世界最古の釣り針が出土した沖縄県南城市のサキタリ洞遺跡(調査区1)からは、高級食材の上海ガニの仲間であるモクズガニの爪が約1万点出土し、オオウナギや、刺し身がおいしいことで知られるイラブチャー(アオブダイ)など魚の骨も多く見つかった。資源の限られた島の環境では居住が長期間続くのは困難だと言われていたが、2万年以上にわたって漁労をして生活してきたことが分かった。調査を担当した県立博物館・美術館の藤田祐樹主任(自然人類学)は「意外とグルメな暮らしぶりだったようだ」と話している。
出土したカニの爪の大きさから推定すると、殻の幅は約8センチ。これは秋の産卵を控えて最も大きくなったサイズ。海でふ化した後、稚ガニになって川をさかのぼりながら成長し、産卵のために海に向かう。「身やみそがたっぷり詰まった時季を狙って捕っていたのではないか」と藤田さんは言う。
調査では、カニのサイズだけでは裏付けが弱いと、同時に出土している巻き貝のカワニナに注目した。カワニナの殻は水温の上下に合わせて酸素の同位体の比率が変化する。これを分析することでカワニナが死んだ(捕食された)季節を推定できる。出土したカワニナ殻で調べたところ、季節を示すデータが取れた28個体のうち秋が19個体、夏が8、冬が1という結果になった。
「モクズガニは夜行性なので、毎年秋にこの洞穴に住んで、夜、カニやカワニナを捕って食べていたのではないか」と藤田さんは「グルメ説」に自信を見せた。
釣り針は、これまでは東ティモールのジェリマライ遺跡の貝製釣り針が最古とされてきた。年代が2万3千~1万6千年前と幅があり、特定できていなかった。国内では、神奈川県横須賀市の夏島貝塚で出土した1万~9千年前(縄文時代)の釣り針が最古とされ旧石器時代の漁労を示す資料はなかった。
藤田さんは「旧石器人のイメージとして、海や川で釣りを楽しむ姿が新たに加わった。現代の私たちと同じようなものを食べておいしいと思っていたのでしょう」と笑った。
◆旧石器時代と較正(こうせい)年代 日本では約1万6千年前以後が縄文時代、沖縄では貝塚時代と呼び、新石器時代に相当する。それ以前が旧石器時代で、日本では無土器時代などとも呼ばれる。旧石器時代の年代測定は放射性炭素法で行われるが、植物の年輪の検証などで補正した較正年代が併記されるようになった。較正年代は放射性炭素法の年代より数字が大きく実年代に近くなる。
約2万3千年前の釣り針が出土した場所を示す沖縄県立博物館・美術館の藤田祐樹主任=沖縄市南城市のガンガラーの谷
ガンガラーの谷