◆ 政党ビラ配布 被告の僧、疑問と抗議
「憲法の番人 返上を」
「最高裁は憲法の番人を返上するべきだ」。政党ビラ配布目的でのマンション立ち入りへの処罰を合憲とした三十日の最高裁判決。住居侵入罪に問われた僧侶荒川庸生被告(六二)は強く批判した。判決は「表現の自由」より「住民の生活の平穏」を優先。「広告チラシの配布も罪なのか」。大きな疑問が残った。(1面参照)
「最高裁に問いたい。本当にこういう判決で良いのか。広告チラシを配っても犯罪なんですか」。判決後、弁護団とともに記者会見した荒川被告は強い口調で訴えた。
「最高裁は多くのマンションにビラが配られている現実に配慮していない。権力機構がつくった犯罪に歯止めをかけるべきなのに、最高裁は放棄した。不当判決に強い抗議を示す」と続けた。
共産党を支援する荒川被告は、都議会議会報告などを四十年以上、地域の住民に配り続けてきた。二〇〇四年十二月に逮捕されたマンションでも同じ年の春と夏に二回配布。
「逮捕された日まで住民から苦情を言われたことはなかった」と振り返る。
過激な文書を配ったり、深夜に立ち入った訳ではない。配布はいつも土、日曜日の昼間たった。荒川被告は「投函禁止の張り紙さえあれば、立ち入ったたけで有罪なのか」と疑問を投げ掛ける。
事件後全国を回り、集会などで逮捕や起訴の不当性を訴えてきた。荒川被告自身は「表現の自由」をことさら強調しない。もっと素朴な視点で、事件を捉えていた。
「私が有罪なら、広告チラシを配ったりしても犯罪になってしまう。最高裁は現実を見ていない」。
荒川被告は逮捕された後、ビラ配りを中断していたが、慎重な方法で再開したいという。「一般市民の訴えたい権利、知りたい権利を守るため戦いを続けたい」と力を込めた。
《葛飾区のビラ配布事件》
荒川庸生被告は、2004年12月23日午後2時20分ごろ、東京都葛飾区の分譲マン一ションで、①共産党の都議会報告②葛飾区議団だより③区民アンケート④返信用封筒を各戸のドアポストに投函(とうかん)していた際、住民に通報され、住居侵入容疑で現行犯逮捕、起訴された。身柄拘束は23日間に及んだ。
【解説】 「侵入」を形式的に判断
政党ビラ配布事件の三十日の最高裁判決は、「表現の自由は無制限に保障されるものではなく、他人の財産権を不当に害することは許されない」とした二審東京高裁判決を追認。荒川被告のビラ配布を「表現の自由」の範囲としつつも、住民の「平穏に暮らす権利」に重きを置いた判決となった。
最高裁は二〇〇八年、東京都立川市の自衛隊宿政党ビラ配布舎で「イラク派遣反対」のビラを配った市民団体メンバーの上告を、今回と同様の判断で棄却している。立川事件は、住民の抗議後もビラを配り続けた点が悪質とされたが、荒川被告は事件当日まで、苦情を言われたことがなかったという事情の違いがある。
判決はビラ配りを禁じる張り紙があった点を重視し、「住民の意思に反した侵入」という犯罪要件を形式的にあてはめ、集合ポストに投函(とうかん)しても犯罪になる余地を残した。
プライバシーや防犯に対する意識が高まる中、部外者が無制限にマンションに立ち入ることは許されない。「平穏に暮らす権利」も重要だが、実際にビラ配布が住民の平穏な生活をどのように侵したのか、どの範囲まで侵せば犯罪となるのかについて、最高裁は明確な判断を示すべきだった。 (加藤文)
『東京新聞』(2009/11/30 夕刊)
「憲法の番人 返上を」
「最高裁は憲法の番人を返上するべきだ」。政党ビラ配布目的でのマンション立ち入りへの処罰を合憲とした三十日の最高裁判決。住居侵入罪に問われた僧侶荒川庸生被告(六二)は強く批判した。判決は「表現の自由」より「住民の生活の平穏」を優先。「広告チラシの配布も罪なのか」。大きな疑問が残った。(1面参照)
「最高裁に問いたい。本当にこういう判決で良いのか。広告チラシを配っても犯罪なんですか」。判決後、弁護団とともに記者会見した荒川被告は強い口調で訴えた。
「最高裁は多くのマンションにビラが配られている現実に配慮していない。権力機構がつくった犯罪に歯止めをかけるべきなのに、最高裁は放棄した。不当判決に強い抗議を示す」と続けた。
共産党を支援する荒川被告は、都議会議会報告などを四十年以上、地域の住民に配り続けてきた。二〇〇四年十二月に逮捕されたマンションでも同じ年の春と夏に二回配布。
「逮捕された日まで住民から苦情を言われたことはなかった」と振り返る。
過激な文書を配ったり、深夜に立ち入った訳ではない。配布はいつも土、日曜日の昼間たった。荒川被告は「投函禁止の張り紙さえあれば、立ち入ったたけで有罪なのか」と疑問を投げ掛ける。
事件後全国を回り、集会などで逮捕や起訴の不当性を訴えてきた。荒川被告自身は「表現の自由」をことさら強調しない。もっと素朴な視点で、事件を捉えていた。
「私が有罪なら、広告チラシを配ったりしても犯罪になってしまう。最高裁は現実を見ていない」。
荒川被告は逮捕された後、ビラ配りを中断していたが、慎重な方法で再開したいという。「一般市民の訴えたい権利、知りたい権利を守るため戦いを続けたい」と力を込めた。
《葛飾区のビラ配布事件》
荒川庸生被告は、2004年12月23日午後2時20分ごろ、東京都葛飾区の分譲マン一ションで、①共産党の都議会報告②葛飾区議団だより③区民アンケート④返信用封筒を各戸のドアポストに投函(とうかん)していた際、住民に通報され、住居侵入容疑で現行犯逮捕、起訴された。身柄拘束は23日間に及んだ。
【解説】 「侵入」を形式的に判断
政党ビラ配布事件の三十日の最高裁判決は、「表現の自由は無制限に保障されるものではなく、他人の財産権を不当に害することは許されない」とした二審東京高裁判決を追認。荒川被告のビラ配布を「表現の自由」の範囲としつつも、住民の「平穏に暮らす権利」に重きを置いた判決となった。
最高裁は二〇〇八年、東京都立川市の自衛隊宿政党ビラ配布舎で「イラク派遣反対」のビラを配った市民団体メンバーの上告を、今回と同様の判断で棄却している。立川事件は、住民の抗議後もビラを配り続けた点が悪質とされたが、荒川被告は事件当日まで、苦情を言われたことがなかったという事情の違いがある。
判決はビラ配りを禁じる張り紙があった点を重視し、「住民の意思に反した侵入」という犯罪要件を形式的にあてはめ、集合ポストに投函(とうかん)しても犯罪になる余地を残した。
プライバシーや防犯に対する意識が高まる中、部外者が無制限にマンションに立ち入ることは許されない。「平穏に暮らす権利」も重要だが、実際にビラ配布が住民の平穏な生活をどのように侵したのか、どの範囲まで侵せば犯罪となるのかについて、最高裁は明確な判断を示すべきだった。 (加藤文)
『東京新聞』(2009/11/30 夕刊)
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