ごみ処理の広域化とは、一般的には複数の市町村(一部事務組合を含む)が共同でごみ処理を行っていくことを言います。ただし、ごみ処理は市町村の「自治事務」なので、広域化に当っては様々な制約を受けます。
このうち、地方自治法の制約として一番大きいのは、なんと言っても経費です。地方公共団体は地方自治法の規定により「最少の経費で最大の効果を挙げなければならない」ので、広域化によって経費が増加することは許されません。
また、広域化によって新たにごみ処理施設を整備する場合は、当然のこととして廃棄物処理法の制約を受けます。廃棄物処理法は「環境負荷の低減」を目的としているので、広域化に当っては再資源化率の向上や温室効果ガスの削減といった制約を受けることになります。
そこで、今日は、ごみ処理の広域化に関する「必要条件」について考えてみることにしました。なお、「必要条件」とは上記のような「社会的条件」のことであり、これをクリアしなければ国の補助金を利用することはできないことになります。なぜなら、国は上記のような「社会的条件」を整えることを目的として補助金を交付しているからです
下の画像はこのブログの管理者が作成したものですが、便宜上、A市とB町による広域化を想定しています。また「必要条件」については最も重要な項目をピックアップしています。 
原寸大の資料(画像をクリック)
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上の画像のうち、経費についてはトータルコストが重要になりますが、一般的には施設を整備するためのイニシャルコストと、概ね15年分くらいのランニングコストを足した金額になります。
ごみ処理の広域化において、経費を削減できるかどうかは「単独更新」との比較によって決まることになります。つまり、広域化する場合と、これまで通り単独でごみ処理を行っていく場合とで、どちらが経済的に有利かということで判断することになります。
なお、この経費の削減については、共同でごみ処理を行うことになるとしてもA市とB町に分けて検討することになります。なぜなら、広域化においてごみ処理費を負担するのは、広域化に参加するそれぞれの市町村の住民だからです。市町村の合併による広域化の場合はごみ処理費を負担する住民は新たな自治体の住民になりますが、単に複数の自治体が共同でごみ処理を行う場合は、各市町村において経費を削減しなければならないことになります。したがって、全ての市町村が経費を削減できれば、広域化における全体的な経費も自動的に削減できることになります。
ただし、再資源化率と温室効果ガスの排出量については広域化が行われる地域全体で検討することになります。
再資源化率については、既に率の高い市町村同士の場合は、広域化においてもその率を下げないことが課題になります。また、温室効果ガスについては、輸送距離が長くなる市町村の排出量が増加するので、既存の施設よりも大幅に排出量を削減しなければならないことになります。
なお、ごみ処理の広域化で注意を要するのは、広域施設を整備する時期になります。参加する市町村の既存のごみ処理施設がどちらも老朽化している場合はほとんど問題はありませんが、どちらか一方か、両方が老朽化していない場合は広域化によって経費が増加することがあります。なぜなら、単独更新において建物が老朽化していない場合は、設備だけを更新すればよいからです。一方、広域化の場合は設備の更新のほかに建物も新築することになるので、その分だけ無駄な経費が発生することになります。
また、建物が老朽化していない場合は、事前に建物に対する補助金の返還を行う必要があったり、老朽化していない市町村だけが広域化によって整備する建物に対して補助金を利用できないという事態になることもあります。したがって、広域化を検討する場合は、事前に各市町村の「事情」を十分に考慮して計画を策定する必要があります。
ごみ処理の広域化については、この「補助金」の問題で失敗するケースが圧倒的に多いので、既存の建物が老朽化していない自治体は十分な注意が必要です。
いずれにしても、ごみ処理の広域化についてはトータルコストの削減が最重要課題になります。ごみ処理費を負担している住民から見れば「広域化によってどれだけ財政負担が減るのか」ということが問題であって、イニシャルコストの削減やランニングコストの削減を別々に考えてもまったく意味のないことになります。
なお、広域化によって単独更新よりもトータルコストを削減できる場合であっても、途中で計画が「白紙撤回」になると単独更新の経費が高くなることがあります。例えば、広域化のために既存の設備の長寿命化を行っていない場合は、「白紙撤回」になると、国の長寿命化計画に従ってごみ処理を行っていないことになるので自主財源により設備を更新することになります。
「白紙撤回」の理由によっては、このような場合に住民から損害賠償を求められることもあるので、広域化を行う場合は建物が老朽化していない場合であっても、せめて設備の長寿命化は行っておくべきであると考えます。そして、設備の更新時期に合わせて広域施設の整備を行うべきであると考えます。
※設備の長寿命化を行わない場合は広域施設が完成するまでの間の老朽化対策に莫大な経費がかかるので、万が一、「白紙撤回」になると、自治体の損害は甚大なものになります。仮に「白紙撤回」の理由が広域化を決定した首長や事務処理を担当した職員の「過失」ではなく「重大な過失」によるものと認められる場合は、その首長や職員が退職している場合であっても損害賠償の対象になります。したがって、広域化に携わる自治体の首長や職員は念には念を入れて、自らの職務に対する「リスク評価」を行っておく必要があります。なお、判例によると、市町村のごみ処理における首長や担当職員については、「素人」ではなく「専門家」として位置付けられているため、「素人」であれば「過失」で済むことが「重大な過失」として認定されるリスクが高くなります。