書評「マスコミより確かな習近平の言い分」孔健 著 三五館 2014年刊
孔子直系75代目の子孫で、世界孔子協会会長で日本在住の 孔 健 氏が日本に住む中国人の立場から習近平と最近の中国情勢、日本に対する見方を解説した本です。日本に1985年以来住んでいるということで、十分日本について理解している上で、中国人としてのアイデンティティ、愛国心もある中で評論解説をしている点で非常に興味深いものがありました。特に、中国は何故日本を敵視するのか、今後中国(習近平)は日本をどう扱いたいのか、習近平・中国の今後の世界戦略はいかに、といったことはなかなか日本のメディアでは解説されないことであり、中国人としての氏の解説は参考になるとともに説得力があると思いました。以下に本書から感じた私の興味を持っている点についてまとめます。
○ 習近平氏の日本観、世界観はどんなものか
習近平氏の世界観を視る上で、巻頭に中国国営テレビのキャスターである白岩松氏が習近平氏と単独インタビューをした内容が紹介されているのが興味深いものでした。その中で習近平氏は、アメリカが自国のドルを守る(ドルの価値を高める)ために、ギリシャのユーロ危機を作り出し、外貨としてのドルを大量に保有する日中を尖閣問題(釣魚島)で反目させて貿易にダメージを与えた、という認識を吐露しています。かつて日本の中川財務大臣が奇妙な自殺を遂げた事も米ドルを守るための動きの一環として捉えているという発言なども、中国の情報網を駆使した種々の情報からある程度確たるものを得ての物言いと思われます。中国はBRICS諸国と連携してIMFに替わる開発銀行の創設を行っていますし、先のAPEC2014においても日米のみが反対した「アジア太平洋自由貿易圏」構想を強力に押し進めています。つまり習近平氏は日本を好き嫌いで見るのではなく、あくまで経済的な米中戦略の中で判断し、対応しているのであって、中国国内の一般民衆の反日や愛国心を戦略的に利用することはあっても、あくまで自国との利害関係のなかで日本との対応の仕方を考えて行くという、至極冷静で計算高い思考の持ち主であることが伺われます。
○ 習近平氏の国内の治世手法と今後の経済展望は
習近平氏の国内に対する治世手法は、保守的復古的なものであることは確実です。行き過ぎた資本主義によって共産党統治下であるにも関わらず貧富の差が開き過ぎ、また官僚の腐敗、黒社会の勢力拡大によって民衆の不満は頂点に達し、毎年数万件の暴動が発生している中国社会が危ういものであることは十二分に認識していることでしょう。社会が壊れようとしている時、他国と戦争を起こして国民の注意を外に向けるという手法も諸刃の剣であり、内乱に持ち込まれて対抗勢力に一機に政権を倒される(日露戦争のロシア、第一次大戦のドイツなど)可能性もあり賢い指導者ならば選ばない選択でしょう。
そこで習近平氏は中国伝統の儒教の復活による「徳の政治」の実現を目指していると言われます。また反腐敗闘争はこの一年の中国の動きを見れば明らかです。また恣意的になりがちな法の厳格化、法治国家の徹底も対策にあがっています。経済的には内需の拡大と内需を支えるための資材やエネルギーの確保に余念がありません。また軍閥化しつつある解放軍を「国軍」に改変しようともしているようです。確かに軍の中には日本と戦争をすることで権限拡大を目指している勢力があることも確かなようですが、それは国益ではなく私益の観点からに過ぎません。将来的に中華貿易圏、中華国防圏(米中で太平洋を二分する、三戦-輿論戦、心理戦、法律戦の実践)といった構想も確かにあるでしょう。そのような動きには日本としても断固とした対応をするべき(日米、日ASEANによる権益の保持)ですが、それは中国との放火を交えた戦争である必要はありません。
○ 日本はどう対応するべきか
孔健氏は第六章「日中は戦わず、ただ争うのみ」と題した章で、日中は互いを故意に誤解して対立している部分が多く、本来もっと協力関係を築く事ができると提言しています。良いライバル関係というのは、互いを憎み合って成立するものではなく、互いをリスペクトすることで成り立つ物だと言えます。「日中が対立していた方が都合が良いという勢力」の言うなりになることは、国益を損ね、売国行為に当たることは明らかです。しかしこの事をマスコミが指摘することはなく、いたずらに中国脅威論だけが喧伝されます。戦前の方がよほどアジア重視の視点を日本は持っていました。日本人の多くが中国に憧れを抱き、中国移住を夢見るようになったら本当に日本の危機といえます。現在の中国は未だ総体としては民度も低く、恐れるに足らない存在です。しかし14億の民は今後もずっと日本の隣国として存在し続けることは間違いない事実です。その中には大バカ野郎も沢山いますが、とてつもない天才や大人と呼ぶにふさわしい人物も多数いることも確かなのです。日本は古来から大国中国と賢く付き合ってきたのですから、今後も賢い付き合いをしてゆけば良いのです。同じ文化圏にありながら二千年に渡り戦争をした回数の少なさとしては、日中は世界にも珍しい関係にあると言えないでしょうか。この事実を日中両国民が認識してお互いに賢く付き合って行けば良いだけの話ではないかと私は思います。
第二部として
日本人人質事件顛末のまとめ
2015年1月に明らかになったイスイス団による日本人人質殺害事件は、1月以降に起こった事全てが大きなプロパガンダ戦争の一環として行われた可能性が高いと思われます。いちいち出典を示すこともしませんし、つなぎは素人の推測でしかありませんが、一連の経緯について納得がゆくようにまとめておきたいと思います。
