消費増税法案が審議中でいつ採決をするのか、採決後に衆議院解散はあるのかが注目されています。1000兆円にのぼる日本の借金は今後も増加を続けると言われており、一般会計における国債償還のための予算も年々増加、一方で国家の歳入は減少してきており、歳出削減にも限界があることから増税はやむを得ない選択というのも説得力がある意見とは思います。
しかし消費税1%につき1−2兆円の税収増としてもせいぜい10兆円税収が増えても一般会計の赤字体質は変わらないのではないかと普通考えるのですが、この点について日経ビジネスオンラインで財務副大臣の五十嵐文彦氏が以下のように答えています。
(引用開始)
記者:そうはいっても、内閣府が今年1月に示した試算によると、低成長の「慎重シナリオ」では、消費増税をする2014年度、2015年度だけは2013年度よりも歳出と税収との差額(新規国債発行額)が減りますが、2016年度は44兆円と、13年度の43.8兆円よりも新規国債発行額が増えます。本当に消費増税で財政健全化は進むといえるのでしょうか。
五十嵐:内閣府の試算では、今回の一体改革による消費増税分を折り込んでいますが、財政健全化については、財政運営戦略の目標として基礎的財政収支赤字対国内総生産(GDP)比が用いられており、これが2016年度にはマイナス3.0%程度となり、財政構造としては赤字半減目標の水準(マイナス3.2%)が達成できる姿になっています。
また、歳出と税収との差額について言えば、確かに名目金利上昇に伴う利払費の増加などもあるので、名目では2014~15年度の水準(約43兆円)よりも16年度(約44兆円)へと増えるかもしれません。
しかし、その一方で、試算では慎重シナリオでも、2013年度以降に、1%台後半から2%台の名目成長をするとみており、名目GDPも、2012年度の約480兆円から2016年度には521兆円へと伸びています。従って、歳出と税収等との差額の規模を対GDP比ベースに換算してみれば、13年度の9.0%から16年度には8.4%となり、財政状況は改善するとの試算になります。このように、名目値ベースではなく、対GDP比でみるべきでしょうね。
ただし、今回の改革のみでは、2020年度までの基礎的財政収支の黒字化という目標が達成できるというわけではないので、引き続き努力が必要です。
(引用終了)
何を言っているのかさっぱり理解できないのですが、この10年以上GDPの増加などないのに「増加すると仮定すると赤字分の対GDP比が減るから良いのだ」と言っているようです。要は増税などしなくても景気が良くなって自然増収になれば対GDP比は減ると言っているにすぎないようにも見えます。さすがにこの先生の記事には読者からの批判コメントが嵐のように寄せられているのですが、財務省の正式な「増税による財政再建の説明」がこれなのでしょう。実は財務省、あまり財政の赤字について危機感を持っていないのでは、というのが私がこの説明を見たときの感想です。
そこで財務省のホームページから「日本の財政関係資料—平成24年度予算 補足資料」というpdfを見てみました。24年度予算90.3兆円の歳入に占める公債の割合は49%44.2兆円で、建設公債を除く赤字公債は42%の38.3兆円です。歳出では公債の利払いや償還に当てられる分が24.3%の21.9兆円なので、基礎的財政収支から建設公債分を除いた純粋な赤字予算は38.3兆円—21.9兆円で16.4兆円となり、あと16兆円増収になれば純粋な赤字分が解消されて後は借金返済だけになるという目論みはできそうです(この計算は図をみながらの方が分かりやすいので興味のある方は財務省のホームページにどうぞ)。
図は同じ財務省の資料からコピーした良く見かける日本の公債残高の累計ですが、4条公債とは建設国債のことで道路などで資産価値もあり経済的償還が見込めるはずのものです(だから財政法上存在が認められている)。問題は特例公債であり、財政法違反であるにもかかわらず毎年特例として認めてしまった財政赤字の累積であって、本来の国家債務とはこの特例公債残高のことです。24年末には450兆円になり、丁度日本のGDP1年分に相当します。
もう一つの図は債務残高の国際比較ですが、財務省はわざと日本の債務残高をGDPの200%以上に見せていますが、これは財政法上問題ないはずの4条公債と国の借金ではない地方債も入れた数字であり、本来の赤字国債の累積であるGDP100%で比較すると日本の24年度の債務残高は、米国やカナダと同レベルであることが分かります。諸外国の債務残高は地方債を含んでいないのですから(米国の地方債の赤字は表に出せないくらい酷い状態で公務員の給与も出せない位と言われています)比較を行うならば純粋に赤字国債同士でないと正しい情報になりません。
以上の事を総合して考えると日本の国家債務の累積額は先進国並みであり、その多くが日本国内の預金などで消化されている事を考えると、日本の国債が比較的安全であるという市場の評価、利率が低いまま維持されている理由に納得が行きます。確かに消費増税をすることで基礎的財政収支における純粋な赤字分を減らす事はできそうですが、それは景気回復による自然増収によっても解決できる事であり、私には今すぐに増税しないと日本の国家がつぶれるとは思えません。それはどうも本気で特別会計を含む国家予算の組み直しを考えていない財務省のプロ達にとってもそれは同じ感覚と言えるのではないでしょうか。