アングル:視界不良の柏崎刈羽再稼働、「東電では無理」との声も
ロイター 2015/1/6 19:07 ロイター
1月6日、東京電力の経営再建の切り札である柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働は、展望できない状況が続いている。2012年11月撮影(2015年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
[新潟市 6日 ロイター] - 東京電力<9501.T>の経営再建の切り札である柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働は、展望できない状況が続いている。6日に同社の広瀬直己社長と会談した泉田裕彦新潟県知事は「東電は福島事故の原因究明に後ろ向きだ」と批判。
政府のエネルギー政策議論に参加する有識者の一部からは、東電による再稼働は困難で、同原発を同社から切り離す「外科手術」が必要との指摘が出ている。
<原因究明に「後ろ向き」と知事が批判>
泉田知事は、これまでも柏崎刈羽原発の再稼働に関連し「福島第1原発事故の原因究明と検証が不可欠」との考えを繰り返し強調してきた。この日の広瀬社長との会談では、政府事故調査委員会による調書を公開すべきだと主張。「政府事故調に話した内容くらいは、現職のひとの分もあるだろうから、社長名で公開したらどうか」と迫った。
同調書は、東電や政府など各方面の関係者が匿名を条件に聴取に応じた内容であることを踏まえ、広瀬社長は「個人の判断で公開、非公開を決めている。東電の社長名でどうこうということは考えていない」と、東電関係者に指示や命令を出す意向がないことを表明。会談は核心部分で平行線に終始した。
<強まるか泉田知事包囲網>
ただ、泉田氏が従来のような強気を貫くことができるかどうかは、不透明な要素も少なくない。
原発再稼働に積極的な安倍晋三政権は昨年12月の衆院選で大勝。その後、経済産業省に設置した原子力に関する有識者会議では、原発関連の交付金について、再稼働に同意した自治体に優先配分することを盛り込んだ中間整理案を示し、「アメとムチ」による対応を進める姿勢をにじませている。
原発問題をめぐって政府や電力業界に対して批判的な発言を続けてきた元経産官僚の古賀茂明氏は、古巣の後輩である泉田知事へのプレッシャーが今後、高まる可能性を指摘する。
古賀氏は昨年12月、ロイターの取材で「沖縄県への補助金を減らすとか、原発関連の交付金も動かさないところは減らすとか、最後はカネで締め上げようということを露骨に政府はやっている。以前よりも泉田知事の地合いは、悪くなるかもしれない」と述べた。
<再稼働か値上げか、迫る政府・東電>
東電は昨年12月17日、2015年は電気料金の値上げを1年間見送る方針を示した。その際の記者会見で、数土文夫会長は「柏崎刈羽がこのまま不稼働を続ければ、15年度上期は何とか黒字が視野に入っているが、通期では見通しが立たない」と述べた。同氏は「15年度以降の収支以上に深刻な問題は、キャッシュフロー不足」とも強調した。
東電は、社債償還や福島第1原発事故後に銀行団が実行した緊急融資(約1.9兆円)の返済などで、今後2年間に1.3兆円の資金調達が必要と説明している。
数土氏は会見で、東電の現状について「(福島事故の)責任と(電力自由化による)競争を両立する自立への道と、国からの支援と経営関与を強められた国営会社への道の分岐点に立っている」と指摘。自立への道を進むためには「柏崎刈羽再稼働の展望を示し、市場や金融機関から独自にキャッシュを調達する」ことが不可欠との考えを示した。
東電を資金援助する政府の原子力損害賠償・廃炉等支援機構も昨年12月26日、柏崎刈羽について「地元理解のための取り組みを行い、来年(2015年)夏から秋に再稼働が可能になる状況を作り出すこと」との指示を出し、再稼働に注力するよう東電を促した。
東電と原賠機構は今後、再建計画である「総合特別事業計画」の改定に取り組むが、柏 刈羽の再稼働は今年7月以降とする方向で調整を進めている。ただ、原子力規制委員会の審査も、先行した九州電力<9508.T>川内原発などに比べ大きく遅れており、今年秋の再稼働は現実的とは言えない想定だ。
<料金の再値上げは続くのか>
電力業界では、福島原発事故を契機とした原発稼働停止の長期化により、北海道電力<9509.T>がすでに東日本大震災以降で、2度目となる電気料金の値上げ実施。関西電力<9503.T>も昨年12月、政府に2回目の値上げを申請するなど、電気料金の値上げが続く流れが止まらない。
鉄鋼業界を経て昨年、東電会長に就任した数土氏は「日本の電気料金は米国、韓国の2─3倍。このままでは日本経済に深刻な影響を及ぼす」(昨年12月の会見)と述べ、原発の不稼働は東電や電力会社の経営悪化に止まらない問題との考えをにじませている。
<浮上するか柏崎刈羽の分離論>
国のエネルギー政策議論に参加する一橋大学大学院の橘川武郎教授は、こう着状況からの打開策として、柏崎刈羽原発を東電から切り離し、新たな国策会社を設立して移管するスキームが必要だと強調する。
橘川教授は昨年12月上旬、ロイターの取材で「東電による原発再稼働はイリュージョン(幻想)だ」と述べた上で、受け皿候補として日本原子力発電(原電)を挙げる。東電や関西電など電力業界各社が出資する原電は、3基の原子炉の再稼働が困難もしくは不透明な事情を抱え、抜本的な支援策がなければ、経営破たんが避けられない状況に陥っている。
橘川教授は「柏崎刈羽限定か、(巨大地震リスクを抱える)中部電力<9502.T>浜岡原発も加えて、日本原電を受け皿に沸騰水型の運営会社を作ることしか、柏崎刈羽再稼働の解はない」と述べた。
その際、新潟県が営業区域の東北電力<9506.T>に柏崎刈羽の運営に関与させるべきだと同教授は説く。東北電の海輪誠社長は新潟支店長の経験者で、橘川教授によると「電力業界で泉田知事と信頼関係があるのは海輪社長だけ」だという。
そのうえで「泉田知事は、再稼働自体には反対ではなく、東電が原発を動かすことに反対しているのだと思う」と述べている。
(浜田健太郎 編集:田巻一彦)