公開メモ DXM 1977 ヒストリエ

切り取りダイジェストは再掲。新記事はたまに再開。裏表紙書きは過去記事の余白リサイクル。

資源としての疑問と感性 2

2012-06-09 10:01:04 | ドラッカー
承前

 疑問を持つ為には物事、事柄、出来事の違いに気づく事、注意深く観察することも大切だが、人は違う感性に多く出会う事によって効率よく疑問を持つ能力と創意が生まれる。疑問の効率ということはあまり研究されていないが、この分野は多いに研究する必要がある。社会には疑問はある局面で爆発的に増える事がある。そのときは誰もが前提としている事が崩れ落ちるときとなる。
 経営にとって重要な疑問はそういう時の疑問ではない。安定している社会や安定して収益をあげている組織の中から安定を否定する方向で生まれる疑問と創意こそ貴重な資源である。

 疑問の効率ということはあまり研究されていない。脳裏の違和感は言葉では共有できない。これが最大の壁となる。経営者またはリーダーは追い詰めることによってしかこの効率を上げることができない。そのような意味で経営者は慎重な実験者であり、極度条件を目指す暴君でもある。

 本田宗一郎が技術屋として初めて社会の壁にぶち当たったのは、安全性と排気ガスという現代の自動車に欠かせない問題だった。当初本田宗一郎のエンジン屋の感性は死亡事故や排気ガス汚染を軽視していた。他人の持つ違和感を受け入れる事が出来なかったのである。もしホンダがこの外部の疑問を内部の疑問として受け入れないままであれば、CVCCエンジンも生まれなかったろうし、いまここにホンダはなかったろう。
 ホンダは時代に恵まれていたともいえるが、それは結果論。大変高い壁に見える感性の差、違和感の提示は結果として大きな成長のヒントとなったが、若いエンジニアに譲る事で本田宗一郎はこの問題を乗り越えた。

 新しい事は必ず感性の壁にぶつかる。つまり新しい事を始めようとする時は効率よく感性の壁に衝突する仕組みを自らの経営資源の中に持つ必要がある。技術であれば、それは科学であり、当事者の常識である。社会に出る時には技術に限らず新しい仕組みが社会になじむには時間がかかるのだ。

 さて凡人は同時に複数の感性を持つ事が出来ない。それほどシュールな人物はめったに生まれない。それならば疑問を量産するには、多人数のグループで解決するしかないのだが、人にはコミュニケーションの壁がある。というよりこれは脳の壁と言うべきだろう。環境が変わらないと個々の違和感は伝達をためらい共有化されない。

 この感性の違和感を持ち続ける能力というのは理性的に分類できないばかりではなく、相当する言葉さえもない。ましては文書で共有することなどできない。素朴なミーティングしか接点は無い。

 スティーブ・ジョブスは若い時にLSDを経験したかどうかを、ある社内ミーティングで社員に聞いた事がある。今にして思えば感性の違和感であるコミュニケーションの壁はそのくらい深いものという逸話なのだが。。ジョブスは独善的なやり方でその感性の差を疑問としてぶつけ、他人の感じた疑問とその解決方法さえも自分の意見として経営で実証した。だから当然大きな失敗も避けられなかった。独善という方法は一つの答えではあるが、ミーティングを介しているということがここでは重要なポイントとなる。

 ジョブスがおそらく確信していたように、疑問を持つ能力と創意は違う感性、脳の履歴差から生じる(しかもとりわけて殊に若い時の履歴)。脳に沈殿した体験は大変貴重なものになる。
 他方、理性は疑問を小さくする道具であり安定した社会を造るレンガである。理性は最後にやってくる。疑問が理性の普遍性を獲得することがあっても、理性が疑問を産む事は無い。理性はただ結果を語るだけだからだ。だから矛盾も疑問ではない。矛盾は止揚されることを前提に理性の光のなかに飛び出す。イノベーションに至る原動力は最初は僅かな脳の違和感に始まる、やがては疑問とよばれるものから始まる個人の脳履歴の差にある。

 従って脳の履歴差がぶつかり合うことで生じる疑問に及ぶ意見の飛躍こそが新しい社会へむけた躍動の源泉であり、起業家はそれを事業で証明するのだ。さらに言うならば、脳の履歴差にこそ若い世代と異文化の存在意義がある。優れた起業家は意図的に混沌と非言語の中から意見を持って飛び出すエネルギーを引き出す教育者でもある。

PS ホンダの意見を引き出す少し前の企業文化については日経新聞「ホンダイノベーション魂」
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK2801O_Y2A520C1000000/
に詳しく特集されているのでご参照ください。ほんとうにそれが生きているのならホンダはもっと飛躍していたと思うのですが。

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    新産業の成否は、知識労働者にどこまでやる気を起こさせるかにかかっている。 ドラッカー
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