書評 日本が中国の属国にさせられる日 副島隆彦 著 2016年刊 KKベストセラーズ
やや衝撃的で挑戦的な題名の本で、販売戦略上ある程度キャッチーなタイトルにせざるを得ない点があったことは前書きにも書いてあるのですが、内容は今までの氏の著作とは少し趣が変わったと思われる内容でした。通常ブログで書いている書評(といっても本の紹介までゆかない単なる感想ですが)の形式ではなくて、直に著者である副島氏に送った感想文を記します。有難い事にすぐに直接著者である副島氏からメールによる返事をいただきました。概ね私の受け止めかたは著者の意図に反していないと言っていただけました。
著者 副島隆彦 氏に送った感想
いつも示唆に富むご教示をありがとうございます。今回先生の力作「日本が中国の属国にさせられる日」を拝読し、「今までの先生の切り口と少し違うかな。」と率直な感じを得ました。それは前書きと6章の終論でも述べておられますが、修辞的内容を排して「本音」を直言することで現在の政界・言論界が20世紀的な観念に未だに執着して現在の状況に適合しきれていない状況に警鐘をならしていると思われた事だと思います。
現在右翼左翼ともに何か未だに1980年代的な「セットになった観念」に捉われていて、現実に対応する上で何を言っているか解らないと思う事がしばしばです。共産中国はすでに毛沢東の時代の中国ではなく、米国と次の覇権を争い、必要があれば(国家戦略上利があれば)外国に対して限定的な武力闘争を仕掛ける事も辞さないというのは本当だと思います。「一体どこの国が日本に責めて来ると言うのです?」みたいな事を言っているようでは話にならないのであって、中国が日本に対して武力を使うことに「利なし」と思わせるにはどう振る舞って行くか、という議論が必要なのだとのご提案と感じました。それは「米国の先陣を切って戦場に突入する準備を整える」ことではないことは勿論ですが、もっと根っこの部分から日本のあり方について思想を持ちなさいということかなと愚考しております。以下先生の御著書を拝読して感じたことをご報告させていただきたく存じます。
まず「中国の属国化」というタイトルは中国嫌いの諸兄への先生一流の注意喚起と思いますが、私なりに感じましたのは、広い意味で「日本は中国の文化経済圏の一部である」という先生の主張だと思います。ユーラシア大陸の西の端には種々の問題が山積していますが、統一通貨のユーロ圏という経済圏があり、今回EUからの離脱を表明しましたが、英国がその文化経済圏の一翼を担っています。そして東の端が中国と日本であり、中国は中央政府の統制がめちゃくちゃ強力なユーロ圏のようなものであり、それが二千年来支配者を変えながら続いてきた。現在は漢民族が主体の共産党という中央政府が仕切っている経済圏であると考えられます。日本は好むと好まざるとにかかわらずこの大きな経済圏の一翼を担っていて今後もその影響を受け続けるということだと思います。
企業の経営者たちには中国嫌い、共産党恐怖症の人達が多いというご指摘はその通りでしょう。しかし1億人の日本人が生活してゆくための経済を動かすには今後とも中国とうまく付き合ってゆかねばならず、国益を考慮すれば大陸経済圏の一部として活動してゆく、もっと積極的にかかわってゆくことも必要になると私も思います。現在米国の対中戦略に取り込まれて日中が対立する構図が作られつつありますが、詰まるところ裏で手を結んだ米中に日本が二分割されるような結末にならないよう注意する必要があります。そのような「まさかという事」を平気でやるのが大国というものだと私も思います。
また理屈だけでよい社会が作れるなどという幻想を抱いている左翼への叱責もまさしく当を得ていると思います。人間は理屈だけでは動きません。理屈で動かない人間を処罰や殺戮で言うことを聞かせてきたのが左翼の歴史です。その事実に真摯に向き合いなさいという先生のご指摘は至言と思いました。
今程リベラルと言われる人達の立ち位置がはっきりしない時代はないと思います。1980年代のようなマルクス主義と反米・市民運動がセットになったような状態は比較的解りやすい状態であったと思いますが、反グローバリズムは突き詰めるとナショナリズムに繫がる可能性があり、親韓・親中も中韓のナショナリズム的右翼思想に利用されるだけという構図が見えている状態で「自分はリベラル」と思っている人達は一体何を主張すれば良いのか呆然としているのではないかと思われます。先生が主張されるようにきちんと左翼の誤りを総括してその上で何を目指すべきかを確立しなさい、というのは非常に重要な事と思います。
ファシズムにならない郷土愛やナショナリズムというのは、米国の伝統的右翼・保守というのが国家統制から徹底的に自由であろうとする「リバータリアリズム」という解りやすい立ち位置である一方、日本の保守が米国では国家の統制を強める左翼的思想に近いというのが日本のリベラルにとって混乱する原因になっているように感じます。国家をバックにしたグローバリズム(コーポラティズム)に対抗する思想的な軸を確立するとともに、1億人が食べて行くにはどうするか、といった現実的な対応を提供できるようなリベラル思想がなければ「良くわからないうちにアジア人同士で戦争をさせられる羽目になる」という状況を打破する事はできないのではないかと先生の著作を読みながら痛感しました。
以上雑駁な感想で恐縮ですが、今後とも先生のご活躍、ご教示宜しく御願いいたします。 Rakitarou 拝
以下 副島隆彦 氏からの返事
拙本 「日本が中国の属国にさせられる日 」をお読みいただき、丁寧な感想をお書きくださりありがとうございます。 正確に 私の考えを理解してくださいまして、心から嬉しく思います。
このように 私は、日本の 右、左 の両方を、結果として敵に回す(ほどではなくて、さらに無視される)ことになります。 私の先生たちが、そういう人たちでした。
そのために 勢力としての 彼らの仲間に入ることが、どうしても出来ません。
言論人として、影響力を持てないままで、生きてゆくのは、大変です。
これも自分の運命と、今では、すっかり諦めています。 諦(あきら)めるとは、何が事実かを明らかにする、ということだと、ずっと考えて生きてきました。
私にとっては、この本は、見抜いていただいたとおり、かなりの決断の末の 大きな態度変更の本です。日本共産党系の私の、数少ない、しかし、私から情報を取っていた人たちが、早くも、離反しました。 彼らは、やはり 古臭い左翼です。過去の栄光も、自分たちの先人たちの業績さえも、はっきりと確認できない人たちだ。
嫌われてもかまわない、という生き方を、私は、これからも、死ぬまで続けるのでしょう。
丁寧な読後感想をありがとうございます。重ねてお礼を申し上げます。
副島隆彦拝
私は読んで強い印象を受けた本は、著者に出版社経由で感想を送ったりすることもたびたびあるのですが、きちんと返事を返して下さる著者の方も多く、有難いと思います。副島氏は10数年前に初めて読んだ経済本で強い衝撃を受けて感想を送った時も丁寧に封書で返書いただき、普段はべらんめい調ですが、非常に読者を大切にしている方だと以来尊敬しています。その点、「内田 樹」氏は著作の内容は非常に納得できるのですが、感想を送っても「なんで自分の知らない人の書いた文を読まされないといけないの?」などとツイートされてしまうので、不特定多数へ情報発信をしているプロの言葉と思えず興ざめでした。