コントラバスも隠れてしまうほどの巨体で現れたのには驚いた。
しかし御年八十、アメリカのお年寄りの典型的な体型と言ってしまえばそうなのかもしれない。
歩く足取りの重さも、前回の来日から32年もの歳月が経っていることを物語っていた。
それでも白のジャケットを着こなしてビッグ・バンドを指揮する。
こんな姿を見られる日が来ようとは...
クインシー・ジョーンズの音楽を一言で表すとしたら、ズバリ “洗練” だろう。
彼の手に掛かるとすべての要素が滑らかにつながって、仕上がる。
舗装されたてのアスファルトのように。
最上のカッティングを施された宝石のように。
上品な色気というか、人肌のような独特の温もりを醸し出しているところも魅力である。
思うに何事も80点を90点にするより、97点を98点に、98点を99点に引き上げる方が遥かに難しい。
それを成せるのは本当に限られた人で、フィギュアスケートのタラソワなんかもきっとそう。
作品を垢抜けさせる業は、まさにマジックなのである。
コンサートは途中30分の休憩を挟んで、計4時間にも及んだ。
前半は亀田誠治プロデュースで日本人アーティストたちがお気に入りの作品をトリビュート。
絢香~K~土岐麻子~小野リサ~小曽根真~BoA~三浦大知~ゴスペラーズと続いた。
後半に入ると秘蔵っ子と呼ばれる若い才能が計6組披露され、
これだけでもお腹いっぱいというところだが、めくるめくメインディッシュはこの後。
パティ・オースティンが♪「愛のコリーダ」のイントロと共に現れると会場は一気に最高潮へと加速した。
続くパティの♪「Say You Love Me」では、モノマネ番組で見かけるようなサプライズがあった。
なんと2コーラス目から松田聖子が登場。
ジェームス・イングラムは♪「Just Once」でこれでもかと自分だけの世界を作り上げた。
そして何よりも感激したのはパティとジェームスの共演。
二人とも以前とまったく変わらぬ声量で♪「Baby, Come To Me」を歌い上げ、
しかも舞台袖ではそれをクインシーが見守っているという
奇跡のreuniteを目の当たりにした。
大都会を彷徨い疲れた大人の男女が邂逅する、そんな絵がニューヨークの薫りとともに浮かんでくる名曲である。
一方ですでにこの世を去ってしまったマイケル・ジャクソン。
♪「Michael Jackson Overture」なる彼のヒット曲のイントロをつないだ楽曲が
ビッグ・バンドによって華やかに奏でられているというのに、
ステージはぽっかりと空いているようで、今は亡き事実を突き付けられた気分だ。
そしてマイケルとの仕事こそがクインシーの最も偉大な成功であったことに改めて気付かされるのである。
その流れを汲んで、サイーダ・ギャレットは♪「Man In The Mirror」を熱唱した。
序破急そのままに終盤はあっという間であった。
ラストに用意されていたのは、出演者全員による♪「We Are The World」。
自然と皆が立ち上がった客席には、無数の思い出や感情が去来していたに違いない。
困っている人に手を差し延べようというシンプルなメッセージが、
モニターに映し出されたクインシーの優しい眼差しと重なった。
Quincy Jones The 80th Celebration Live in JAPAN(初日)
2013 7.31 wed
東京国際フォーラム ホールA