ジャーナリストの後藤健二さんは、種々の報道で見られるように中東の戦争犠牲者達、弱者の視線で活動を続けて来たことは確かだと思われます。しかし湯川ハルナ氏との関係についてだけは、民間軍事会社設立を目指していた彼から利用され、また逆に資金源として彼を利用する関係にかなり前からあったのだろうとハルナ氏のブログなどからも推測されます。湯川氏は自民党の茨城県議などとのつながりもあり、集団的自衛権で自衛隊や関連企業が中東に派遣された際に警備などの委託を受ける民間軍事会社設立をビジネスチャンスとして捉え、目指して活動していました。某所から資金源を得て活動していた湯川氏は一度シリアの反政府組織に捕らえられて釈放された経験がありながら、資金提供者からの圧力などもあって途中で止めることもできず、また中東に出かけて行き、イスイス団に8月に捕まってしまいます。本人もムスリムであり、イスラム法学者でもあるハッサン中田氏は昨年暮れにイスイス団に日本の若者を送ろうとした廉で公安から取り調べを受けたようですが、その際の罪状は「私戦予備および陰謀の罪」だそうで、刑法における条文としては「外国に対して私的に戦闘行為をする目的で、その予備または陰謀をした者は、三月以上五年以下の禁錮に処する。」というものです。これはシリア反政府軍に参加しようとしたハルナ氏にも当てはまるものであり、公安が同罪を適応して事前にハルナ氏を逮捕取り調べしていれば後藤氏を含めて今回のような悲劇は防げたのであり、日本の国益、国費に損失を与えることも事前に防げたのではないかと思われます。自民党の議員がバックにいたからそんなことはできなかった、というのであれば最早国益も愛国心も語るだけ空しいものになってしまいます。
ハルナ氏がイスイス団に捕らえられた後、後藤さんが湯川氏の救出に単身イスイス団に乗り込んだのは単なる義侠心などではなく、非公式ながら何らかのバックアップがあって行ったことは間違いないでしょう。交渉の糸口がつかめれば公式に日本政府が出る可能性もあったはずです。だからイスイス団の一部とつながりがあるとされるハッサン中田氏などには動いて欲しくなかった、ということでしょうか。しかし結局後藤さんはイスイス団に捕らえられてしまいます。政府としても非公式に何とかなるかと派遣した後藤さんが捕らえられてしまうくらいで、イスイス団とそれ以上の明確なパイプを持たないから、その後はどう対処して良いか解らなかったと思われます。この辺の経緯は永久に表に出る事はないでしょう。
今回の中東訪問で、イスイス団と比較的仲の良いイスラエルで、これもイスイス団の黒幕と言われるマケイン上院議員らと会談をして、今回の人質事件の顛末はある程度決められたと思われます。イスラエルは反アサドであり、シリア反政府軍として闘っていたアルカイダやイスイス団とは親しい間であり、こっそりイスイス団の負傷者を治療していたとも言われています。またマケイン氏はイスイス団総帥のバグダディ氏とも親しいとNYtimesにも報道されているように、イスイス団の黒幕と言って良い存在でしょう。そして今回の人質事件では「日本国民にイスイス団とは無関係ではいられないと認識させること」が目標にされました。安倍首相がイスラエルでこれらの会談が終わるとすぐに、イスイス団から一度目のビデオが出されます。今回の目標のためには人質が無事解放されてはいけない訳で、2億ドルという法外な身代金を要求して結局人質が殺されるという筋書きが当初からあったと思われます。だから具体的な交渉方法などは一切示されませんでした。
ところが一枚岩ではないイスイス団がやらかしてしまいます。後藤さんを捕らえている一派(湯川氏はまた別の所で捕らえられていたらしい)が勝手に「ヨルダンに捕らえられている死刑囚リシャウイ氏を開放すれば後藤さんを開放する」と発表してしまったのです。ヨルダン政府と撃墜されたパイロットの交換についてはかねてからイスイス上層部が水面下で交渉を行っていたのですが、パイロットは頭に血が上った末端の兵士達が既に虐殺してしまっていたから、ヨルダン政府に「もう死んでます。」とは言えない。だから日本政府がヨルダンに対策本部を置いたと聞いて、後藤氏とリシャウイ氏の交換を下部組織が勝手に言い出してしまったということです。ビデオの作り方がイスイス団公認の編集方法と役者を使っていなかったのはこのためです。
これは番狂わせであり、イスイス団上層部と黒幕氏も違った結末になりそうで困りました(安倍政権としてはこれでまとまっても良かった)。結局ヨルダン国が「パイロットの生存確認ができなければ人質交換はできない」と言ってくれたことで交渉決裂に持ち込んで、当初の目論み通りの結末に仕上げた、イスイス団公認の編集と役者で作った終わりのビデオを流したということでしょう。ビデオが流された後の日本政府の死亡の公式発表があまりに速く、幕引きを急いでいたと思われることからも決まった結末だったことが推測されます。湯川氏と後藤さんは結果的にイスイス団と黒幕氏に利用されて、「日本もイスイス団と無関係ではいられない」という認識を徹底させる役に立つ事はできました。二人が本当に殺されてしまったのか、表向き死亡したことにして命はどこかで取り留めていてもう表には出ないで生きて行くのかは解りませんが、後者であればせめてもの救いだと思います。公式ビデオは編集されていて、殆どがフェイクであろうと言われていますから。1月以降の出来事は全て中東紛争に日本を巻き込むためのプロパガンダ戦の一環と考えると合点が行きます。マスコミも全面協力していることが理解できます。