日本政府は子供達への新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため、3月2日から全国の小中高の休校を要請するという異例の処置を取りました。また不特定多数が集まる集会なども自粛要請が出て、イベントや会合、学会も休止や延期が相次いでいます。物流を止めない限り、この1—2週間の感染者を増やさないための処置、また世界への日本国としての対応を示す意味でこれら対応は適切な事である様に思います。
但し、前回ブログのコメントでも指摘した様に、現在のメディア情報というのは「サイエンスに基づく医学的情報」と「政治的建前を含む情報」とが混在していて、互いに影響し合い、また互いを否定することもないのですが「建前」を含む情報を「全て真実」と鵜呑みにすると誤りである事を認識する必要があります。目の前にある情報がこのどちらであるかは素人であっても注意すれば判ります。
米国も情報の二重性については同じであり、経済と再選を気にするトランプの発言とCDC長官の発言が食い違っている事から、とうとう新型コロナについてはCDCが勝手に見解を発表できなくなり、全て副大統領のペンス氏を通して発表することになりました。
新型コロナの収束はSARS型か豚インフル型か?
2002年11月に中国広東省でコロナウイルスを原因とする約20%の患者が重篤な呼吸器症状や下痢を呈する非定形肺炎が発生し、SARS(Severe acute respiratory syndrome 重症急性呼吸器症候群)と命名されて2003年3月WHOからグローバルアラートが発令されました。SARSは32の地域と国に8,000名を超える患者が発生しましたが2003年7月5日にはWHOから収束宣言が出されました。これは感染源を特定し、隔離を徹底する「封じ込め」により感染拡大を防いだ良い例と言えます。
一方で2009年米国、メキシコなどで発生した豚インフルエンザ(H1N1)は、当初WHOはパンデミック警報レベルをPhase4に引き上げて世界的な注意喚起が行われました。日本でも当初はPCR検査による感染の確認も行われていましたが、翌年までに日本では推計2,000万人が罹患し、200名が死亡という統計が出されたものの、2010年8月にはWHOはポストパンデミックの宣言をして以降この新型インフルエンザは普通の季節性インフルエンザと同様に扱われるようになりました。つまり流行してしまったものは仕方なく、今後は通常の感染症の対応で問題ないという事になったのです。その後の季節性インフルの予防接種(4価)にはH1N1が含まれています。
さて現在問題となっている新型コロナ感染症はこのどちらに落ち着くか、当初はSARSとほぼ同じウイルスということもあり、2002年のSARS型の「封じ込め」を狙っていた事は確かです。感染源の徹底的な追及と隔離というのがパンデミック前の「封じ込め」の原則です。この時期においては「疑わしきは検査」も大事です。しかし私は「この感染症は強力な感染力と無性状や軽症者が多く、その様な人も感染源になりえるため、昨年末の時点で既に蔓延している」という立場を取っていることは前回のブログで述べた通りです。幸い2002年の初代SARSよりも重症化は少なそうで若い人はあまり死なないですし、季節性インフル+αの疾患として扱うことも可能と思われます。欧米においても感染症学者で「既に蔓延」「遠からず必然的に蔓延」の立場を取る人は増えています。日本でも表立ってメディアで言いませんが、政府内部では「もう広まっている」という前提で話が進んでいると思わせる対応をしていると思います。つまり予防法や治療法については未確定ながらパンでミックになることは受け入れて豚インフル型の収束にせざるを得ないという立場なのではないかと思います。
ただ世界がまだ2002年のSARS型封じ込めを狙っている段階でパンデミックを受け入れると「日本が封じ込め」の対象にされるからそう表明できないのです。
メディアやネットでも新型コロナについて明確にこの視点で議論をしている物を見かけないのですが、国民がどうしてよいか混乱するのは目標が定まらないからであることは確かです。
狂想曲に踊り狂うと「PCR検査をしない」と「医療を受けない」が同じに
訳が判らず「新型コロナ狂想曲にただ踊っている」テレビ番組はワイドショー初め多いと思われます。3月1日のTBSサンデーモーニングの内容は酷いものでした。解説者として出ていた専門家らしい人も視聴者を混乱させるばかりで、実臨床をしていない専門家というのはこんなレベルかと暗澹たる気持ちになりました。新型コロナの診断をするPCR検査の敷居が高い事を批判する内容でしたが、「検査をしない」が「医療を受けられない」に話がすり替わっている。保健所などに問い合わせて「PCR検査をしなくて良い」と言われたら面倒な「帰国者接触者外来」に回されず、堂々と普通の病院やクリニックを一般患者として受診できるのに「お年寄りは脱水などあり早期の対応が必要」とか「検査ができないまま死ねと言うのか」といった意見を紹介してしまい、専門家が「熱や咳が出るのは新型コロナだけではないので普通に医療を受けて下さい」という重要なメッセージを発せず、国立感染症研究所は旧陸軍の流れを汲むからどうのこうのと現在の活動内容と何の関係もない御託を並べる始末、視聴者の認識を偏った方向に導くあり得ない内容でした。その後の「デマが広がる病理」の解説はまともな内容だっただけに医学の内容がお粗末だったことが悔やまれます。
日本で「検査対象を広げた結果感染源不明が増えた」理由
北海道での感染増加は無症状の若者が地域に移動して感染を広げた可能性がある(確度がかなり低く無理やり考えればという感じがにじみ出ている)という結論になっています。本当にそれが唯一合理的な回答でしょうか。私は「もともと流行っていたから」という方が自然な考え方のように思います。しかし政治的建前ではそう言えないのでしょう。前回のブログで記した様に、昨年12月末頃に流行していたインフルエンザ陰性の高熱が続く呼吸器症状の強い風邪は、今その症状ならば新型コロナのPCR検査を受ける対象になりますが、その時点から関東など都心部では新型コロナが流行っていたのであり、月単位の遅れで北海道にそれが蔓延して現在の北海道で広がりが見られていると考えるのが合理的だと思います。米国CDCも同様の結論だから国民の70%は罹患するとコメントされ、カリフォルニアでは要観察対象が急に数千名も増加したのだと思います。
私は、新型コロナ感染は「豚インフル型」に収束せざるを得ないだろうと考えています。現在我々にできる事は粛々と感染予防に務め、パニック買いなどはせず、「必要に応じて普通に医療機関にかかる」事だと思います。