=週刊金曜日《半田滋の新・安全保障論 第88回》=
☆ まかり通る基地の「又貸し」
主権国家とは名ばかり
下宿人が友人を部屋に招き、寝泊まりさせている。明らかな「又貸し」だが、大家は「構わない、下宿人の自由」と黙認する。大家には強く出られない理由があるのだろうかー。
こんな理不尽な事態が沖縄県で起き続けている。
3月10日から2週間、オランダ軍の兵士が沖縄県の北部訓練場で行なわれた米海兵隊の訓練に参加した。
気づいたのはチョウ類研究者の宮城秋乃さん。米軍のトラックが北部訓練場に入るのを止めようとして、米軍と異なる迷彩服の兵士を見つけ、米海兵隊の交流サイトでオランダ兵を確認した。
宮城さんの情報開示請求を受けて、沖縄防衛局は初めてオランダ軍の訓練参加を知った。
日本政府は日米安保条約に基づき、米軍に基地や訓練場を提供し、日米地位協足によって、米兵の入国審査を免除しているが、オランダ政府との間で同様の取り決めはない。
外務省は「オランダ軍の兵士は3人で、民間機で国内に入り、通常の入国手続きを取った」と『沖縄タイムス』に回答したが、宮城さんの指摘がなければ、調べるきっかけさえなかった。
政府は「在日米軍の施設・区域内における米軍の活動に米国以外の外国の軍隊や軍人が参加することが、いかなる態様であっても日米安保条約上禁じられているというものではない」(2016年8月8日閣議決定)として「又貸し」を認めている。
末尾に「個々の事案に即して判断されるべきものと考える」とあり、かろうじて主権国家の体面を保つ。
昨年11月、米軍が北部訓練場を報道陣に公開した際、担当者は22年の使用実績としてオランダ、英国両軍など実に約1万4000人が訓練に参加したと説明した。
事前の届け出について、外務省は「他国との関係」を理由に明かさない。
☆ 米軍に及び腰
今回は違った。5月21日にあった参院外交防衛委員会で、外務省の参事官は「米国との間で今回の件に関する事前の文書でのやりとりは行っていない」と答弁した。
沖縄防衛局が知らなかったことがバレている以上、しらを切るわけにはいかなかった。
だが、オランダ政府からの事前連絡の有無について、上川陽子外相は「さまざまなレベルでやりとりを行っている」と明言を避けた。
外務省に連絡があったとすれば、なぜ防衛省に伝わっていないのか。語るに落ちるとはこのことだ。
政府は米軍に対して及び腰だ。
日本側に基地の管理権や立ち入り権がなく、米兵に対する国内法の適用も原則ないとする日米地位協定に縛られている。
協定改定を求める沖縄県が調査したところ、ドイツ政府やイタリア政府には米軍基地への立ち入り権も国内法の適用もあることが判明した。
すると外務省はホームページ上で
「米軍には日本の法律が適用されないのですか」
との質問に
「一般国際法上、(略)受入国の法令の執行や裁判権等から免除されると考えられています」
と答えていたが、
19年1月、突然「一般国際法上」を「一般に」と書き換えた。理由は書かれていない。
沖縄県の調査で説明が事実無根と判明した以上、ウソをつき通すわけにはいかなくなったと考えるほかない。これが日本という主権国家の実像である。
※ はんだしげる・防衛ジャーナリスト。
近著に『台湾侵攻に巻き込まれる日本」(あけび書房)。
『週刊金曜日 1475号』(2024年6月7日)
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