時、うつろいやすく

日常のたわいもない話…
だったのが、最近は写真一色になりつつある。

杉山君のひみつ

2015-12-23 13:18:24 | 人間シリーズ

中学の修学旅行。

みんなで大浴場に入った。

なぜかはわからない。

その当時、私は杉山君が妙に気になっていた。

杉山君は昨年、山奥の分校から転校してきた。

ただ単に田舎者の転校生ということで気になったのか。

それとも、杉山君が純朴で、小柄で、毛深くて、縄文人のように野性的だったから気になったのか。

いまとなっては思いだぜない。

軽い好奇心のつもりだった。

杉山君が風呂に入っている間に、私は杉山君の下着入れを覗いた。

編みかごの下着入れの中に、パンツが広げたまま脱ぎ捨てられていた。

特段パンツに関心はなかったが一目見てギッとした。

パンツのお尻のあたりにもっこりとうんこが付いていた。

もっこりである。

面ではなく立体のうんこである。

隆起したうんこである。

あり得ない大きさである。

漏らしたかどうかの問題はこの際どうでもいい。

それよりも、なぜこのような状態であけっぴろげにパンツを置けるのだろう。

私には到底理解できない謎だった。

やはり杉谷君は野人なんだと思った。

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ムロヒロシ

2015-06-29 19:50:23 | 人間シリーズ

どこをど見ても高木だろ。

これを田口に見せたら、スルーされた。

エェーーー

なんでわからんと。

高木そのものじゃん。

高木本人に賛同を得たいのだが、高木は25年前に「エホバ」の

一員になってしまった。

電話もしづらいが、おそらくムロヒロシなんて知りもしないだろう。

 

注釈1 : 高木と田口と私は同級生。

注釈2 : 高木と書いて「たかき」と読む。濁音は付かない。

注釈3 : 高木に似ているからではないがムロヒロシはいい味している。

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シュロの木

2012-01-31 13:35:52 | 人間シリーズ

  弓矢の先に布を巻く。
そこに火を着け、標的に向けて矢を放つ。
少年はテレビで見たこの荒業に憧れていた。
いつか試してやろうと思っていた。
その日がついにやってきた。
試す場所は少年の祖父の庭だった。
祖父と祖母の留守中を見計らってのことだった。
弓と矢は少年が竹で作りあげたものだった。
  少年は矢を放つ標的を探した。
目に止まったのは池の対岸に屹立するシュロの木だった。
祖父の庭では二番目に高い木だった。
4メートル以上はあった。
南洋的な形をしたシュロの幹には一面繊維質の毛が覆っていた。
その毛のいやらしさが標的にはうってつけだった。
  少年は矢の先に巻いた布にマッチで火を着けた。
布は威勢よく燃え上がった。
その矢を手に取り、少年は思いきり弓を引いた。
ためらいはなかった。
シュロの木めがけてこのときとばかりに矢を放った。
矢は一直線にシュロの木のど真ん中を撃ち抜いた。
脳裏に描いた通りのことが簡単に実現した。
  だが、想像できたのはそこまでだった。
バリバリバリ。
火は音を立て、たちどころにシュロの天辺まで燃え上がっていった。
シュロの繊維質の毛が炎の勢いを劇的に増大させた。
少年は慌てた。
消す手段が思い浮かばなかった。
とっさに閃いたのは三件隣りにあるじゅんすけ君の家のバケツだった。
そこには水道の蛇口があり、いつでも水を出すことができた。
これで消すしかない。
  少年はじゅんすけ君の家まで一目散に走った。
走っているうちにこれまで抑えこんでいた恐怖が一気に湧きあがってきた。
現実の重圧が雪崩のように押し寄せてきた。
自分にあの猛烈な炎を消せるわけがない。
少年はじゅんすけ君の家の前を通り過ぎてそのまま逃げ去ってしまった。
  夕方近くになって、恐る恐る少年は祖父の家に帰ってきた。
火は消えていた。
そこには黒く焼け焦がれたシュロの木が立っていた。
少年の祖父はまだ帰ってきていなかった。
その代わりにとなりのおじさんがカンカンに怒って待ち構えていた。
「もう少しで上の電線に燃え移るとこやったぞ!」
「おまえが逃げていったとこ見とったぞ!」
火は幸いに早い段階でとなりのおじさんがホースで消していた。
大事にはいたらなかったが少年の心には大きな傷が残った。
火を着けたことにではなく、逃げたことにであった。
矢で火を放つ、この偉業をすべて台無しにしてしまった。
とんだ腰抜けの野郎だ。
  一年後、シュロの木は枯れずに立っていた。
焼け焦げた毛は落ち、新しい毛に覆われていた。
少年はシュロの木を見るたびに過去を恥じた。
あの日以来、少年は弓矢を手にすることはなかった。


注釈:少年=小学四年生ころの私

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田口君

2011-10-06 22:00:52 | 人間シリーズ

最近、人づてに年齢のわりに私が若く見えるという話を二箇所で聞いた。
まあ、否定はしない。
同窓会に出ると自分でもそう感じる。
会場には、なんじゃこら、と思うようなジジイがごろごろ来ている。
空しくなるので最近は同窓会は行かないことにしている。
昨年、10年ぶりに福岡の田口が訪ねてきた。
驚いたー。
ぶったまげた。
30年前の学生時代とほとんど変わっていないのだ。
シワがまったくない。
顔髭が薄いのでいまだにツルンとした肌をしている。
体型もそのままだ。
極真空手に明け暮れていたあの頃のままの鋭敏な体をしている。
これはひとつの奇跡ではないかと思う。
老化といえるのはまばらにある白髪ぐらいである。
これを染めて、現在の田口を25年間に戻して、当時の私が会ったとすれば
おそらく、ちょっとやつれたな、という程度にしか思わないだろう。
仕事で苦労しているとは聞いているが、苦労と老化は別物なんだなと思った。
こういう奇跡を目の当たりにしているんで、自分ごときを「若い」といわれても
小恥ずかしい思いがする。

