返す星一徹の心境。
モズク蟹は、あの美味なる上海蟹の親戚と言われ
都会なら珍味かもしれないけど
うちらにとっては町内の川で捕れるショボい川蟹。
ここらへんじゃ「ガゾウ」と小汚い名前で呼ばれる
チープな印象の食材なのだ。
以前息子が捕まえて来たのが、すごい早足で逃げて
タンスの裏でミイラ化していたことがある。
あの早さは尋常ではなかった…と思い出す。
同行した奥様がたも、上品ぶっているとはいえ田舎のご婦人。
動揺は隠せなかった。
「これで6千円は無いわよね…」
などとヒソヒソ言ってる。
リーダー格のK夫人が気を取り直して言う。
「デザートの前に、何か趣向があるそうだから
それを楽しみにしましょう」
我々はうなづき合って、それに望みをつないだ。
そこへ琴の音のBGMが…
料理を運んでいた女性を露払いに、しずしずとマダム登場。
作務衣から、古くさい振り袖に着替えている。
「マダムがどこそこで手に入れた
アンティークの着物でございます…」
女性の解説に、ゆったりと回転して見せるマダム。
趣向とは、マダムの趣味であるアンティーク着物の
お披露目であった。
「ぶっとばしたる…」
低くつぶやく私。
皆、呆然とショーを見ていたが
心は同じだったと確信している。
小さいデザートを食べ終え、我々は怪しの家を後にした。
変な所ほど、後で思い出深い。
「冒険の会」としては、ひとまずの成功をおさめたと言えよう。
自宅を開放した隠れ家のようなお店…
素材を生かしたおまかせランチ…
そう聞いて訪ねたのは、とある晩秋であった。
ご一緒したのは、食べ歩きが趣味の上品な奥様たち4人。
その名も「冒険の会」。
私は上品じゃないので会員資格は無いが、時々参加する。
木は森に隠せ…の言葉どおり
住宅街の木造モルタル二階建て、普通のドア、普通の玄関。
腹立たしいほどの隠れ家ぶりだ。
しかし、現われた初老のマダムが普通じゃなかった。
どえりゃ~ベッピンなのだ。
まるで女優。
雰囲気としては草笛光子系。
でもちょっと悪い予感が…作務衣を着ていたからだ。
私は僧職以外で作務衣を着る人間を信用しない。
深い意味は無い。
そっちの方面へ行くか…みたいな所が気にくわないだけ。
「わかりにくかったでしょう」
こぼれるような笑顔でマダムに言われ
「はい。でも探す楽しみもございました」
と答える私。
返事は無かった。
いたずらに美しい人種の多くはそういうものだ。
そこに居るだけで喜ばれる、お得な人生を送ってきたので
機転がきかない。
普通の客間の普通のテーブルに通される。
変わっているところをあげるとすれば
衣紋掛(えもんかけ)に着物を掛けて間仕切りにしているのと
間接照明に竹カゴが使ってある程度であろうか。
「食前酒でございます」
マダムより少し年配の女性が、うやうやしく運んでくる。
さすが、引き立て役として選ばれただけのことはある。
年かさなのが第一条件…
とびきり美しくはないが、さりとて醜くもなく
一般人より水準は高くて、自分より少し落ちる…
美人は、無意識にこういう人をそばに置いて
相乗効果を発揮する才能がある。
「ちっさ!」
私は思わず口走る。
ミニチュアのワイングラスに、濃いめの梅酒が5㏄くらい入っている。
惜しいなら出さないでもらいたいぞよ…などと思いながら
厚手のグラスの舌触りが妙に気に入って
いつまでもなめ回すイヤしい私。
陶器の小さなスプーンに乗せられた牡蠣がひとつ…
葉っぱに包まれたサイコロキャラメル大の胡麻豆腐…
食べるというより、器やしつらえの意外性を楽しむという感じ。
千代紙で折られた小さな箱を
マトリョーシカみたいに次々開けていく。
短気な私は、タマネギをむく猿のようにキーッとうなる。
最後の箱に転がるギンナン。
ここは空腹を満たすお食事処ではなく
美人マダムのままごとに付き合わされるゴザの上なのであった。
チマチマ、チョロチョロが終わると
メインはいきなり野趣を帯びる。
蒸したモズク蟹。
もはやちゃぶ台をひっくり返す星一徹の心境。
モズク蟹は、あの美味なる上海蟹の親戚と言われ
都会なら珍味かもしれないけど
うちらにとっては町内の川で捕れるショボい川蟹。
ここらへんじゃ「ガゾウ」と小汚い名前で呼ばれる
チープな印象の食材なのだ。
以前息子が捕まえて来たのが、すごい早足で逃げて
タンスの裏でミイラ化していたことがある。
