TONALITY OF LIFE

作曲家デビュー間近のR. I. が出会った
お気に入りの時間、空間、モノ・・・
その余韻を楽しむためのブログ

楽譜探しの小さな旅

2016-12-12 01:16:03 | 音楽
ワンクリックの買い物では味わえない図書館での楽譜探し。
実物を手に取って中身を確認しながらというのは久々の感覚である。
お目当てはショスタコーヴィチの『24のプレリュードとフーガ 作品87』。
第1番のプレリュードを、ヨハン・セバスティアン・バッハの『平均律クラヴィーア曲集』第1巻第1番のそれと
並べて演奏することを思いついた。
大曲に挑む余裕のないなか、18世紀と20世紀の聖典の冒頭を並べるという選曲の工夫で乗り切りたい。
どちらもハ長調で、すべての調性を網羅する大規模な連作の入り口に相応しい親しみやすさと、
非常にモダンな響きを湛えている。
バッハはあまりに有名な分散和音、一方のショスタコは和音中心という違いも互いを引き立てるに違いない。

検索で最初に引っ掛かった日本語タイトルのものは、あいにく別の場所に所蔵されているという。
次に “Russian Piano Pieces” という作品集を当たったところ、残念ながら第1番は収録されておらず、
あとはロシア文字の羅列から類推するしかなかった。
作品番号が決め手となって、2つヒットしたものは出版社がロシアとドイツのもの。
ここはキリル文字が神秘的な前者がいい。
それにロシア版は冒頭にプレリュード第1番の自筆譜の写真が載っている。
これがマティスを彷彿とさせる実に魅力的な線なのである。

母校は美術館の完成によって印象が大きく変わってしまった。
一方でレンガの門柱に乗った外灯は通っていた頃のまま。
すぐに辿り着けなかった分、探し物を見つけた充実感は高まって、上野公園を歩く足取りは軽かった。

ラ・ボエームとジランドールの休日

2016-12-11 00:38:47 | 音楽
新国立劇場の『ラ・ボエーム』を13年ぶりに観た。
パリの屋根が連なったスクリーンが上がると、カメラのズームのようにとある屋根裏部屋が現れるという
粟國淳氏の演出を覚えていた。
♪「冷たい手を」は、この世で最も美しいものに出合った気分にさせてくれる。
詩人のロドルフォが「貧乏な暮らしでも心豊かに愛の歌や讃歌を創作している」と自己紹介するあたりから一気に胸が熱くなる。
第1幕で登場するこのアリアに心底酔いしれるには、開演前にアルコールを口にしておくべきだった。
第2幕の舞台を埋め尽くすほどのキャストも記憶に残っていた一方で、
忘れかけていたのが第3幕の魅力。
「春に別れることにしたから願っていたい。永遠に
冬が続くことを」というミミのセリフに
招待した両親もやられたようだ。
雪の降らせ方の強弱にまで切なさが行き届いている。
ムゼッタのカップルの痴話喧嘩と四重唱にしてしまうところもいかにもオペラらしい。

劇場を出ると、残酷なほどに舞台の世界は遠ざかる。
例えばウィーンのホールでモーツァルトを聴くと、外に出ても彼が生きた時代の街並が残っているという。
そのような連続性は東京では望めないものの、せめて電車には乗りたくなかった。
パークハイアットに昇って、燭台を意味する “ジランドール” で観劇の余韻を味わうことにした。

ボエームは冬のオペラ。
クリスマスの装飾が街に現れ始めたこの時期によく似合う。
今回のメインキャストは
ミミ:アウレリア・フローリアン
ロドルフォ:ジャンルーカ・テッラノーヴァ
マルチェッロ:ファビオ・マリア・カピタヌッチ
ムゼッタ:石橋栄実
指揮者のパオロ・アリヴァベーニ、オーケストラ、美術、照明といった脇役も質の高いことが窺われた。
オペラはボエームだけでいい、というのは言い過ぎだろうか。
王道の演出と舞台セットで鑑賞できれば尚更である。

2016 11.26 sat
新国立劇場