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小田君 その一

2007-07-09 13:04:04 | 人間シリーズ
小田君は男前だった。
頭も良かった。
面白くて人柄も良かった。
背も高かった。
スポーツも万能だった。
けれども本当はとっても小心者だった。
見た目とは裏腹にとっても繊細な少年だった。
そこが好きだった。
そのアンバランスさがなんともいえない親しみを呼んだ。
小学生のとき、小田君は私たちと遊んでいるときに転倒して口の中を切った。
口からボトボトとこぼれるように出血しているのに、
小田君はなにごともなかったように涼しい顔をして保健室にいった。
結局5針を縫う大怪我となり、次の日の遠足を欠席した。
あくる日の朝、小田君はまた涼しい顔をして学校にやってきた。
小田君のポーカーフェースぶりは小学生ながら超一級品だった。
そんな小田君に、中学生のとき悲劇が起こった。

小田君は校内規則で定められていた徒歩通学をいつもズルしていた。
学校のそばの川原まで自転車で来て、その土手の草むらに自転車を隠してした。
そのことを私は小田君からこっそり聞いていた。
ある日の昼休み、私は小田君たちと校内の裏庭でビー玉遊びをしていた。
野焼きのシーズンで田畑のあちこちから黒い煙が上がっていた。
川原の土手が野焼されていることに気づいたのはそれから数分後のことである。
小田君の自転車が危ない!
私は血相変えて土手の方を見た。
遅かった。
遠くに黒焦げになった骨だけの自転車が放置されていた。
小田君の自転車だった。
痛ましい姿だった。
そのとき、小田君はビー玉遊びに夢中になっていた。
いや、正確には夢中になっているふりをしていた。
ときどき、何気ないそぶりで自転車の方をのぞいていた。
誰も小田君の動揺に気づいてはいなかった。
小田君のポーカーフェースは相変わらず鉄壁だった。
しかし、私は見逃さなかった。
小田君の目の縁に、一瞬、一粒の涙が光ったことを…
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しんいち君

2007-07-06 01:49:18 | 人間シリーズ
小学生のころ一番仲の良かったのがしんいち君だ。
しんいち君はいつも腰からダラ~ンと下着をはみ出ていた。
しんいち君は目がサバの目のようにトロ~ンとしていた。
しんいち君は笑いだすと笑いが止まらずにいつも最後にはよだれをこぼしていた。
しんいち君と私はいつもにやにやして夢のような話ばかりしていた。
しんいち君は指の関節がやわらかくて反対方向にぐにーと曲がった。
腕の関節も柔らかくてこれまた反対方向にぐにーと曲がった。
必殺タコ人間だった。
この特技は使えるぞ、と思いテレビ局に応募したことがある。
日曜のお昼、土井まさると相本久美子が司会をしていた
「テレビジョッキー」という番組だ。
そこに奇人変人のコナーがあった。
毎週、全国の奇人変人が集ってきた。
出場するとほうびに白いギターがもらえた。
私たちはそれに出ようと目論でいた。
本気で思っていた。
しんいち君の「タコ人間」だけではインバクトが弱いと見て、
私の耳動かしもレパートリーに加えることにした。
当時、私たちは桜田淳子の熱烈なファンだった。
せっかくテレビに出るんだったら、桜田淳子がゲストの時に
出してくれと応募用紙に書き込んだ。
東京に行ったら、ついでにいろんな所を見て回ろうと計画していた。
私たちの目論見は達成するものと信じ込んでいた。
私としんいち君はおそろしく浅はかな少年だった。

私たちはテレビ局からの連絡を長いこと待った。
中学になっても待ち続けた。
白いギターと桜田淳子のサイン入り色紙を思い浮かべながら…
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太田君

2007-07-02 18:54:40 | 人間シリーズ
私が住んでるところはかつて森だった。
小学生のころ、私はその森にクワガタ採りに出かけた。
太田君という同級生と二人で森に入った。
太田君は虫採りの初心者である。
私が半ば無理やり誘ったような記憶がある。
太田君はおずおずと私のあとについてきた。
森の奥はうっそうとして薄暗かった。
私はずんずんと森の奥へ進んでいった。
私は森のちょっと開けたとこで立ち止まり、
後にいる太田君を振り返った。
太田君のシャツのエリに大きな毛虫がいた。
毛虫はモコモコと太田君の首の近くを動いていた。
太田君、首に毛虫がいる!
と、私がささやくと、
いままでおとなしかった太田君が
いきなりギャーーーと叫んだ。
森中に響くような声でギャーーーと叫んで
私に突進してきた。
私もギャーーーと叫んで逃げた。
太田君は毛虫をつけたまま、どこまでも私を追いかけてきた。
私は死に物狂いで逃げまわった。
毛虫も恐かったが太田君がもっと恐かった。
太田君が化物になったように思った。
私と太田君はギャーギャー叫びながら延々森の中をかけめぐった。

その後のことは覚えていない。
ただ、それ以後、私は太田君を虫採りに誘うことはなかった。
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