湖面を飛行する昆虫を、遊覧船のデッキから見つけた。
5月のきらめく陽光のなか、羽を超高速で震わせながら、滑るように進んでいる。
ブーンという羽音がかすかに一瞬だけ聞こえた気がした。
どうか水中や大空からの魔物に捕まりませんように。
そんな心配もよそにやがて対岸に到達すると、茂みのなかへと消えていった。
湖面飛小虫
五月光愈煌
雖羽高速滑
可到岸姿消
この曲も左手の鍛錬に尽きる。
羽のばたつきを微塵も感じさせることなく、ただ滑らかに、ひたすら優雅に。
冒頭の左手のパッセージは6小節繰り返され、そのあとの7小節目は
ユーミンの♪「やさしさに包まれたなら」や♪「ダンデライオン」とも共通するコード進行だ。
風を味方に加速してみたり、高度を調節してみたり、小さな生命が自由自在に輝く。
22と23小節目の左手のF#は羽のノイズ。
ポゴレリチの録音が一番それっぽい。
最後の4小節は両手のユニゾンとなり、その安定感は着陸を想起させる。
昨年初めて取り組んだエチュードがあまりに難しく、一曲が短い前奏曲を何曲かさらうことにした。
3番以外には、1番、13番、20番あたりが好みである。
ゴールデンウィークに足を運んだ横山幸雄さんのリサイタルに触発されて。
2024.5.3
横山幸雄「横山幸雄 ピアノ・リサイタル 入魂のショパン Vol.15」@東京オペラシティ コンサートホール