しずくな日記

書きたいなあと思ったときにぽつぽつと、しずくのように書いてます。

いつかの鼻歌

2012-11-23 22:43:21 | 日記
近所に、かなり古びたアパートがあった。

暑い日、朝からドアを開け放ち、ステテコ?姿のおじさんが、
玄関の横にある洗濯機で、ラジオを聴きながら洗濯してた。
その横を毎朝、通勤していた。
失礼ながらどう見たって、所得が高い人の住むところではなかったし、
2階建てで8個の部屋があるけど、人が住んでいるのは2~3部屋の様子だった。
線路沿いで騒音もすごいだろうし、駅からも遠い。不便な場所。
しかしその洗濯しているおじさんが、鼻歌まじりで楽しげで、
生活が苦しいとか、そういう切羽詰まったものは全く感じられなかった。
なんとなくほっとする光景だった。

大学出たてでお金が無かった時、私もこういう「~荘」的な古いアパートにいた。
こういうところは、横のつながりがあって、
隣に住んでいた独り暮らしのおばさんが、
「カレー作り過ぎちゃったから。」とか言って、持って来てくれたりしてた。
ある日、このおばちゃんに誘われて隣の部屋にお茶を飲みに行ったことがある。
暗い部屋、日本人形。
旦那さんと離婚してから子どもに会えないことや、
その旦那さんだった人が自分をストーカーしていて怖い、
ほら、今しがた、電柱の脇に誰かいなかった?と言っていた。
私は、誰も見ていなかった。
ちょっと怖くなった。

孤独は、きっと人をおかしくする。
お金の無い暮らしの中で、心に刻み込むように学んだことはそれだったかもしれない。




つい最近、近所のそのアパートが取り壊された。
人が生活していた歴史みたいな、残像みたいなものは、
あっと言う間になくなった。
あのおじさんはどうなってしまったんだろう、気になった。

夜、帰宅途中に通ると、
アパートの向こう側に隠れていた線路も暗い空も丸見えで、
なんだか妙に寂しくなっていた。

今日昼過ぎ、眠くてだるくて仕方ないけど仕事があるから出勤しようと、
そのアパートの前を通りかかった。
雨模様、薄暗い灰色の空の下、
むき出しになった黒い土の上に、テントのようなものが張られていた。

・・・・地鎮祭か。

しかし、下に引かれたブルーシートは泥だらけで、
今から始まるんじゃなくて、もう終わったあとなんだけど、
片付け途中でほったらかしにされたような様子だった。

人が住んでたのに、地鎮祭ってやるんだ。
いや、過去に人がいたから、地鎮祭ってやるのかな。
それとも、アパートで何かあって・・・。



いや、あのおじさんは、
きっともっといいところに引っ越したのだ、きっと。
そう信じることにする。


さっき、帰宅途中、またその前を通ったら、
もうすっかりきれいに跡形もなく何もなかった。
黒い土がてらてらしているばかりだった。


いずれ、新しい綺麗な建物がその土地に建つのだろう。
でも、あんなに楽しげな鼻歌を聴くことはもうないだろう。










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