森絵都さんの「みかづき」を読みました。昭和36年、大島吾郎は千葉県習志野市の野瀬小学校の用務員として勤めていた。家庭の事情から高校中退を余儀なくされた吾郎がやっと得た安定した職場だった。小学校の北棟一階の隅にあった住居を兼ねた用務員室は「大島教室」とも言われ、放課後に授業についていけない子供たちが集まり、吾郎に勉強を教わる場所になっていた。そんなある日、蕗子という名の少女が大島教室に教えを請いにやった来た。蕗子は勉強がわからないのではなく、吾郎の教え方を知るために母の千明に言われて来たのだった。昭和9年生まれの千明は国民学校の生徒として軍国主義教育と、戦後には真逆の民主主義教育の両方を経験し、公教育に徹底的な不信感を持っていた。教員免許を持ちながら彼女は自分なりの教育をと私塾を立ち上げるつもりで、教え方が上手な吾郎にパートナーになってほしいと頼みに来た。夫婦となった2人は手作り感のある補習校色の強い塾を始めて評判を呼び、生徒が増えて教場も増えていった。教育をめぐる環境は時代とともに変わり、彼らの塾も補習塾より予習をメインに据える進学塾に変わっていった。都内に何箇所も開校する頃には千明は経営者として塾を支える存在になるのだったが、2人の考えは異なり夫婦関係は冷えてしまった。公教育を太陽に塾を月にたとえて物語は進み、大島家の家族関係も変化していった。ゆとり教育、学校週5日制、貧困からくる教育格差、文科省と塾との対立など色々な要素を盛り込み、塾を営む大島家の半世紀にわたる物語です。長編ですが、一気読みしました。おすすめです。
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