8月18日のNHK special 「新富裕層vs国家」はなかなか見応えのある番組でした。投機マネーやベンチャーなどで新たに富裕層(資産数億円以上)になった各国の人達が祖国を離れて所得税制などが安い国に移住してさらなる資産増加を計る事が増えている。アジアや日本ではシンガポールへ、アメリカではプエルトリコが国を挙げて富裕層の移住を歓迎している状況が紹介されていました。新富裕層が国外へ移住してしまうと、本来祖国に納められるべき税金が失われる事になります。よって国家(官僚)は、これらの新富裕層からいかにして税を徴収するかという問題になり、それは既に各国レベルでは対応できないため、国家同士が連携して移動する富裕層の所得を追いかけるシステムが作られつつある、という話題につながっていました。
この番組では、普段テレビなどのメディアであまり言及されない事、つまり1)新富裕層は国家の政策の結果作られたこと(景気対策やバブル崩壊を防ぐために国債(税金)でマネーを刷り散らかし、そのマネーの名義が付け変わって新富裕層の所有になったということ)、2)トリクルダウンセオリーはまやかしであった事(会社や富裕層に金が回れば庶民にも金が回るはずという根拠のない理論がやはり虚妄と証明された)、を明言していました。新富裕層は、持てる資産で産業を興すという「本来の正しい資本主義の精神」など持ち合わせず、単にマネーゲームで自分の資産を増やすことだけに専念してしまうレベルの人達が多いことも指摘していました。一部、ベンチャー企業を育てるため資産を投じて頑張っている投資家も紹介していましたが、多くの新富裕層はマネーゲームに終始しています。
一方でシンガポールでも一般の庶民の暮らしは貧富の差が開く事で厳しいものになってきており、富裕層への怨嗟の声も聞こえ始めています。番組では「頑張って努力して金を儲けているのだから、努力して儲けていない低所得の人達のために税を沢山払うのは納得できない。」という富裕層の声を紹介していました。まあ彼らの言い分はその通りなのだと思います。
私は中流にへばりついている層で、とても富裕層などではありませんが、彼ら富裕層に対して違和感を感ずる最大の所は「儲けさせてくれた社会に対する感謝の念のなさ」です。私は医者で多忙であることには不満を持っていますが、自分の所に来てくれた患者さんには(自分を信頼して体を預けてくれた事に)どんなに忙しくても感謝の念を持って接しています。それが仕事をする上での礼儀であり「治してやった」「診てやった」といった態度では必ず取り返しのつかない失敗をし、信頼を失う事になるだろうと肝に銘じています。それは他の仕事、金儲けにおいても同じであって、いくら自分の努力であっても「儲けさせてもらった」事を社会に感謝し、せめて納税という形できちんとお返しをするのは最低の倫理観であろうと私は思います。
番組で紹介されていた、80年代からウオール街で働いて財をなし、プエルトリコに移住した彼も、アフガニスタンに生まれていたら今の人生ではなかったはずです。自分を儲けさせてくれた米国社会に恩返ししないでどうする(海兵隊に志願して戦争に行けという意味ではないですが)と痛感します。
資本主義が正しく成熟してゆくには、日本の企業や商いにおいて古くからある倫理観こそが、これから世界で見習われなければならないものだと思います。またシンガポールのような国家の生き方は内田 樹氏が喝破しているように所詮民主主義を犠牲にした金持ちだけに顔を向けた社会でしか通用しないものだと思います。
この番組では触れられませんでしたが、我々が忘れてならないのは、元からいる「超富裕層」の存在です。「超富裕層」の人達は世界の銀行や通貨の発行をコントロールして世界を動かし、場合によっては国家間で戦争を起こすことで利益を確保しているのですから油断なりません。我々は彼らの策謀でやりたくもない戦争を強いられたり、エネルギー、食料、水などをコントロールされることで日常生活を破壊させられたりしないよう、今後とも知恵を巡らせて行かねばならないでしょう。