あの早さは尋常ではなかった…と思い出す。
同行した奥様がたも、上品ぶっているとはいえ田舎のご婦人。
動揺は隠せなかった。
「これで6千円は無いわよね…」
などとヒソヒソ言ってる。
リーダー格のK夫人が気を取り直して言う。
「デザートの前に、何か趣向があるそうだから
それを楽しみにしましょう」
我々はうなづき合って、それに望みをつないだ。
そこへ琴の音のBGMが…
料理を運んでいた女性を露払いに、しずしずとマダム登場。
作務衣から、古くさい振り袖に着替えている。
「マダムがどこそこで手に入れた
アンティークの着物でございます…」
女性の解説に、ゆったりと回転して見せるマダム。
趣向とは、マダムの趣味であるアンティーク着物の
お披露目であった。
「ぶっとばしたる…」
低くつぶやく私。
皆、呆然とショーを見ていたが
心は同じだったと確信している。
小さいデザートを食べ終え、我々は怪しの家を後にした。
変な所ほど、後で思い出深い。
「冒険の会」としては、ひとまずの成功をおさめたと言えよう。
お腹がいっぱいになるくらいの量が出ればまだマシなんだろうけど・・・( ̄  ̄;)
おかみのアンティークの着物の見学料が込み?(笑)
いくら、冒険の会でもちょっと冒険しすぎ?
少し冒険するくらいが美味しいのかも?(^^;
年配の男性が混じっていると、喜ばれるみたいですね。
皿回しでもしてくれりゃいいものを。
情報を得たメンバーを悲しませると冒険が出来なくなるので
ブーブー言わない掟があります。
これはこれで楽しかった…ということにしました(笑)
読みやすい文章と描写・内容に引き込まれてしまいました。
これからもちょくちょく寄らせていただきます。
見ず知らずの。。。 しかも料金まで払って 付き合わされる お店があったとは!(笑)
これは、みりこんさんのブログネタの為に あったお店だったとしか 思えませんよぉ~
どうせなら、 カフェ風にしてお客さんを呼んだほうが いいでしょうにね~っ
ある意味、 堪能
よろしゅうございました
絵の通りの冒険の会ですね。
作務衣を着る人間を信用しないが教訓でしょうかね?
美人マダムの自己満足の館って感じですかね。
読みやすいとおっしゃっていただくのは嬉しいです。
ありがとうございます。
いつも長くなってしまい、削るほうに時間がかかります。
目指せ!簡潔!(笑)
生活のためではなく、楽しみなんだと言っていましたが
自分の楽しみだけを真摯に追求しているんですね~。
そこは立派?だと思いました。
いい所でいいものを楽しく食べたお話は
他のブロガーさんにお任せするとして
私はこの方面の冒険を追求して参りたいと存じます(笑)
作務衣と相性が悪いんですよね…私(笑)
その人が悪いのではなくて、私が構えてしまうというのも
ありますが。
まがりなりにも、商売している人が着るのは
おこがましい“逃げ”だと思っちゃうんです。
被害者の増加を楽しみにしてほくそ笑んでいる
曲がったワタクシよん♪
そうだよね~そうだよ。
文句言いたいけど、そこをわざわざ探してくれた友の手前、文句は禁句なんだよね~
日本食には季節感を出す為に、食材だけでなくしつらえ・器も重要です。
でもさ、女将の衣装は関係なんでないかい?
ひなびた温泉に行ったら、単にしょぼくれていただけっつー事も往々にあるしさ~
前にね、とても美味しいと評判のコーヒー店に行ったんだ。
そこのマスターのうんちくがもうすっごいの。
カップにもこだわっているんだけど、飲んだ気しなかったもん。
器に何かあったら弁償か?これ1客2万か3万でしょ?みたいなね。
私はB級グルメで良いわ。
安いし上手いしね。
それに賑わっている店は活気があって食材だって新鮮だし、少々騒いでも隣もウルサイから文句も言われないもん。
この度もみりこんさん、ご愁傷様でした。
またオモローなネタ仕込んで披露して下さい。
こだわりはお米。美味しくてあっつあつのご飯が売りの店。
最近では見かけないけど食堂形式で、サバの味噌に、鮭の塩焼き、ぶりの照り焼き、ふわっふわのだしまき卵、ほうれん草の煮びたし、里芋の煮物、冷奴などを好きなだけ取って頂いてお会計。
夜はもう少し手の込んだおばんざいとお酒を楽しんで頂く。
そういう店をやりたかったんですわ。
調理師の免許持ってるからね。
今でも夢はあります。いつかはってね。