三橋美智也が不意に出てきた。私は演歌一般をよく知らず、今は神経科に常住しているナカジマさんを通じて三橋美智也の声を格別なものと認識したがまともにきいたことはない。朝マックの片隅で静かに読書している、と思われた後ろの鍔つき帽の前期高齢者系男性がやおら歌い出した。振り向くとイヤホンとモバイル機器が目に入る。私は勇気を得てYouTubeで『赤い夕陽の故郷』を再生した。店の軽快なBGMプラス低く唸るげな男声プラス。ちょうど入ってきた男子が眉を寄せた対象は私だ。よく聞こえないが以前に聞いたことのない歌。
とめてくれるなおっかさんのまた一昔前、「首相官邸や国会の周辺で、何千何万の群集を相手に演説をやらかしていた」。
胡乱(私にとって)なイメージ以外ないひとの書き物を何に触発されて手にしたのか記憶はゼロ、ようわからん字面や語彙を飛ばすにかかわらずたまに魅かれ、最後まで読むような気がする。後ろの男性は時折指とテーブルでリズムを打ちBGMをジャムる。