「たとえば、古代日本では「大化の改新」というクーデターが起きます。蘇我入鹿という、当時の日本で随一とも言える有力貴族が暗殺され、国のシステムが一新されたのです。なぜ蘇我入鹿が暗殺されたのかは、日本史の大きな謎とされています。 しかし、脱税の観点から見れば、この暗殺はそう不思議なことではありません。蘇我入鹿は、税をまともに納めずに莫大な資産を築いており、古代日本の国家運営に支障を来たしていたからです。 また、織田信長の比叡山延暦寺の焼き討ちは、「信長の冷酷非道な宗教弾圧」として見られることが多いのですが、実は比叡山延暦寺は脱税で巨万の富を築き、日本の政治経済に大きな力を持っていた存在であり、平安時代から政権にとっては頭痛の種だったのです。信長は、戦国大名の中では唯一、その比叡山延暦寺の持つ「脱税特権」を排除しようとしたのです。 このように脱税の視点で日本史を読み解いていこうというのが、本書の趣旨です。 ところで、「脱税」という言葉は、「税を逃れる行為」の全般を指すものですが、現代では犯罪用語としても使われます。犯罪用語としての脱税は非常に範囲が狭く、「税法違反」で起訴され、有罪となったものだけを指します。 しかし、税を逃れる行為というのは「税法違反」だけではありません。法の抜け穴を突くこともありますし、権力を利用して法自体を捻じ曲げて税を逃れるケースもあります。本書で使う「脱税」という言葉は、税法違反行為だけではなく、広い範囲の「税を逃れる行為全般」を指しています。その点、誤解のないようにお願いします。』
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